アメリカ映画 (2018)
アメリカの中程度の国立大学ヴァージニア大学の医学部には、DOPS(知覚研究部門)という部門がある。その起源は、1957年に精神科長になったIan Stevensonにある。彼は、翌1958年のアメリカ心霊現象研究協会の “超常的な精神現象と死後の世界との関係” の最優秀論文コンテストで、「転生の記憶からみた生存の証拠」という論文で優勝したことから分かるように、異例な分野に強い関心を抱いていた。彼は1966年に多額の資金援助を受け、大学を辞め、前世の記憶を持つ子供たちにインタビューするため、年平均88000キロを移動し、2000件以上の事例に遭遇し、14冊の本を含む300冊以上の出版物を執筆した。医学部長は、超心理学に傾いたStevensonの辞任を喜んだが、学科よりは小さな “人格研究部門” 学部内に残した。それが、今でもDOPSとして続いている。そのサイト(https://med.virginia. edu/perceptual-studies/our-research/)を見ると、「前世を覚えている子供たち」というのが、主要な研究テーマとして上がっている。なので、その信憑性は別として、ちゃんとした大学が、こうしたテーマを研究対象としているという現実を認識した上で、この映画を観ると、絵空事という批判から一歩踏み込んで楽しむことができる。Stevensonの研究によれば、①子どもが前世の記憶を保持しているのは、2歳から5歳くらいまでのごく短い期間で、②彼の研究対象者の多くは、指の変形、耳の発育不全、下肢のない生まれなど、珍しいあざや先天性欠損症を持っており、傷跡のような色素欠乏性のあざやポートワイン母斑、ほくろがほとんど見られない部位(足の裏など)のひどく奇妙なほくろもあった。この映画の主人公ローレンスは5歳で、上記①の許容範囲内だし、顔には②の大きなポートワイン母斑もある。映画の “現実性” を高めるため、Stevensonの研究を脚本に反映させたのかもしれない。映画では、母の突然の事故死、前世で殺された少女の住む町に引っ越したという2つのショックにより、ローレンスに前世のおぼろげな記憶が蘇る。引っ越した先は、産業が廃れた小さな町で、今は町一番のワルになった男バーニーの15-16歳の娘ジュライ・レイン〔“7月の雨” という変わった名〕が、少なくとも6年以上前に行方不明になり、それ以後、ジュライ・レインの名は口に出すことが禁句になっていた。そこに現れた5歳の子が、故郷で執り行われた母の葬儀の後の集会で、バーニーの母の前でジュライ・レインの名を言ってしまい、それがバーニーに伝わると大事に発展する。最初は、誰もが、ローレンスはどこかで偶然その名を耳にしただけだと思い込んでいたが、ローレンスの記憶が他にも出て来ると、ローレンスの父レイの姉〔この町で。副保安官をしている〕が、州都から専門の心理学者を呼んで、甥っ子を調べてもらう。その結果、ローレンスの前世がジュライ・レインだった可能性が指摘される。それを、心理学者を脅迫して聞き出したバーニーは、ローレンスをジュライ・レインとして愛する一方で、事件の解明に向けて暴力も辞さない決意を見せる。そして、そのターゲットとなったのは、姉の上司の保安官の弟の牧師だった。映画は、前世の有無を別とすれば、大きな破綻なく、緊張感を維持したまま進行し、超心理学を肯定する人も否定する人も関係なく、観客を満足させてくれる。
ローレンス役は、アジー・ロバートソン(Azhy Robertson)。2010年生まれ。2016年からTVドラマやショートムービー(計5作)に出演し、本格的な映画出演は2018年の『Juliet, Naked(15年後のラブソング)』から。この映画は、12作目の出演。代表作は、129個もの賞を獲得した『Marriage Story(マリッジ・ストーリー)』(2019)と『Come Play(ラリー/スマホの中に棲むモノ)』(2020)。
あらすじ
