ドイツ・チェコ・スロバキア映画 (2003)
この映画について、IMDbに映画の製作秘話が詳しく書かれている。この映画に対する専門誌のレビューが一つも見つからなかったので、そちらを引用することにした。まず、この映画の発想について、「監督兼脚本のイヴァン・フィーラ(Ivan Fíla)は、1992年にイタリアのミラノで、観光客から盗みを働くストリートチルドレンに出会ったことで、この映画の構想を思いついた。映画制作のため、彼は子供たちが暮らすキャンプを訪れ、話をした。この映画は、こうした子供たちの実話に基づている」と書かれている。特に驚いた記述は、「撮影は2000年に開始されたが、資金難のため2001年1月に中断した。監督は撮影済みの映像のラフカット〔第一段階のカット〕を完成させ、資金調達を試みた」という点。それが叶ったのは何と2003年で、その間3年のブランク。成長の早い少年には、大変な問題だ。この点については、「撮影が2000年に始まった時、主役のバルブー役のヤコフ・クルティアソフは8歳だった。2003年に撮影が終了した時、12歳になっていた。3年間の撮影中断期間中、彼は成長しなかった。後で彼は監督にこう語った。『僕、映画を完成させるまでは成長しないと自分に誓ったんだ』」と書かれている。ただし、そんなことは不可能なので、実際に、幾つかのシーンで、8歳の無邪気なバルブーとは全く違ったバルブーが登場する。
この映画は、多くの国の会社の協力を得て作られている。ドイツの映画製作会社Lichtblick Filmproduction、スロバキアの投資会社Slavia Capital、そして、この映画の監督・脚本・制作に関与したチェコのイヴァン・フィーラの会社だ(フランス、オーストリアの映画会社も協力している)。受賞が一番多いのが、監督のチェコの最高の映画賞であるチェコ・ライオン賞(4部門受賞)と、チェコ撮影監督協会の最優秀作品賞。2004年の第76回アカデミー賞の外国語映画賞のスロバキアの代表作品でもある。しかし、映画の舞台にもなったドイツからは何の賞も受けていない。それは、ある意味、ドイツの恥ずべき汚点を主題にしていたからであろう。その「恥ずべき汚点」とは、❶バルブーの人身売買と、❷バルブーの義姉マミの売春だ。まず、❶について、SPRINGER NATURE Link(https://link.springer.com/arti cle/10.1007/s12142-010-0188-1)にあった、「Human Trafficking in Russia and Other Post-Soviet States(ロシアやその他の旧ソ連諸国における人身売買)」(2010年12月11日)という記事から、関連する部分を紹介しよう。「ソビエト “帝国” の崩壊後、ポスト共産主義の移行期の厳しい現実が容赦なく襲いかかった。自由は、新たな形態の現代奴隷制—人身売買—を伴って訪れた。世界の人身売買の被害者は、毎年約90万人に達する。強制労働をさせられた人々の推計は、400~2700万人とされる」。また、「Human Trafficking in Germany / Strengthening Victim’s Human Rights (ドイツにおける人身売買/被害者の人権強化)」というタイトルの2009年にベルリンで出版された本によると、5章「人身売買に関連する専門条約及び基準」の中の、「5.1 人身売買に関する国連パレルモ議定書」の冒頭に、「2000年の国連国際組織犯罪防止条約を補完する『人身売買、特に女性と子供の人身売買の防止・抑制・処罰のための議定書』—パレルモ議定書―は…」という書き出しから、パレルモ議定書は2000年に成立したことが分かる。しかし、「5.1.2 ドイツにおける批准」では、「ドイツは2006年にパレルモ議定書を批准した」と、6年遅れたと書かれ、さらに、「5.2.4 ドイツにおける批准と実施」では、「条約の批准は第16回国会で約束されたが、2009年5月まで そのための法案は連邦議会に提出されなかった」と、計9年の遅れが指摘されている。従って、この映画が作られた時代には、ドイツでは、バルブーが窃盗犯と見なされることはあっても〔ただし10歳以下なので逮捕はされない〕、彼を人身売買でウクライナから連れてきて、犯罪行為をさせたこと自体は、罰せられなかったことになる。次に、❷について、先の本の3章「人身売買の原因と克服への取り組み」の中の、「3.3 ドイツにおける現状」の「3.3.4 身元確認の問題」に、「ドイツで報告されている事例の少なさと、この問題の実態の推定値との間には明らかな乖離がある。未報告事例の数を特定することに伴う困難はさておき、いずれにせよ、ドイツにおける性的搾取を目的とした人身売買の被害者の大半は特定されていない」と書かれている。ドイツの対応の遅さが際立っているが、それがこの映画を生んだとも言える。
なお、人身売買でなければ、ドイツでは驚くべきことに 売春は合法〔日本には、「売春防止法」がある〕。UnHerdの「Germany: Europe’s bordello / An estimated 1.2 million men buy sex here every day(ドイツ: ヨーロッパの売春宿/推定120万人の男性が毎日ここで売春行為を行っている)(2022年11月16日)(https://unhe rd.com/2022/11/germany-europes-bordello/)には、「ドイツはヨーロッパの売春宿として知られている。全国に3,000軒以上の売春宿があり、ベルリンだけでも500軒が営業している。その性産業の年間売上は110億ポンド(約1兆8000億円)を超える。ドイツの、この “産業化された売春” は、それを生き延びた者たちによれば、恐ろしいもののようだ。ドイツの法律は売春斡旋業者を容認しており、彼らは『ビジネスマン』『マネージャー』などと呼ばれ、困窮した女性を売買している。ケルンは2001年に世界初のドライブスルー式売春宿を開設し、その後さらに多くの施設が続いた。ミュンヘンやベルリンなどの都市には “メガ売春宿” が存在し、一度に約650人の客を収容可能で、ハンバーガー、ビール、セックスがセットになった “お得プラン” を提供している」などと、信じられないようなことが書かれている。こうした記事を読むと、これまでのドイツに対する印象が ガラリと変わってしまった。
バルブー役はヤコフ・クルティアソフ(Iakov Kultiasov、Яков Культиасов)。1991年9月7日生まれのロシア人。これが映画初出演。子役として主演した他の作品には、『Карамболь(大砲)』(2006)があり、その時の写真を右下 に示す。ヤコフは、この映画で、チェコで最高のチェコ・ライオン賞の主演男優賞を受賞した。
IMDbによれば、「バルブー役のキャスティングには2年を要した。監督はヨーロッパ数ヶ国で300人以上の少年をオーディションし、サンクトペテルブルクのサーカス学校でヤコフを見出した。撮影が始まる前に、ヤコフとミマを演じるユリア・ハンヴェルディエワは、それぞれの役柄に必要なサーカス特有の体の動きを習得するため、プラハのサーカス教師のもとで1年間トレーニングを積んだ」と書かれているので、結構大変だったことが分かる。
あらすじ
映画の冒頭、「2000年の秋、ウクライナのどこかで…」と、表示される。そこに映し出される農村は、ウクライナで撮影されたものではないが、極度の貧困を感じさせる “木の壁とトタン屋根” で作られた粗末な家が並んでいる。これに似た場所が、本当に2000年にウクライナにあったのかどうか疑わしいのだが、その当時のウクライナが経済的に破綻状態にあったことは確か。その原因は、1991年12月26日にソ連邦の解体宣言(ソ連崩壊)後、ウクライナの一人当たりGDPは1991年から2000年に向けてマイナス成長が続き、一方で、ハイパーインフレが1995年まで続いた(物価は1991年の348万倍になった)。これは、主要な旧ソ連邦の共和国の中で最悪に該当する。映画は、10歳のバルブーが、13歳の養姉のミマと組んでルナ〔月という意味だが、バルブーが違う意味で使ったのかもしれない〕という名のサーカスを2人で結成し、村の広場で初公演を無料で始める(1枚目の写真)。楽しいことなど全くない村人や子供たちは、広場を囲むトタン屋根の上にも座って楽しむ。バルブーは 「ミマ、有名な曲芸師」と紹介し、ミマは、普通の人には不可能な体の屈曲技を見せる(2枚目の写真)。ミマは曲芸が終わると、「最も偉大にして、最も勇敢な世界一の軽業師」とバルブーを紹介するが、こちらは、2回の連続側転をすると、円形テーブルの上に乗って3個のボールでジャグリングをしただけ(3枚目の写真、矢印)〔ボールを使った連続ジャグリングは、プロで9個、アマチュアで7個が上限に近い(3個は超初心者)。どう見ても、ミマの方が上手〕。

すると、遠くの方から、1990年製の古いジャガーが、もう1台のお付きの車を連れて村に向かって走ってくる〔私が昔乗っていたジャガー・ソヴリンも1990年製〕。そこで、映画の標題が表示される。村の広場では、バルブーとミマが布を敷いた上で、逆立ちをしたり、踊ったりしている。すると、車に気付いたバルブーが、立ち上がると、腕を上げて指差しながら、「カルーゾが来た!」と大声で叫ぶ。カルーゾの車が広場に入って来ると、村人や子供たちは、カルーゾの車の前にぎっしりと集まる(2枚目の写真、矢印はカルーゾ)〔これだけ人気があるということは、定期的に訪れているのか?〕。カルーゾは、村人に、「娘さんを、姫君にしてやる」「この子達は、最高の軽業師だ。ドイツ語が達者になったから、誰も戻りたがらん」「故郷に戻って来る者なんか、おらん」と言ってPRする〔通訳がドイツ語をウクライナ語に訳している〕〔少女は売春婦、少年はスリや泥棒として監禁状態で働かせるので、二度と故郷には帰れない〕。バルブーは、さっそくサーカスの軽業師として売り込む。スリとして有望だと思ったカルーゾは、「いくつだ?」と訊き〔通訳が繰り返す〕、バルブーは指を10本拡げて、「10」と言う(3枚目の写真)。

カルーゾは、バルブーの家に行き、まだ若い父に、「1年目は2,000マルク〔仮に「2000年の秋」が10月とすれば、当時は1マルク=48.5円くらいだったので、2,000マルクは97,000円〕」(1枚目の写真)「使えるなら2年目に3,000マルク〔145,500円〕」と言い、通訳させる。父は、「バルブーは 一人息子だ。家で働いてもらわにゃならん。とても手放せんね」と反対する。しかし通訳は、「今3,000、来年は4,000欲しいそうです」と全く違うことを言う。一方、どうしても連れて行って欲しいバルブーは、窓の外で、手製のピンを3個使ってジャグリングをして見せる(2枚目の写真)〔1本は足の下をくぐらせるので、さっきよりは上手〕。それを見たカルーゾは、笑いながら、吸っていたタバコを手の中に入れると、一瞬の燃える火のあと、長い茎の付いた赤いバラを出して見せ、窓を開けてバルブーに渡す。そして、父に向かって、「5,000〔242,500円〕やる。ただし、1回だけ。二度と戻らないからな」と言う。それを通訳を通して聞いた父は、ウォッカを1杯飲み、ドアを開けて、「バルブー!」と呼ぶ。そして、「カルーゾが、サーカス〔Цирк(ツーク)〕に入れてくれるそうだ」と告げる。バルブーが、満面の笑顔でカルーゾに「サーカス」と言うと、カルーゾは バルブーに向かって 「大金を持って、戻れるぞ。アブラカダブラ」と言うと〔通訳する時間がなかったので、バルブーにはアブラカダブラしか分からなかったが、その直後にマジックのように…〕、5000マルクの札束が、無から “沸いた” ように、目の前にばらまかれる。父は、「新しい家が買える」と喜ぶ。

ここで、バルブーは、「で、ミマは?」とカルーゾに訊き、すぐに横に隠れるように立っていたミマを、「おいでよ」と手を掴んで引っ張り出す。そして、カルーゾに向かって、「僕たち、一緒にサーカスやってる。ルナ・サーカス。写真あるよ」と言って、2人が曲芸をしている写真を見せる(1枚目の写真)〔この間、通訳はなし。だから、カルーゾは、何を言われているか分からず、写真を見ただけ〕。カルーゾは2人の父に、「娘か?」と訊く。ようやく、通訳が、「娘さん?」と訊く。「養女だよ。両親が死んだから」。その旨、通訳が伝えると、「年は?」。「何歳?」。「13」。カルーゾは、「そうか」と言い、追加の札束〔金額不明〕を、さっきばらまいた5,000マルクの上に投げる。そして、2人に向かって、「ミマ、バルブー、サーカス」と言い、それを聞いたバルブーは嬉しくてカルーゾに飛び付くが、ミマは悲しそうな顔をしている。一方、2人の父は、床にばらまかれた札を拾い集めている(2枚目の写真)。そして、場面は、村の子供たちに熱狂的に見送られて村を出て行くバルブーとミマ、カルーゾを映す(3枚目の写真)〔背後に映った村の規模に比べ、子供の数があまりにも多過ぎないか?〕。

次に、「ウクライナ~スロバキア国境」と表示され、真夜中に、深い森の中を、通訳の後を10人近くの子供たちが走っている〔他の村でも、カルーゾは、はした金で子供を買って来た〕。その時 映る標識には、「注意/国境」とスロバキア語で書かれている(1枚目の写真)〔両国の国境は、ウクライナ西部の最南端に近い。最南端はハンガリーとの国境〕。そこに、国境警備員たちが犬を何匹か連れて現われ、不法侵入者を追いかける。自称・軽業師のバルブーは、巧みに木を登って行き(2枚目の写真)、枯れ枝の茂みの中に隠れる。しかし、ミマをはじめとする他の子供たちは全員捕まり、連行されて行く(3枚目の写真、矢印はミマ)〔ミマはバルブーの方を見ているが、彼が木を登って行ったのに気付いていたのか?〕。

早朝、木から降りたバルブーは、森から出て野原を駆け下りて行く。かなり明るくなり、田舎道に出てからも走り続けていると、下の方に町が見え、道路をカルーゾの車が町に向かって行くのが見える。バルブーは、「待ってよ、カルーゾ!」と叫んで、車を追う(1枚目の写真、矢印は車)。町では、お祭りが行われていて、カルーゾも踊りに加わって楽しんでいる。町までやって来たバルブーは、カルーゾが踊っている隙に、彼の車にこっそり入り込む(2枚目の写真)。そのあと、カルーゾが近くにいた偉そうな警官〔肩章がいっぱい〕に賄賂を払い、昨夜捕まった子供たちの釈放を依頼する。上機嫌になったカルーゾが車に戻ってエンジンをかけようとするが、挿(さ)しっ放しのキーがどこにもない。ひょっとしたらポケットに入れたのかもと探してもないので困っていると、後部座席からキーが差し出される(3枚目の写真、矢印)。“一体どいつ” が、とカルーゾが振り向くと、何と逮捕されたと思っていたバルブーがキーを持っていたので、彼は、喜んで笑い始める(4枚目の写真)。