映画は、妻メイズが自動車事故で重体だとの情報を受けて、中東での陸軍の軍務から急遽戻ってきた夫レイが、死の間際の妻メイズの足元で悲嘆にくれるところから始まる(1枚目の写真)〔心拍数を示すピッピッという音がするので、まだ死んではいない〕。レイはそのあと、レイの家でメイズの両親が世話してくれていた7歳の息子ローレンスを見に行く(2枚目の写真)。
恐らく 数日後〔メイズの死の場面がない〕、レイが疲れてベッドで横になっていると、ローレンスが指の先で、腕を触る(1枚目の写真)。中東での戦闘の結果、体の接触には敏感な父は、すぐに目を覚まして、ローレンスの手首を掴む(2枚目の写真)。それを見た祖母は、「ローレンス、パパを眠らせてあげなさい」と言うと、キッチンに連れて行き、果物を食べさせる(3枚目の写真)。結局、レイはそのまま起きてキッチンに来ると、窓の外をじっと見つめる。そこに入って来た祖父〔レイにとっては義父〕が、妻に 「検視官が輸送を手配してくれたので、そこ〔墓地のある故郷の田舎〕で会える」と話すと、レイが 「彼女は俺が連れて行く」と言ったので、「分かった。じゃあ、向こうで会おう」と喪主の意見を尊重する〔レイとメイズは同じ田舎の町の出で、彼女の両親も同じ町に住んでいる〕。
場面は、いきなり、レイがGMCというライトトラック会社のvandura vanの中古車の後部にメイズの遺体を乗せて、出身地の田舎に向かうシーンに切り替わる。助手席には寡黙なローレンスが乗っている。レイが 「山の空気はどうだ、相棒?」「お前をここに連れて来ようっていつも言ってたんだが、ママはいつも反対したんだ」と話しかけても、何も言わない(1枚目の写真)。このシーンで、①ローレンスの顔の左側には大きなポートワイン母斑があること、②父の故郷に行くのは、これが初めてだということが分かる。レイは、葬儀屋の裏に車を停める。次のシーンでは、メイズの遺体の前にレイとローレンスが立って、最後の別れをしている(2枚目の写真)。遺体の墓地への搬送は葬儀屋の専用車が行うので、レイはローレンスを助手席に乗せると、シートベルトを掛ける。その時、一人の男(牧師のヒルシュ)がやって来たので、ローレンスは、「パパ」と呼びかける。レイは、チラと見て、「心配するな、相棒、ヒルシュ牧師だ」と言い、ドアを閉めながら牧師と握手する。ローレンスは、レイに話そうと窓を手で叩き、「パパ」と呼ぶが、レイは 「止めろ」と言う。それでも、ローレンスは指でトントンと叩く(3枚目の写真、矢印)〔重要なシーン〕。
そのあと、レイはローレンスを連れてガソリンスタンドの併設店に入るが、中に感じの悪い少女がいて、「わっ、気持ち悪い〔gross〕、ママ」と言うと、ローレンスをスマホで撮影する(1枚目の写真、矢印)。そこに、レイが現われたので、少女は逃げるように立ち去る。気分を害したローレンスが、棚のスナック菓子の袋を2つ床に投げ始めると、レイは、ローレンスの前で膝を曲げて目線を合わせ、「ああいう奴らは、一生かけてユニークになろうとする。お前は、生まれた時からそうなんだから、運がいい」と慰め(2枚目の写真)、チップスの袋を1個選ばせる。さっきの少女は、ガソリンスタンドの給油計量機を挟んで反対側に止まっていた母の車に乗ろうとして思わずローレンスの方を見てしまう。それを見た母親は、レイのすぐ近くを歩きながら、平気で 「あの子、見ないで」と注意する。それを聞いたレイは、バンの後ろからハンマーを取り出すと、差別して平気な母と娘の乗った車の助手席の窓を叩き割る(3枚目の写真、矢印は “なくなった窓ガラス”)。それを見たローレンスは笑顔になる。
レイは、自分が生まれ育った家に バンで乗り付け、ローレンスに 「ここは、おばあちゃんとパパの家だ」と言う〔ということは、レイは母子家庭で育てられたことになる。そして、祖母は映画に出て来ないので、早死にしたとしか思えない〕。家の中は、家具に布が被せてあるわけではなく、ごく普通の家のようで、長らく誰も住んでいなかったとは思えない。ただ、電気だけは切ってあったので、分電盤をオンにして使えるようにする。ローレンスが家の横の森の前で遊び、レイがベランダに座って時間をつぶしていると、辺りが薄暗くなった頃、パトカーがやって来る。降りてきたのは、地元に残って副保安官になったレイの姉キャロライン。