上機嫌のカルーゾは、「信じられん! どうやって、やった?」と笑いながら言うが、バルブーは相手が何を言っているのか分からないので、ただ笑顔でいるだけ。カルーゾは、「さあ、お出で」と言うと、後部座席に腕を伸ばし、バルブーの体ごと持ち上げて助手席に座らせる。そして、感心したように、「バルブー、バルブー」と言って胸をポンポン叩くので、その意味だけはバルブーも理解できる。そこで、バルブーは、「カルーゾ、カルーゾ」と、カルーゾの胸をポンポン叩く。カルーゾは、町から車を出す。走っている最中に、バルブーは、自分とミマが写っている以前カルーゾに見せた写真を取り出し、ミマを指しながら、「カルーゾ、ミマは どこ?」と訊く(1枚目の写真、矢印)。カルーゾにも 「ミマ」は理解できたので、「大丈夫、バルブー、問題ない。解決した。すぐ戻る」と言い、それでは相手が理解できないので、指を動かしながら、「ミマ… バルブー… 一緒〔zusammen〕」と言うと、バルブーも同じ動作をして、「いっしょ〔zusammen〕」と笑顔で言ったので、カルーゾは、「分かったのか、一緒!」と満足そうに笑う。ここで、場面は夜の駅となり、「フメンネ(Humenné)、スロバキア」と表示される〔国境から直線距離で35kmほど離れた町〕。カルーゾはバルブーを連れて列車に向かう(2枚目の写真)。そして、発車間際の列車のドアを開けると、プラットホームなどないので、バルブーを抱き上げて線路から車内に上げると、自分も両脇の手すりをつかんで乗り込む。客室には向かわず、入ってすぐのトイレのドアを開けて2人で中に入る。ドアを閉め、ロックすると、天井の四角い板をポケットに入れた器具で開け、「心配するな。ベルリンで待ってる。OK?」と言って持ち上げようとするが、バルブーは、意味不明で ミマが心配なので 「それで、ミマは?」と訊く。カルーゾは、天井の穴にバルブーを押し上げながら(3枚目の写真)、「ミマなら、すぐに… 一緒だ」〔ミマ、一緒だけ理解できた〕「急げ! 中に入れ」。カルーゾは、穴の中に手を入れると、バルブーを穴から離れた奥に押し込み、「動くな、じっとしてろ」と言う。「どこに行くの?」。カルーゾが、このウクライナ語をなぜ理解できたのかは分からないが〔もしかして、質問とは無関係に言ったのか〕、カルーゾは 「ベルリン、ベルリン、迎えに行く〔Da hole dich ab〕」と告げる。その時、発車の合図の笛が鳴る。カルーゾは、黙っているように、口に指を当てて 「しーっ」と言うと、急いで穴の蓋を元に戻し、トイレから出て、ゆっくりと動き始めた列車のドアから降りる。

列車が動き出すと、それを待っていたように、黒革のジャケットを着た怪しげな男がトイレに入って来たので(1枚目の写真、“穴” ではなく、その横の通気口から見たところ)、バルブーは奥に隠れる。すぐに、さっき入った穴が開き、そこから男が黒い鞄を奥に押し込み、穴を閉じる。バルブーは、男がトイレから出てったのを確かめると、鞄を開けて中を覗き、中から大きなマトリョーシカ人形〔ロシアの入れ子(大きな人形の中にそれより小さな人形が入っている)構造の人形〕を取り出す(2枚目の写真)。電気機関車に牽かれた列車は、ベルリン市街地の高架橋の上を走って行く。バルブーのいる狭い天井裏のスペースにも、細長い小窓があり、列車が大きな街に近づいたのが分かる。バルブーは、男が鞄を取りに来る前にトイレから抜け出さないといけないと思い、内側から穴を外して 男の鞄と一緒に飛び降りる(3枚目の写真)。そして、トイレのドアをこっそり開け、誰もいないことを確かめると、黒鞄を持って出口近くの乗客の中に潜り込む。

カルーゾが、バルブーを連れて行こうとトイレの前まで行くと、ドアがばたんと開き、黒革ジャケットの男が 「コンチクショウめが!」と叫びながら飛び出て来る(1枚目の写真、矢印は開いたままの天井の穴)。驚いたカルーゾが開いた穴からバルブーと呼んでも返事はない。カルーゾは、ホームから駅の中まで、バルブーを必死に探すがどこにもいない。仕方なく、駅から出て車に戻ろうとすると、何とボンネットの上にバルブーが笑顔で座っている〔どうやって車を探したのだろう? あり得ないと思うのだが〕。カルーゾが、笑いながら車まで行くと、バルブーは 「どこにいたの? ベルリン、ベルリン、迎えに行く〔Da hole dich ab〕」〔以前、カルーゾが言った言葉を覚えていた。ただし、“Da hole dich ab” の部分は、少し発音が違っていたが〕〔ドイツ語字幕がないので、ヒヤリングに苦労した〕と笑いながら言う。カルーゾも、「迎えに来たぞ、この子ネズミ」と言うと、バルブーを抱き上げ、2人で 「ベルリン、ベルリン!」と叫ぶ(3枚目の写真)。

車が走り出すと、バルブーは、「カルーゾ、見て」と言うと、「アブラカダブラ」と手を回し、座席の窓側に置いておいたマトリョーシカ人形を出してみせる(1枚目の写真)。「それ、どうしたんだ、バルブー?」。バルブーは人形の上下を順に外しながら、「世界一の、偉大な奇術師」と言い、小さくなった人形の頭の上で、「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」と言いながら、頭を外し、残った胴体の中身を、差し出したカルーゾの手の上にあける(2枚目の写真)。手の中は30個以上の磨いたルビーで一杯になる。カルーゾは、最初、まさかという顔になり、次いで、思わぬ大金が手に入ったことで笑い出す。彼は、嬉しさのあまり、うっかりブレーキをかけたので、中身が車の中に散らばってしまう。カルーゾはさっそく、高架橋の下に車を停め、ドアを開け、跪いて1つ残らずルビーを集め始める。そして、ある程度集めると、バルブーに向かって、「驚いた。何だか、知ってるか? ルビーだ! 本物のルビーだ!」と、1個取り出してみせる(3回目の写真)。ルビーのことなど知らないバルブーは、「ルビー?」と訊き、カルーゾは、「ルビー、ルビー」と歌うように繰り返し、バルブーも同じように繰り返す。

車が、郊外の廃棄された工場の間を走り、奥にある頑丈な鉄扉の所まで来ると、クラクションが鳴らされる。すると、如何にも悪人らしいチンピラが扉を手で押して開ける。その先には、道路に大きな水溜まりがあり、サーカスの古びたテントと、古くて汚い移動式住居が3つ見える(1枚目の写真、右上は窓ガラスの汚れ)。車は、水溜まりの中をゆっくり進むと、サーカステントの入口の前で停まる。いち早く助手席のドアが開き、サーカスが大好きなバルブーがテントに向かって走って行く。中は暗いが、サーカスで使われた器具が残っている。そこにやって来たカルーゾはサーカスの王様(König der manege)にしてやる」と言い〔ドイツ語の “manege(マネージャ)“ は(サーカスの)円形演技場や(乗馬学校の)馬場を指す言葉、ドイツ語のサーカスの正式な言葉は “zirkus(ツーコス)”(チェコ語の “manéže” はドイツ語の “manege” にスペルや発音が似ているが、こちらはサーカス)。なぜ、カルーゾは、“König der Zirkus” と言わなかったのだろう?〕、バルブーを抱き上げ、「サーカスの王様!」と叫び、バルブーも 「サーカスの王様!」と、言葉を真似て叫ぶ。カルーゾは、「ウンパッパ」と歌いながら楽しそうに「サーカスの王様!」ともう一度叫び、バルブーも真似する。バルブーは床の上で連続側転を始める。さっき、鉄扉を開けたチンピラは、親分の異様な態度に驚き、「あいつ、何やってんです?」と訊く。カルーゾはそれには答えず、「国境越えの賄賂に、金がかかり過ぎだ。今度から、ガキは 北〔ポーランド国境〕回りで入れる。他のガキはどうなった?」と訊く。「ディモのトコに きのう届きやした」。「そこに置いておけ。後で売り払う。奴の姉もいる。ミマだ。二度と会えん」。すると、バルブーが一輪車に乗りながら、「カルーゾ… ミマ… 今、どこ? いつ、ここに来るの?」と訊く。カルーゾは 「まだ、途中だ。もうすぐ着く」と笑顔で嘘を付くと〔バルブーは、後で、この言葉を覚えていたことが分かる〕、照明を点け、「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。最高のショーの始まりです。紳士の方々、淑女の皆様、ようこそ、いらっしゃいました… ナイフの王様に」と、派手な格好で 昔使った文言を並べると〔これも、バルブーには分からないが、その派手な格好がサーカスらしいので喜ぶ〕、ナイフを円盤の標的に向かって投げる(3枚目の写真)〔かつては女性が上に固定され、円盤が回転した〕。そして、残った1本をバルブーに投げさせると、チンピラに向かって、「磨けば光るダイヤの原石だ」と言う。それに対し、チンピラは親分に向かって、「どうだか… こいつ、面倒起こしますぜ」と反論するが、カルーゾは 「違う。この道化師には才能がある。直に稼ぎ頭だ。マルセルに付けろ。数日したら一緒に行かせる」と指示する。

カルーゾがいなくなると、チンピラは、バルブーに 「おい、道化師!」と大声で呼びかけと〔声の厳しさから、バルブーは 理解できなくても、自分に言われたことは分かる〕、手に持った長い鞭を巧妙に使って、照明を消す。その後、移動式住居の間を、チンピラが乱暴にバルブーの手を引いて歩かせ、一番左にある薄赤い住居のドアから、バルブーを入れる(1枚目の写真、矢印)。バルブーと一緒に中に入ったチンピラは、ベッドにダラダラと横になっていたマルセルのシャツを掴んで引っ張り起こすと、壁に頭を付け、「怠けモン! 寝てるだけで、ロクな稼ぎもねぇ。もう一度、痛い目にあいてぇか」と脅すと、ナイフを取り出し、「顔を切り裂くぞ。いいのか? 何とか言え!」と怒鳴る(2枚目の写真)。マルセルは 「やるよ」と言う。ナイフをしまったチンピラは、「新入りだ。仕込んでやれ!」と言って出て行く。チンピラがいなくなると、マルセルは、机らしき古い家具を蹴飛ばし、「くそったれ野郎!」と怒りをぶつける。そして、バルブーには、「おい、相棒、どっから来た?」と訊く。返事がないので、バルブーにはドイツ語が分からないと分かる。次に、「俺… アルバニア、ティラナ〔アルバニアの首都〕」と、ゆっくり言うが、それでも通じない。そこで、「アルバニア、アルバニア」とくり返し、両手をバルブーに向け、「お前は?」と訊くと、何となく意味は通じ、「ウクライナ(Україна)」と答える。マルセルは、握手の手を伸ばし、「マルセル」と言い、バルブーは 「バルブー、サーカスの王様」と言って手を握る。マルセルは、「サーカスの王様か… 俺も似てる。巧いこと、おだてられた。気をつけな。ごまかしたら、ぶちのめされる。団結だ、お互いに」と注意すると(3枚目の写真)〔こんな長いドイツ後、バルブーに分かるハズがない〕、最後に頭をポンと叩き、「相棒(Kumpel)」と言う。

自分の居住区に戻ったカルーゾは、何かの薬を注射器に入れ、空気を抜いている(1枚目の写真、矢印)。そこに、頭を丸坊主にした女性(ジュリー)が、杖をついて入ってくる(2枚目の写真)。ジュリーが腕をまくると、カルーゾは、「新薬だ。これで 楽になる」と言って注射する。注射が終わり、ジュリーの顔が苦しみから解放されると、昔、カルーゾがラステリと名乗っていた頃、サーカスで、さっきバルブーが見た “回転する円盤” に固定された若きジュリーに向かって、火の点いたナイフを次々と投げている姿が映る。カルーゾは、昔ペアを組んでいたジュリーに、「チビの道化師を連れてきた。ラステリの再来だ。奴の才能には、びっくりするぞ。俺も、あれくらい お前に打ち込んでた。そっくりだ」と言う。その頃、カルーゾの居住区の前の広場では、鞭を持ったチンピラが中央に立ち、バイクに乗った少年たちが “バイクを使った窃盗の訓練” で叱られている。「まるでダメだ!」「下手くそ!」「遅すぎる!」(3枚目の写真、矢印はチンピラが肩に掛けていたバッグ)「何を モタモタしてる!」。最後に、マルセルが後部座席にバルブーを乗せ、チンピラから上手にバッグを盗み取る。チンピラは 「よし」と言い、それを窓越しに見ていたカルーゾも にんまりする。

恐らく その日の夜、カルーゾは、ストリップバー 兼 売春宿の店カサブランカと、多数の路上売春の首謀者であるカルーディナルという名の男と、一対一で賭けポーカーをやっている。最初に映る手は、カルーゾのAとKのフルハウス(1枚目の写真)。彼は、1万マルク〔48.5万円〕を掛け金に上乗せする。すると、自分の手を見たカルーディナルが、その1万に、さらに2万を上乗せする〔計145万円〕。現金のあり合わせがなかったカルーゾは、バルブーにもらったルビーを全部出すが〔この方が、遥かに高価〕、ルビーの買取価格を知らないカルーディナルは、現金でないのを理由に拒否する。そこで、カルーゾは、店の前に停めておいた別の車の奥に隠しておいたミマ(3枚目の写真)を 部下に連れて来させる。ミマを見たカルーディナルは、「小さな膣だ。目玉になる」と満足し、カードを開けて勝負することに賛成する。カルーゾは、自信を持ってフルハウスとしては最高ランクの自分の手を見せるが、相手は、最高位のロイヤルフラッシュだった(4枚目の写真)〔自分の店でやっているので、どうみても、いかさま賭博〕。

その夜、負けた憂さ晴らしに ぐでんぐでんに酔っ払ったカルーゾが帰ってくると、移動式住居から外に出て来たバルブーが、「カルーゾ」と声をかける。その声を聞いたカルーゾは、「おお、バルブー」と笑顔で言うと、お腹に手を当ててお辞儀をする。バルブーも、「おお、カルーゾ」と言って 同じようにお辞儀をする。それを見たカルーゾは、バルブーを抱き上げて肩の上に乗せたり、四つん這いに歩く自分の背中に乗せたりして遊ぶ(1枚目の写真)。そのカルーゾの愚かな行為のお陰で、カルーディナルに “味見” をされたミマは、裸の上に布だけ被せられた姿で、「バルブー、聞こえる? 神様、ひどすぎる… ひどいわ」と泣く(2枚目の写真)。一方、カルーゾは、バルブーを背負ったまま、自分の居住区の廊下を跳ねながら走ってくると、ジュリーの部屋の前でバルブーを下ろす。そして、「ジュリー がいる。わが天使。分かるか、“天使(Engel、エンゲル)”」とバルブーに言い、両方の手を羽のように動かす。ウクラウナ語の天使(Ангел、アンヘル)と発音は少し違うが、理解したバルブーは、「天使だね」と言う。カルーゾは、ジュリーにドアを開けるよう求める。「連れてきてやったぞ、チビの道化師を… 我らが王様だ」とまで言う(3枚目の写真)。バルブーは、「王様」とだけ、ドイツ語で言う。しかし、ドアは開かない。ドアの中では、ジュリーが、飲んでいたワイングラスを顎に入れて遊んでいる(4枚目の写真)。

酔っ払ったカルーゾは、気が変わりやすく、「ジュリー、聞いてるか? 開けろ、畜生!」と怒り始める。しかし、ドアは閉まったまま。バルブーに見られていることなど忘れたカルーゾは、廊下の先の自分の部屋にある大きなゲームマシンまで行くと、鍵を開け(1枚目の写真)、中にある山のような札束から2束を取り出すと、「お前は 俺の金なしじゃ、生きられん… 過去の亡霊に過ぎんくせに!」と怒鳴る(2枚目の写真)。バルブーは、カルーゾの部屋に入って行くと、床に散らばったお金を集めてゲームマシンの中に入れる。それから恐らく1時間以内。カルーゾの部屋では、レコードがかけられ、カルーゾはバルブーを抱いたままソファに腰かけて眠っている。起き上がったバルブーは、壁に貼ってあるたくさんの写真を興味深く見ている。それらは、カルーゾがラステリと名乗り、サーカスの花形として、ジュリーと一緒に活躍していた時の写真だった(3枚目の写真)。