2人は、久し振りに抱き合う(2枚目の写真)。キャロラインが 「一体何があったの?」と訊くと、レイは 「トラックがどこからともなく現れた。平日の真っ昼間に」と事故の説明をすると、「最初の便で帰ってきた」と 自分のことも話す。すると、ローレンスが 「おまわりさんのマロー」と呼びかける(3枚目の写真)〔レイやローレンスも苗字はマロー。キャロラインの姓がマローなら、彼女は未婚もしくは離婚〕。初めて会ったキャロラインは 「まあ、ローレンス。その通りよ、私は警察官のマロー」と言い、レイは 「お前の伯母さんのキャロラインだ」と補足する〔初めて会ったのに、どうして同姓のマローだと分かったのか?→ 重要なシーン〕。レイが 「挨拶しろよ」と言うと、ローレンスは 「あなた、いい人」と変わったことを言い〔この言葉も、ローレンスがキャロラインを知っていることを示唆している〕、それを、聞いたキャロラインは、「とうとう会えて嬉しいわ」と笑顔で答える。その後で、キャロラインが、メイズの両親と一緒にいるのかと尋ねると、レイは 「ここに残るよ」と言う。
このあと、警察官のマローは、スナックバーに立ち寄るが、そこには、町一番のワルのバーニーという中高年の男が、手下の男と悪巧みについて相談している。手下が出て行き、バーニーも席を立ってマローの背後まで来ると(1枚目の写真、矢印)、マローは 「あんたの友だち、誰?」と訊く。バーニーは 「SNSで知り合ったのさ」と答えると、「レイが町に戻ったって聞いた」と言う。「そうよ」。「メイズは、フォード150トラックによって神の元に行ったとか」。「誰かを失うことの辛さを知っている人なら、もう少し共感してくれると思ったのに」。「娘のことは話すな」。翌朝、家の外で、ローレンスは、歌うようにメロディーを口ずさみながら踊っている(2枚目の写真)〔あたかも、チアリーダーのように〕。そして、家の中に入った2人をさらに驚かしたのは、ローレンスがこれまで一度もやったことのない行為で、彼は 口の周りに口紅を塗りたくっていた(3枚目の写真)。レイが 「何してる? そんなことやめろ」と叱ると、ローレンスは 「パパ、ぼく どうして、今度は男の子なの?」と訊く〔重要なシーン〕。
メイズの埋葬の日は、運悪く雨(1枚目の写真)。ヒルシュ牧師が 『伝道者』の12章7節の 「塵はもとの土に還り、霊はそれを与えた神に還る」から話し始めると、すぐにローレンスが、牧師の顔をじっと見つめる(2枚目の写真)。そして、すぐにレイの右腕を何度も引っ張り始める。しかも、大きな声で 「パパ?」と何度も繰り返し、牧師の言葉の邪魔になる。仕方なく、レイは 「ダメだよ、パパ、ダメだ」と騒ぐローレンスを担ぐと(3枚目の写真)、「やめんか!」と言いながら、埋葬の場から去って行く〔重要なシーン〕。
埋葬が終わると、レイの家で集会が行われる。ベランダにいて、中に入りたがらないレイと、姉のキャロラインの間では、埋葬の際のローレンスの行動が話題になるが、以前、ローレンスが 「あなた、いい人」と言っただけあって、キャロラインは 「ローレンスは大切な存在よ。メイズは、ローレンスの中であんたと一緒にいるの。毎日ね」と、ローレンスの変な行動を庇う。しかし、問題は、家の中で起きる。如何にも意地の悪そうな老女が、祖母が庇うように一緒にいるローレンスに向かって、「埋葬の際、騒いでたのはあんたかい?」と訊く。祖母が 「ローレンス、こちらは…」と紹介しようとすると、「おばあちゃん」と言う。祖母:「こちらは、ノーマ・コールマンさん〔町一番のワルのバーニーの母〕よ、ローレンス」と、今度は最後まで言う。すると、ローレンスは 「ジュライのおばあちゃん」と言う。それを聞いたノーマは、「何ですって?!」と強い調子で訊く(1枚目の写真)。「ジュライ・レインのおばあちゃん」(2枚目の写真)。ノーマは、ローレンスの祖母に向かって 「このクソ女」と最大限に失礼な言葉を吐くと、親戚一同を連れて家からさっさと出て行く。異常事態に、レイとキャロラインは家の中に入って来ると、祖母は、ローレンスに向かって、「さっき言ったことを、お父さんに言うのよ」と促す。