翌朝、バルブーは、マルセルの 「起きろ、相棒! 起きるんだ!」の言葉で、ようやく目が覚める〔昨夜は、遅くまで起きていた〕。ベッドの上で目をこすっているバルブーに、マルセルが 「さあ、起きて、起きて。出かけるぞ、稼ぐんだ! お金(Beute、バイテ)だ、お金。分かるか?」と声をかける。「“バイテ” って何?」。マルセルは、顔の前に飛び出しナイフを出すと、「銭(ぜに)、カネ、現ナマ、キャッシュ、みんな “バイテ” だ。金(きん)、銀、宝石、高価な物、みんな “バイテ” だ」(1枚目の写真)「いいか、行くぞ」と言うが、これらの単語、特に前半は隠語なので、バルブーは戸惑った顔のままだ。この “サーカス” に拘束された子供達が、如何にも貧相な朝食を食べていると〔バルブーは見ているだけ〕、そこにジュリーが入ってくる。バルブーは、昨夜カルーゾが使った言葉を覚えていて、「ジュリー… わがてんし」とドイツ語で声をかける。ジュリーは、「そして あなたが、“チビの道化師” なのね。ラステリの再来の」と言うと、初めて女性らしい笑顔を見せる(3枚目の写真)。バルブーは、「ぼく、バブー。サーカスの王様」と言う。ジュリーが 「あなたのお姉さんは(Deine Schwester)?」と訊くと、なぜか、バルブーにはこの言葉が理解でき〔姉(Schwester)という言葉がバルブーに対して使われたことはなかった〕、しかも、「ミマ、もうすぐ ここ つく」と、嬉しそうにドイツ語で答える(4枚目の写真)〔これも、以前、バルブーがカルーゾにミマのことを訊いた時の、「まだ、途中だ。もうすぐ着く」と比べて、単語も構文も違う。どうしてドイツ語で返事できたのだろう?〕。それからしばらく2人の楽しいやりとりが続く。

ジュリーがバルブーと別れ、部屋に戻ろうとすると、途中で会ったカルーゾに、「小さな道化師は、今日現場に出る。戻って準備してやれ」と指図される。バケツと水を用意したジュリーは、移動式住居の中に持ち込み、バルブーをきれいにする準備に入る(1枚目の写真)。ジュリーは行った主な行為は、バルブーの顔を水の中につけて洗ったこと。ウクライナから来てから、一度も洗っていなかったに違いない。次のシーンでは、髪をとかしてさっぱりしたバルブーが、新しい服を着て、ジュリーと一緒にマルセルの乗った車に連れて行かれる場面(2枚目の写真)。ジュリーは、これからバルブーがやらされることを思い、悲しそうな顔をしている。車には、カルーゾも待っていて、「マルセルが消防士のゲームをやってくれる。楽しいから、気に入るぞ」と言うと、「ベルリン、ベルリン!」とバルブーの分かる言葉で励まし、バルブーも「ベルリン、ベルリン!」と嬉しそうに返す。バルブーが車に乗ると、運転席のチンピラがルールを教えるようマルセルに指示する。マルセル:「サツに捕まったら、こう言うんだ… いいか、『僕 10歳です。逮捕できません。孤児院に入れて下さい』」。そして、「くり返せ! 後に続いて!」と言うと、1節ずつ、マルセルが話し、同じ言葉をバルブーに言わせる(3枚目の写真)。最後に、「で、さっさと 立ち去る。分かったか、相棒?」と言う。チンピラは、「そらで覚えろ! 今夜までだ!」と言う〔バルブーは、一体どこまで理解できたのだろう?〕。

都心の高架下で2人は車から降ろされる〔ここが、マルセルの降りる定位置〕。マルセルがバルブーを連れて向かったのは、大きなショッピングモール。全面ガラスのエレベーターで上の方の階に行くと(1枚目の写真)、マルセルは 「やるぞ、相棒(Kumpel、コンペ)」と言い、「消防士になってろ」と、そのフロアに置いてある玩具の消防車にマルセルを乗せ、「ちゃんと見てろ。手本を見せる」と言う〔これが、カルーゾの言っていた “消防士のゲーム”〕〔映画を観ていると、マルセルがバルブーに普通に指示しているように思えてしまうが、バルブーは、何を言われているのか分からないことを忘れてはならない〕。前後に少しだけ動く消防車に乗りながら、バルブーは、意味も分からず、マルセルをじっと見ている。そこは、女性服の売り場で、多くの服が、何本かの長いステンレスの棒に密にぶら下がっている。マルセルは、見つからないように、服の下のスペースに潜り込む。そして、床にハンドバックを置いて服を取り出そうとした女性を見つけると、服の下から手を伸ばし(2枚目の写真、矢印)ハンドバッグを引っ張り込み、すぐに中を開けて財布からお金を抜き取ると(3枚目の写真)、急いでハンドバッグを元に戻す。次のシーンでは、2人はベルリンの真ん中を貫通して流れるシュプレー川 の河畔を走っている。かなり寂れた場所なので、都心から地下鉄か高架のSバーンに乗って来たに違いない。2人は廃棄された大きな工場の中に入って行くと、誰もいない広場でボールを蹴ったり、じゃれ合ったりして遊ぶ。そのあと、マルセルは暗い室内の階段下にバルブーを連れて行くと、盗んだお金を取り出して数え、「上々だな」と言って札束を置いてから、一部を抜き取り、「お金はすぐ隠せ。バカヤローに取り上げられる前に」と教える(4枚目の写真)。そして、半分バルブーにも渡すと、「隠すんだ、靴に」と言って、折り畳んだお札を靴に隠して見せ、バルブーも真似をして、同じように靴の中に隠す。「誰にも見せるな。でないと、ぶちのめされる」。バルブーは頷くが、言葉が分かったとは思えないので、自分たちがやったことを見て、危険なことだと感じたのであろう。そのあと、外に出た2人は、ゆっくりくつろぐ。マルセルは、「カルーゾはチャンピオン、泥棒の王様だ」と言い、バルブーも、ドイツ語で、そのままくり返す。

バルブーは、「ねえ、チャンピオン。サーカスいつから始まるの?」と訊く。後半はドイツ語ではないので、マルセルは 「何て?」と訊き返す。「サーカス(ツーク)。サーカス(ツーコス)」〔以前、何度も、カルーゾは、サーカスのことを “manege(マネージャ)” と言っていて “zirkus(ツーコス)” とは一度も言わなかったのに、なぜ、バルブーは言えたのか?〕。マルセルは、「ああ、サーカスか。まだ、分かってないんだな、相棒(コンペ)」(1枚目の写真)「危険が迫った時だけ、サーカスになる」と言い、さらに、別のルールを教える。「逃げ出さない。捕まったら、死ぬぞ」。そして、手を首の左から右に動かし、「首を刎ねられる」と動作で示す。しかし、何も分からないバルブーは、動作が好きなので、笑顔になって、手を首の左から右に動かしながら、「くび はねられる」と言う(2枚目の写真)。それを見たマルセルは、「分かってないな。行くぞ」と言うしかない。一方、可哀想なミマは、カルーディナルから、どのようにドイツ語で お客に言えばいいか復唱させられている(3枚目の写真)。それが済むと、カルーディナルは 「俺の、可愛い妖精。小さな姫君だ」と嬉しそうに言い、頬を撫でる。

マルセルは、稼ぎ高がまだ少ないので、スクーターを盗んで来る。獲物を見つけ、「お金(バイテ)だ」と言うと、目出し帽を2人とも被り(1枚目の写真)、サーカステントの横でやった練習の時のように、後ろに腰かけたバルブーに、男性に抱き着いている女性が腕にぶら下げたハンドバッグ(2枚目の写真、矢印)を、ひったくらせる。ここで、場面はサーカステントの中に変わり、カルーゾの後ろに座ったチンピラが、「まじかよ。8350マルク〔40.5万円〕。新記録だ」と驚く。窃盗品を並べた台の前に、6人が並んでいる(3枚目の写真)。カルーゾは6人の前を歩きながら、「なんで、そんな しけたツラしとる? いい働きだった。最高だ。いつも こうだといいが」と褒めると笑顔になり、「じゃあ、食ってこい! 子豚のローストだ。新しいゲームボーイ〔任天堂の携帯型ゲーム〕も やるぞ」と言い、テントから出て行かせる。