ローレンスは 「ジュライ・レイン」とくり返す(3枚目の写真)〔重要なシーン〕。祖父が、すぐにローレンスを引き離し、後は、レイと姉だけの会話となる。最初に口を開いたのはキャロラインで、「彼に話したの?」と訊く。「彼は、ここに来てから、変なことばかり言ってるって話したろ」。「あんたが派遣されてる間、メイズが話したんじゃないかな」。「メイズはここが大嫌いだった。だから、俺たちはここを出てったんだ」。「ジュライ・レイン・コールマンは、バーニー・コールマンの娘なの。あんたたちが町を出てった時、ジュライはまだ幼児だったわ」。「じゃあ、さっきの葬儀に出てたかも」。「それは、あり得ないわね。ジュライの事件は未解決なの。彼女は行方不明になった。15歳の時。以来、誰も敢えて口にしようとしないわ。ローレンスがノーマにそれを口にしたのは、不作法を通り越して、非情に危険なことなのよ」。
レイは、簡単な遊び道具のある公園にローレンスを連れて行くと、「コールマンさんに言ったことについて、話して欲しいな。パパがいない時、ジュライ・レインについてママから聞いたのか?」と尋ねる(1枚目の写真)。「ジュライ・レイン?」。「そうだ。この辺りの小さな女の子だ。コールマンさんに話したのは覚えてるだろ? 誰かから、その名前聞いたのか?」。ローレンスは首を横に振る。レイは、「いいか、ローレンス、これはホントに大事なことだ。お前は、あの発言で何人かの感情を傷つけた。俺たちが傷つけたいのは、そういう人たちじゃない。どこであれを聞いたか、ぜひ思い出して欲しい」と真剣に訊く(2枚目の写真)。ローレンスは、「聞いてないよ、パパ」と答える〔重要なシーン〕。レイは、ローレンスが嘘を付いていると思い、怒って訊くのを止める。
レイがローレンスを車に乗せると、そこにバーニーが車で乗り付ける。レイは、助手席のローレンスが見えないよう、運転席の前に立ち、車から降りたバーニーと対峙する。バーニーは、「レイ・マロー、お前さんのガキはどこだ?」と訊くが、すぐにトーンを落とし、「お前さん、もう町を出てったかと思ってた」とも言う。そして、礼儀上メイズのお悔やみを言った後で、「ノーマは、お前さんのガキがおしゃべりだと言っとった」。「ガキって、そういうもんさ」。「そうだな、俺もそうだった」。「はっきり言えよ、バーニー」。「俺の可愛い娘が行方不明になった時、町中が鐘と警笛を鳴らして何週間も探し回った」(1枚目の写真)「ここの連中は、信仰を持ってたが、地の果てまで捜しまわり、それがなくなってしまった。その後は、誰もあの子の名を口にしなくなった。今日まで」。「誰かが話し、息子はそれを聞いたんだ。なあ、バーニー、あんたの娘さんのことは残念だが、相手は小さな男の子じゃないか」(2枚目の写真)。バーニーは、それで納得して去って行く。その日の夜、レイは お風呂に入っているローレンスに、「ここ、好きか?」と訊く。「ぼく、覚えてるよ」(3枚目の写真)。「覚えてるって、何を?」。「森で遊んでる」。「ああ、さっきのことだな?」。「ぼく、いつも森で遊んでた」〔重要なシーン〕。「疲れてるんだな、相棒。もう出ろよ」。
翌日、車に乗せられたローレンスは、通りがかった何かを指して「サンベリー」と言う。そして、次には、「セント・ルーサー教会」と言う。レイが、「ローレンス、あの教会の名前、どうやって知ったんだ?」と訊くと、「ぼく、あそこにいた」と言う。「それは、いつだった?」。「ジュライの聖体拝領」(1枚目の写真)〔重要なシーン〕。レイは、もう何も言えない。レイは公園で車を停めると、ローレンスを降ろし、「ジュライといつ一緒にいた?」と訊く。「前」。「『前』って、いつだ?」。ローレンスは、しばらく父の顔を見ていたが、そのうち、横から聞こえてくる音楽に惹かれて、90度向きを変えると、チアリーダーの練習をじっと見入る(2枚目の写真)。その時、レイのスマホに着信がある。父が立ち去り、チアリーダーを魅せられたように見るローレンスの顔がクローズアップされる(3枚目の写真)〔重要なシーン/ジュライ・レインはチアリーダーだった〕。