カルーゾは、列の一番最後に付いて出て行こうとしたバルブーを、「バルブー!」と声をかけて止め、手で招きながら、「こっちへ来い」と呼ぶ。そして、バルブーが窃盗品を並べた台の前まで来ると、カルーゾはお札をかき集め、「みんな、お前のものだ」と言いながら、天井に向けてばらまき、「蓄えてやるから… すぐ、金持ちになって… 自分のサーカスが買える。バルブー、伝説の道化師」と笑顔で呼びかける(1枚目の写真)〔もちろん、バルブーには理解できない〕。2人は、「バルブー、伝説の道化師!」と叫びながら、テントの中央で遊ぶ。しかし、バルブーが 「カルーゾ、ミマどこ? もう、2回 来るって言ったよ…」と訊くと、「ミマはな… 国境で送り返された」と別の嘘に変える(2枚目の写真)〔これも、バルブーには理解できない〕。「分かったか? 家にいる。パパとママと。しばらく、そこにいるってさ」。カルーゾが言ったことが何一つ理解できないので、バルブーが悲しそうな顔をしていると、カルーゾは 「心配するな。すぐ戻って、ミマを連れて来る。誓うぞ! 約束だ」と、真面目な顔で言う。バルブーは、カルーゾの顔を見て、何かしてくれると思い、涙目ながら微笑みを浮かべる(3枚目の写真)。

それを見たカルーゾは、「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。最高のショーの始まりだよ」と言って両手を叩き、左手を一瞬下げてから上げると、パッと切符が出て来る。そして、「モンド・サーカスが 開演中だ」と言う(1枚目の写真、矢印)。シーンはすぐに変わり、モンド・サーカスが映り(2枚目の写真)、熊が演じる曲芸を見て、カルーゾとバルブーが心から嬉しそうに笑っている場面へとつながる(3枚目の写真)〔カルーゾはサーカスのスターから悪人になってしまったが、バルブーのことは、本心から好いている〕。

翌日、マルセルはバルブーを、エスカレーターを間近に見下ろせるガラス窓まで連れて行く(1枚目の写真)。目的は、金のありそうなターゲットを見つけること。すると、キャリーケースの長い引き手にハンドバッグを乗せた太った女性〔夫と一緒の旅行者〕を見つけ、いいカモだと思ったマルセルは、下に降りて後を追う。バルブーは、マルセルが何をしようとしているのか分からないので、マルセルの顔を見ながら後を付いて行く。マルセルが立ち止ってじっと見ていると、夫婦は大量の荷物をロッカーに入れようとするが、ロッカーが小さ過ぎて入らない。そこで、荷物をそこに置いたまま、係員を探しに行く。それを見たマルセルは、荷物に近づくと、ハンドバッグを瞬時に奪い(2枚目の写真、矢印はマルセルの手、その後ろにバルブーがいる)、さりげなく通り過ぎる。2人は、屋外のトイレに行き、マルセルがさっそくハンドバッグを開いてお札を数える。「4000〔20万円〕以上ある!」と喜び、一部をバルブーに渡すと、新たなルールを教える。「正しいカモを つかむこと」(3枚目の写真、矢印はお札)。

マルセルは、十分稼いだので、「店じまいだ。楽しもうぜ!」と言い、2人で遊園地に行く。映画に映るのは3種類のアトラクション。1枚目の写真は、最後のジェットコースター。そのあと、2人は、キックボードに乗ってスピードを競う(2枚目の写真)。そこに、チンピラともう一人のワルが乗った車が乗り付け、チンピラが、「靴だ」と言う。バルブーは、どうしていいのか分からないので、マルセルを見ると、彼は靴を脱いで手に持つ。「裏返せ」。するとお札が落ちる。バルブーも、マルセルに倣って靴を脱いで手に持ち、裏返すと、やはりお札が落ちる(3枚目の写真、矢印は靴の中に隠したお札が落ちる方向)。

その夜。サーカステントの中で。窃盗品を並べた台の上の価値を調べたチンピラが、「2000〔10万円〕もない。少な過ぎんか? 全員ノルマ以下だ」と怒る〔マルセルは4000マルク以上稼いだ。遊園地で遊んだ分を引いても、そんなには減らない。キックボード2台を買ったのだろうか? 後で、マルセルに “隠し金” があることが分かるが、この日は、“隠し金” の置き場には行っていないので、理由は不明〕。ここで、カルーゾは、「チビを出してやれ」と口を出す。チンピラが、「ですが…」と言うと、カルーゾは激怒し、「出せと 言っとるんだ!」と怒鳴ると、持っていた酒のビンを叩き割る。チンピラは、バルブーの手を掴むと、テントから外に出す。カルーゾは、「誰が、食わしてやっとる!」と5人に向かって怒鳴る。そして、一番左端にいる少女に、「ドラッグストアが、お前のシマだろ? クズには興味ないと、何度言わせるんだ」と詰問する。「今日は、さっぱり… 厄日です」。カルーゾは 「厄日など ない!」と言うと、頬を引っ叩く。「お前のノルマは?」。「500〔24000円〕」。「明日から800〔39000円〕に上げる。ダメなら鞭打ちだ」。少女は、仕方なく頷く。カルーゾが次に行ったのが、生意気にタバコを吸っているマルセル。カルーゾは、「なぜ、お前にバルブーを預けたと思う?」と訊く。「俺が 稼ぎ頭だから」。「そうだ。なら、どう応えるべきだ?」(2枚目の写真)。「信頼」。「その通り、信頼だ」。そう言うと、「鞭打ち20回」と命じて出て行く。他の4人が出て行くと、マルセルはチンピラにより手酷い罰を受ける。バルブーは、テントの外で、マルセルの悲鳴を聞いている。そこにやって来たカルーゾは、「二度とやるな。絶対」と言って(3枚目の写真)、去って行く〔この言葉も、当然、バルブーには分からない。しかし、何らかの警告であることくらいは、悲鳴から理解したであろう〕。鞭打ちが終わり、マルセルがテントの外に放り出されると、心配したバルブーは、「あいぼー(コンペ)! マルセル!」と叫んで駆け寄ると(4枚目の写真)、何とか助け起こす。

バルブーの助けを借りて、何とか移動式住居のベッドまで辿り着いたマルセルは、鞭で叩かれた背中を上にしてうつ伏せにベッドに横たわる。背中の傷は、ジュリーがくれたバスタオルが覆っている(1枚目の写真)。マルセルは、「ありがとよ、相棒(コンペ)。俺は 追い出され… 他のクソに、売り飛ばされる。ベルリンにも、いられない」と、明日どうなるかを話す。そして、「よく聞け… 川にあった ビル… 川(フロス)だ、分かるか、川」。「かわ(フロス)だね?」。「そう、川だ」。「中に入り… 屋上へ… 顔が描いてある。死人の顔だ」(2枚目の写真)「死人(なぜか、英語のdead)、いいか?」と言うと、血のついた指で、ベッドの横のホワイトボードに、「DEAD」と縦に書く。バルブーは、「しにん(デッド)」と復唱する。「隠し場所だ。全部出して、ビアンカに渡せ」〔なぜ、このドイツ語が通じたのだろう?〕。そのあと、マルセルは床の木を板の下から銃を取り出す。「これ 本物だぞ、相棒。コルト45。最高の奴だ」。マルセルは、弾丸を抜くと、銃を壁に向けて引き金を引く。そして、「お前にやる。くそったれを 吹っ飛ばせ」。そう言うと、バルブーに拳銃を握らせ、壁に向けて引き金を3回引かせ、撃ち方を教える(3枚目の写真、矢印)〔映画にはないが、この後、マルセルは抜いた弾丸を戻し、いつでも実弾を撃てるようにした〕。

翌朝、マルセルは連れて行かれる(1枚目の写真)。そのあと、チンピラによって、いつもの場所に連れて行かれたバルブーは、「1000〔48000円〕か、鞭打ちだ。いいな?」と言われ、頷く。車から降りたバルブーが、まず向かったのは、昨夜マルセルに指示された “川” の横にある、以前マルセルと遊んだ廃棄された大きな工場。屋上に出ると、確かに派手な絵が描いてあり、「DEAD」と書いてある。マルセルは教えなかったが〔それとも、映画にはないが、詳しく教えたのか?〕 、物を隠せるような場所は、両目の穴しかない(2枚目の写真)。そこで、目の穴に置いてある煉瓦をどけると、左目の穴の奥に、布で包んだ物が入っていて、中にはお金と女性用のアクセサリーが入っていた(3枚目の写真)。

バルブーは、ビアンカについて、どこにいて、何をしている女性か一切教えてもらっていなかった〔少なくとも、映画の中では〕。しかし、恐らく、詳しいことは聞いていたに違いない。ただ、問題は、どうやってそれを理解できたか、という点にある。バルブーは、路端で客を待っている売春婦のビアンカに向かって、「ビアンカ」と声をかける。振り向いたビアンカは、「何の用?」と訊く。「ぼく、ようじ、あなた」。「おちびさんが、私に用事? いいこと… どっかへ、さっさと消えちゃって」(1枚目の写真)。「ぼく、ようじ、あなた… プレゼント、マルセル」。この 「マルセル」で、初めてビアンカは注意を惹かれる。「マルセル? 知ってるの?」。「くる」。ビアンカがバルブーのいる物陰に入って行くと、「マルセル、でてく… アリ、連れてった、マルセル、じどうしゃ…」(2枚目の写真)。そして、「これを、あなたにって」と言うと、「DEAD」の穴から出した布と中身をビアンカに渡す。もらったビアンカは笑顔になる。「マルセル、ビアンカ、あいする」(3枚目の写真)。ビアンカは、「ありがとう。嬉しいわ」と言うと。バルブーの頬にキスすると、「いい、相棒君ね。名前は?」と訊く。「バルブー。サーカスの王様」。そう言うと、ポケットからバルブーとミマの映った写真を出して見せる。「あなたのお姉さん?」。「ミマ、すぐ、ここくる」。「バルブー、あたし、あなたのお姉さん知ってるわ。故郷じゃない。来る途中でもない。もう、ここにいるの。カーディナルのカサブランカに」(4枚目の写真)「分った?」。「何なの? カーディナル?」。「監禁されてるの。売春宿の中に」。そして、外を見て、他の売春婦と話しているカーディナルを指して、「あいつよ。世界一のクズ。毎晩、ああやって、金を回収してる。毎日、一人とセックスさせるの。クズよ。最低のクズ」。「ころしてやる」〔映画は、急に不思議な展開となり、それはそれで面白いのだが、ウクライナから連れて来られた10歳の少年が、4日ほどベルリンにいただけで、急に、相手が話すドイツ語がある程度理解できるようになり、ドイツ語の単語を並べて話すことまでできるようになるとは信じ難い〕。

それを聞いたバルブーは、ビアンカの制止も行かず、車に乗り込んだカーディナル目がけて銃を持って突進する。そして、ドアを開けると、「バルブー、怒った!」と怒鳴る。「何しやがる! 気違い チビ助!」。「これ、ほんもの!」(1枚目の写真、矢印)「コルト45。サイコーのやつ。くそったれを、ぶっとばす」〔かなり発音が間違っているが、一応、マルセルが言ったことを真似ている〕。カーディナルは、ただのオモチャだと思い、「やってみな、カーボーイ」と馬鹿し、「誰なんだ、チビ助?」と訊く。バルブーは、拳銃の向きを変え、ガラス窓に向けて1発発射し、ガラス窓に穴が開き、残りの部分は全面に細かなヒビが入る。こうなると、情勢は全く違ってくる。相手は子供でも、持っているのは本物のコルト45〔最強の銃〕で、撃ち方も心得ている。バルブーは、「ミマ、じゆうにしろ!」と怒鳴る。カーディナル:「この気違い!」。「黙れ! この、ゲス野郎! 吹っ飛ばしてやる!」。カーディナルは仕方なくエンジンをかけ(2枚目の写真)、ヒビだらけで見えないガラスを手で落とす。そして、車を走らせ、カサブランカに向かい、店の前に車を停める。バルブーは、すぐにドアを開け、銃を向けたまま車の後ろまで走って後退し、運転席から降りて来たカーディナルを狙い続ける(3枚目の写真)。次は、階段を登るカーディナルが映り、後ろから銃を向けたバルブーが、「歩け、バカ野郎。ゲス野郎!」と怒鳴り、カーディナルが、ウクライナ語を真似して、「げすやろう」と言うと、「とっとと歩け!」と怒鳴り、カーディナルが “この生意気のクソガキ” とでも言うように一瞬振り向くと、「振り向くな!」と、また怒鳴る。

ミマが客といる部屋まで来ると、「ミマ、ここから 出よう!」と呼びかけ、男には、「貴様、ここで何やってた?」と顔に銃を向けて怒鳴り、男が逃げ出すと、「ムカつくドイツ野郎め! 貴様ら地獄に落ちろ!」と悪態をつく(1枚目の写真)。しかし、1枚目の写真の左から、騒動を聞きつけたカーディナルの部下がこっそり近づくと、右手の掌根〔しょうこん、手のひらの小指の付け根〕で、バルブーの首を強き叩き、床に倒す。そして、「殺してやる! このクソガキ! 二度と できんように!」と何度も蹴飛ばすと、意識を失ったバルブーを残し(2枚目の写真)、ミマを連れ去る。次のシーンでは、カーディナルがバルブーをサーカステントの前の水溜まりに放り込み、「クソガキめ… 戻って きやがったら… ミマの頭が吹っ飛ぶぞ!」とバルブーに怒鳴り、カルーゾには、「返してやる」とだけ言って立ち去る。カルーゾは、水の中からバルブーを抱き上げると、笑顔で、「派手にやったな、アル・カポネ。カーディナルも、危うく漏らすトコだ」と話しかける。バルブーは 「カルーゾ… ミマ、故郷 違う… ミマ、カディナル」と言うが(3枚目の写真)、カルーゾは 「俺には、さっぱり分からん。見当もつかん」と嘘を付く。「ミマ、あなた、自由?」。「ミマを自由に? そう単純じゃない、道化師君。ビジネスだ」。「ビジネス なに?」。「金だ。現ナマが必要だ。大枚10万〔485万円〕だ」〔掛け金の代わりにした時は、145万だった〕。「おかね? 10まん?」。「ああ、10万だ」。「ミマ、じゆう?」。「そうだ。自由だ。一緒になれる」。「分かった。10まん。ミマ、じゆう する」。

バルブーは、マルセルと一緒に出かけた初日に 連れていかれたショッピングモールに行く(1枚目の写真)。そして、女性服の売り場に行き、マルセルがやったように、服の下のスペースに潜り込み、女性が床に置いたハンドバッグを引っ張り込む(2枚目の写真、矢印は手)。次は、エスカレーターを見下ろすガラス窓からターゲットを選ぶ(3枚目の写真)。ターゲットになったのは、大きな革カバンを持った男性。ATMで現金を引き出し、大きな革カバンの上に置いた小さなバッグに札束を入れて、歩き始める。そのあと、オープンな公衆電話が並んでいる場所で、電話をかける。その隙に、バルブーは、大きな革カバンの上に置かれた小さなバッグを掴んで(4枚目の写真、矢印)、さっといなくなる。

その夜のサーカステントで、カルーゾは札束を数え、「もう、5000〔24万円〕貯まったぞ、稼ぎ頭君。よくやった」と褒める(1枚目の写真)。「あと、いくら、ミマ、じゆう?」。「95000。長くはかからんさ」。あれだけ頑張っても20分の1しか稼げない。このまま順調にいっても、ミマを自由にするのに19日もかかる。そんなにミマを苦しめられないと思ったバルブーは、思い切った行動に出る。それは、酔っ払ったカルーゾが、ジュリーに対して怒った時、ゲームマシンから出した大量の札束を盗んでやろうという発想。深夜、バルブーはカルーゾの部屋に行き、ソファに腰かけて眠っているカルーゾが首にかけた紐をハサミで切り、その紐に通してあったマシンの鍵を奪う(2枚目の写真、矢印はハサミと鍵)。そして、マシンの前に布を敷き、中に入っていたお札を全部布に開け(3枚目の写真)、布で包んでサーカスの入口の扉まで行き、お金の袋を反対側に投げたあとで、扉をよじ登って外に出る。バルブーは、大金の入った袋を持ってカサブランカに向かって走る。