食堂のテーブルに座ったキャロラインは、立ったままのローレンスに、「カウンターの向こうの女性、見える? 彼女の名前 何だと思う?」と訊く〔恐らく、レイに相談を受けた〕。ローレンス:「シェリー」(1枚目の写真)。キャロライン:「みんな、シェリーは知ってる」。レイ:「彼はセント・ルーサー教会を知ってた。ジュライの聖体拝領の時、そこにいたと言ってた」。「あんた何が言いたいの? あの子に霊感があるとでも? メイズの事故のせい?」。レイは、ローレンスに、背中の後ろの指の数を訊き、ローレンスは背中の背後を覗いて3本と答える〔これで、透視能力はないことが分かる〕。今度は、キャロラインが、ジュライ・レインについて、「私の髪に似てる?」と訊き、ローレンスは首を横に振る。キャロラインはレイに、「写真を見せたらどうかな?」と提案する。キャロラインは、警察署に2人を連れて行く。ジュライ・レインは、行方不明になる半年ほど前、15歳の時、盗みを働いて逮捕された。その時に取られた顔写真が、犯罪を犯した少女達の顔写真と一緒に 各ページ6枚ずつ貼ってある記録簿のどこかにある。それを当てさせる “ゲーム” と称して、レイがローレンスにジュライ・レインを当てさせる〔写真だけで、名前などの情報が一切書かれてないのは警察の資料としてあり得ない?〕。ローレンスは、ジュライ・レインの写真を指差す(2枚目の写真、矢印)〔決定的に重要なシーン〕。レイは、「何てことだ」と あっけにとられる。キャロラインは、副保安官としての立場から、もう少し詳しく調べる必要があると思い、レイに対し、ハリスバーグ〔Harrisburg、ペンシルベニア州の州都〕の心理学の専門家で、以前、子供の精神的ショックの件で来てもらった女性に相談すると告げる。
レイは、署長と入れ替わりに、署から出て行く。資料室にいるキャロラインを見た署長は、「そこで何しとる?」と訊く。「正直言って分かりません。甥には、トラウマの兆候があります」。「コールマン事件と、何の関係があるんだ?」。「よく分かりません。だから、もっと具体的なことが分かるまで、あなたに黙っていようと思ったのです」。「コールマン事件は未解決〔証拠不足のため積極的な捜査が中止された事件〕だ」。「分かっています、署長」。「じゃあ、そこから出て行け」(1枚目の写真)〔このヒルシュ保安官は、ヒルシュ牧師の兄だが、何があったのか ある程度感づいているので、キャロラインの再捜査をことごとく邪魔する〕。一方、レイは、1人でヒルシュ牧師のところに行く。レイが妻を亡くした心痛のために訪れたと誤解した牧師は、信仰について語り始めるが(2枚目の写真)、レイは、すぐに、「俺は、自分のためにここに来たんじゃない、マーティ。息子のために来たんだ」と誤解を解くと、「マーティ、誰かが死ぬのを見たことがあるか? すぐ目の前で? 俺は(戦場で)いろんなことをしてきたし、そのせいで息子に呪いをかけてしまったんじゃないかと思うんだ」と不安を打ち明ける(3枚目の写真)。牧師は、レイのために短く祈る。
ある日、レイは警察署に呼ばれ、キャロラインの部屋で、心理学者のシェリーに紹介される。シェリーは、レイが連れて来たローレンスに、優しい笑顔で、「何て名前? 私はドクター・シェリー」と声をかける。ローレンスは床に腹這いになったきり、何も言わないので、代わりにレイが名を言う。シェリーが、「やあ、ローレンス、調子はどう?」と訊くと、今度は 「いいよ」と答える。シェリーは、立ち上がると、レイから、この町に来て以来ローレンスに起きた異常事態について簡単に説明を受けると、2人を部屋から出し、ローレンスと2人きりになる。何を話したかは分からないが、キャロラインの部屋から出て来たシェリーは、「レイモンド〔レイは略称〕、あなたは素晴らしいお子さんをお持ちですね」と言い、母を失った事故で “何かが目覚めた” 可能性を示唆し、2人をキャロラインの部屋に入れる。そして、ローレンスに、もう一度ジュライ・レインの話をしようと頼む(1枚目の写真)。そして、2人だけの対話の再現が始まる。シェリーが、「ジュライ・レインの名前、どこで聞いたの?」と質問すると、ローレンスは自分の頭を指す(2枚目の写真、矢印)。「あなたの頭の中よね?」。ローレンスは頷く。「彼女を知ってたの?」。頷く。「いつ知ったの?」。「前」。これは、以前レイが訊いた時と同じ答えだったので、レイは。「『前』って、いつだ?」と同じ質問をする。「ぼくの前」。この分かりにくい言葉に対し、シェリーが説明する。「私自身には体験はありませんが、何度も聞いたことがあります。特定の文化では、ローレンスのような特徴的なアザを持って生まれた子供は、成長する過程を非常に注意深く観察されます。彼らは、この種の子供たちには特別な才能があると信じています。彼らは生まれる前の情報を覚えているのです」。キャロラインは、シェリーの話を頭から拒否し、「一体全体何の話? 超能力について話してるの?」と発言すると、レイは 「ドクターは、ローレンスが前世の記憶を持ってると思ってるんだ。俺は中東に駐在してた。そこには多くの宗派があり、ドクターはそのことを言ってるのだと思う。彼らは輪廻転生を信じてる。ドクターは、ローレンスがジュライのことを覚えてると思ってる。なぜなら…」。ここで、シェリーが口を挟む。「彼がジュライだったから」(3枚目の写真)。ここまで来ても、キャロラインは、シェリーを呼んだ本人なのに、馬鹿らしいと笑ってしまう。シェリーは、「冗談ではありませんよ」とキャロラインを諫める。すると、今度は、先ほどは如何にもドクターの話を信じたように振る舞っていたレイが、シェリーの存在は息子の助けにはならないと宣言し、ローレンスを連れて出て行ってしまう。
レイがローレンスを連れて車に乗り込むのを見ていたのは、バーニー(1枚目の写真)。シェリーが ミニ・ボウリング場の脇の喫茶テーブルに座って資料を見ていると、その店に、後を追ってきたバーニーが2人の手下と一緒に入ってくる。そして、ウィスキーのコップを2つ手に持つと、シェリーの向かい側の席に座る。シェリーが 「空いたテーブルが一杯あるでしょ」と言うと、「シェリルン・ボモント博士、一体何をされているんです? あなたは、こちとらが知りたくてたまらないことのど真ん中におられる。レイ・モローのガキと何を話されたんです?」と、妙に丁寧に訊く。シェリーは、皮肉を込めて、「あなたと、向こうにいる不快な集団のために、医師と患者の倫理規範を喜んで破りたいところですが、私のキャリアのために控えようと思います」と言う。すると、バーニーが本性を現わす。「俺は、いつも非暴力を貫けるわけじゃない。そいつは、俺が暴力的な人間だからなのか、それとも人からデタラメを言われるからなのか、答えは出ないがね。俺は、これまでずっと嘘を聞かされてきた。俺の可愛い娘が行方不明になった時でさえ、この町じゃ、情報をくれる奴は一人もいなかった。俺が求めとるのは、ちょっとした事実だけなんだ。欲張り過ぎかね、博士?」(2枚目の写真)。そして、場面はレイの家に変わり、家の前の木で遊んでいるローレンスを前にして、ベランダで、キャロラインが一方的に話している。「あんたがこの町を出てった時、私は責めなかった。ママが最後に あんたのことを自慢してたのは、とても嬉しかった。あんたは戦争に、私は順法に」(3枚目の写真)。そのあと、話はローレンスのことになる。「私たちには なぜこんなことが起きたのか分からない。神様は、私たちがもっと違うことを望んでたって知ってる。でも、何らかの理由で、私たちにちょっとだけ覗かせてくれたのかもね。つまり、もしこれがホントだとしたら? 私たちは、それを見るに値すると思うわ。向こう側を ちょっとだけ覗く資格があると思う」。