バルブーは、ミマのいる部屋が分かっているので、建物の端の樋を登り、さらに建物本体の側面にある梯子を登る。そして、ミマの部屋の窓まで来ると、窓のガラスを叩き、「ミマ」と呼ぶ。窓のところまで来たミマは、バルブーを見て笑顔になる(1枚目の写真)。「ミマ、さあ、逃げよう!」。「捕まっちゃうわ」。「大丈夫。急ごう。ラスト・チャンスだ」。「ダメよ、バルブー」。「さあ、勇気を出して、行こう!」。ミマは、急いで はおる物を取りに行き、窓から出て梯子を降りるが、振り向くとカーディナルが睨んでいた。逃げようとするが、反対側には手下がいて、「このチンコロ! また、来やがったのか。この、ド心臓めが!」と怒鳴り、バルブーを激しく突き飛ばす。カーディナルは、倒れたバルブーに拳銃を突き付け、「貴様、何て言われたか、覚えてねぇのか? ぶっ殺されたいんだな?」と威嚇する。バルブーは、「10まん。ミマ、じゆう」と言う。その言葉とは関係なく、カーディナルは、バルブーが持っている包みを開くと、中から大量の札束が出てくる。バルブーはもう一度、「おかね。おねがい、カディナル。ミマ、じゆう」という。今度は、バルブーの言葉を理解したカーディナルは、「金(かね)だと?」とだけ言うと、手下に、「(バルブーを)捨てて来い」と命じる。裸にされたバルブーは、バンの後ろの床に放り込まれ、床の上でゴロゴロ転がりながら、巨大なゴミ捨て場に連れて来られる。手下は、バルブーを担ぎ出すと(3枚目の写真、矢印)、ゴミの上に捨てて帰って行く。一方、カルーゾは、朝になり、マシンが開けられ、お金がなくなっているのに気付く。バルブーもいないことから、「奴は どこだ?!」と激怒してチンピラともう一人の監視係を掴むと、「俺の金を盗んで フケやがった。この間抜けどもめ、何してやがった? どめくらめ!」と怒鳴りまくり(4枚目の写真)、最後には鞭で叩き、「連れ戻せ!」と命じる。

一方、恐らくゴミ処理場の職員に発見されたバルブーは、児童保護施設のような場所に連れて来られる。映画は、その1室で、裸の上から毛布を掛けられたバルブーに、2人の係員が質問している。 女性がドイツ語で訊き、男性が、なぜかチェコ語で質問をくり返す。「名前は?」「住所は?」「心配しないで」「助けて、あげたいの」「ひどい傷だわ」「誰が やったの?」などと声をかけるが、バルブーは、「ぼく 10さいです。たいほできません。こじいんにいれてください」と、以前、暗記させられた言葉を口にする。次に女性は、虐待されて発見された子供数名の写真を見せる。「エレナよ、両手両足を折られてた」「ゴランよ、廃人に されたの」「この子は殺された。名前すら分からないの」。その男の子は、マルセルだった(2枚目の写真)。それを見たバルブーは衝撃を受ける(3枚目の写真、矢印は写真)。女性はすぐに、「よく知ってる子 なのね?」「友達が殺されたのよ。残酷なやり方で」「彼の 名前は?」「最後に見たのは、いつ?」「話して、お願い」「教えて ちょうだい」と訊くが、バルブーは、同じ言葉をくり返す。

そのあとで、恐らく、所員はバルブーに服を着せた。だから、夜になってバルブーが施設から逃げ出した時には、ちゃんと子供服を着ている。バルブーは、またカサブランカまで走って行き、樋を登り始めるが、そこに車でやって来たカルーゾが、襟をつかんで引きずり下ろす(1枚目の写真、上向きの矢印は登ろうするバルブー、下の矢印はカルーゾ)。カルーゾは、バルブーをサーカステントまで連れて来ると、中央の床に投げ出し、「この、くそガキ!」と怒鳴り、鞭を振るう(1枚目の写真、矢印は鞭)。そこに、鞭の音とバルブーの悲鳴に気付いたジュリーが、銃を持って入って来て、「お止め!」と一喝する。カルーゾは、「うるさい! 失せろ!」と言っただけで、また鞭を振るう。ジュリーは、今度は、持って来た銃を両手で持ち、カルーゾに狙いを定めて、「お止め!」と言う(3枚目の写真、矢印は銃)。しかし、鞭打ちを止めないので銃を撃ち、弾は手に当たる(4枚目の写真、矢印は撃たれた手と、倒れたバルブー)。ジュリーは、倒れたバルブーの頭に触れ、バルブーはよろよろと立ち上がる。ジュリーは、次に、カルーゾに銃を向け、「跪け!」と命じる。銃がこめかみに突き付けられているので、カルーゾは仕方なくバルブーの前に跪くと、「悪かった、バルブー。許してくれ」と謝る。しかし、ジュリーが銃を向けながら、バルブーと一緒に出て行こうとすると、「この、くそったれ、あま! くたばっちまえ!」と怒鳴る。

ジュリーは、バルブーをカルーゾの車に乗せて、水溜まりに静かに入って行く(1枚目の写真)。傷を負ったままテントから出たカルーゾは、銃の音で集まって来た手下2人と子供4人に、「失せろ! 出てけ! 貴様らの顔など見たくない!」と怒鳴り、全員を追い出す。そして、手下が使っていた車に乗ると、まだ通路にいたチンピラに水をザブンと掛けてジュリーを追いかけていく(2枚目の写真、矢印はチンピラ)。カサブランカに着いたジュリーは、1人で車から降りると、入口のガラス戸の中に立っていた用心棒を射殺し、中に入ると、ストリップバーは無視し、階段を上がる途中で、見つけたカーディナルを撃ち殺す(3枚目の写真)。そして、ミマの部屋に行き、ミマを連れて建物から出てくる。それを見たバルブーは、ミマのところまで走って行き、3人で車に向かう(4枚目の写真)。

その時、銃声がして、ジュリーが倒れる。カメラは、倒れたジュリーの顔を映す(1枚目の写真)。すると、画面が変わり、恐らく、ジュリーが死ぬ前に思い浮かべたシーンが映る。それは、若い頃のカルーゾとジュリーが空中ブランコをしている場面。左の方から、ブランコを離れて飛んできたジュリーが、カルーゾの手をつかめず(2枚目の写真)、落下していく〔この時の大ケガが、体の不自由な今のジュリーを生んだ〕。倒れたジュリーに駆け寄ったバルブーは、「ジュリー、だいじょうぶ?」と声をかける(3枚目の写真)。そこに、カルーゾが近づいてきたので、バルブーはミマを守るように体を起こす。すると、カルーゾは、「立ち去れ。失せろ」と意外なことを言う。バルブーが 「ジュリー、たすける」と言うが、「立ち去れ」と繰り返す。バルブーとミマは、2人を残して、手をつないで逃げて行く(4枚目の写真)。

バルブーとミマは、駅まで走って行くと、動き始めた客車に飛び乗る。ジュリーがどうなったのかは分からないが〔死んだことは確かだが、放置されたのか、サーカステントまで運んで来られたのかは分からない〕。サーカステントの中に入ったカルーゾは、肩に “栓を開けたガソリン携行缶” を担ぐと、体を回転させてガソリンを振りまく。そして、回転する円盤にむかって、火の点いたナイフを次々と投げる(2枚目の写真)。しかし、ガソリンがまかれているので、円盤の火はテントに燃え移り、さらに、車に向かって伸びて行き、車も爆発する(3枚目の写真)。映画の最後は、バルブーとミマが、生まれ故郷の村に向かって走って行く場面で終わる(4枚目の写真)〔ベルリンからウクライナに行く直通列車はない。2人がどういうルートを選び、どうやって何度も国境を越えたのかは謎〕。