そこに、手下2名を連れたバーニーが車で乗り付ける。全員が銃〔1人はライフル〕で武装している(1枚目の写真、矢印はライフル)。そして、いち早くレイの後ろに隠れたローレンスと話したいと要求する。レイは 「銃を下ろせば、こっちに来て話しをさせてやる」と提案し、バーニーは銃を地面に置くと、レイに近づいて行く。バーニーは、ローレンスに向かって 「可愛い娘っ子? ジュライ?」と呼びかける。レイが 「この子は、あんたの娘じゃないよ、バーニー」と言うと、「可愛い娘っ子、その中にいるのか?」と 言い方を変える。レイが 「ローレンス、こちらはバーニー・コールマン」と言うと、ローレンスは 隠れるのをやめて、「ジュライのパパだ」と言って前に出て来る。バーニーはローレンスの前に膝をついて座ると、「可愛い娘っ子、そこにいるのか?」と、心を込めて真剣に訊く(2枚目の写真)。バーニーは、さらに 「何が起きてるんだい? 話してくれよ。娘は、逝ったのか?」と尋ねる。ローレンスは頷く。「お前、変わってしまったのか? 頼む、知りたいんだ。ジュライ、お前に何もしてやれなかったこと、ごめんな」。バーニーの態度があまりに行き過ぎたので、レイがいますぐローレンスを返すように要求すると、バーニーは逆にローレンスを抱き締め、「俺の可愛いい娘を手放すもんか」と言い出す。レイはバーニーに銃を向け、それを見た手下2人が銃を向け、それを見たキャロラインが手下に銃を向ける(3枚目の写真)。レイは、「息子を放せ。そしたら、この件の真相を突き止めるまで、俺はこの町から出て行かないと約束する」と言い、バーニーは泣きながらローレンスを解放する。
翌朝、レイ、ローレンス、キャロラインの3人が町にいると、ハリスバーグに帰ったに違いないと思っていたシェリーが現われる。そして、バーニーに脅されて秘密を漏らしてしまったことを詫びる。キャロラインが、これからどうすべきかを問うと、「もしローレンスが、彼の頭の中にあるイメージと一致するような通りや店や建物を見たら、それらのイメージをパターン化し、うまくいけば記憶に辿り着くことができるかも」と言う。そこで、レイは、ローレンスに 「ゲームをやるぞ。勝ったら、パンケーキをやる」と言い、知っている物を教えるように言う。4人は、ローレンスが先導する形で町を歩き、ローレンスは知っている商店の名前を次々と口にする(1枚目の写真、矢印)。そして、最後に彼が3人を連れて行ったのは、高校の校舎の中にあるロッカールーム。ローレンスは、1つのロッカーの前で立ち止る(2枚目の写真、矢印)。シェリーが訊きに行き、そのロッカーが、ジュライ・レインのロッカーだったことを確かめる。ローレンスは、「パパ、ぼくうまくやった? パンケーキもらえる?」と訊く(3枚目の写真、矢印)。「もちろんだ、相棒」〔これで、ローレンスの前世がジュライ・レインだったことが100%確実になる〕。
キャロラインが署長にこのことを報告しようとすると、彼はキャロラインを強引に黙らせる。彼が事件を解決しようとするあらゆる行動を恐れているのは明らかだ〔ジュライが行方不明になった頃は、まだ若くて署長ではなかった〕。しかし、その目論見はあっという間に崩壊する。署長が署から出て来ると、通りを挟んだ反対側でヒルシュ牧師が数人の信者と話していて、バーニーの母は別れて階段を降りて行くところだった。署長が、署の前にいたレイに、「私たち2人〔ヒルシュ保安官とヒルシュ牧師〕のためにも、君の息子をフィラデルフィアに連れ戻してくれないか? この町の人たちに手を出すな」と、最初は頼み、最後は脅す〔この言葉で、署長は牧師がジュライの失踪に何らかの関りを持っていると知っていて、隠そうとしていることが分かる〕。すると、牧師を見たローレンスがいきなり道路に向かって走り出す。車とぶつかりそうになったのを見たシェリーが、「ローレンス!」と叫び、その声を聞いてレイも追いかける。幸い、車は間に合って急停車し、その前でローレンスは牧師に向かって腕を高々と上げ、「彼がやったんだ、パパ! 彼だ! 彼がジュライを傷つけた!」と叫ぶ(2・3枚目の写真、矢印)。レイはローレンスを抱き上げ、道路から歩道に戻す。署長は、キャロラインに、コールマン牧場に行くよう命じる。その後で、レイに対し、「弟に何かあったら、お前の責任だ」と、警官にあるまじき発言をする(4枚目の写真)〔これで、ヒルシュの兄が犯人は弟だと知っていることが明らかになる〕。
ヒルシュ兄弟は、誰もいない教会の部屋で話し合う。兄が 「バーニーは、お前がどう言うか聞きたがるだろう」と言うと、弟は 「5歳の子の言葉じゃないか」と言う。「ここの住民が、どんな奴らかお前も知っとるだろう」。「こんなに時間が経ったのに」。「今はただ、黙ってればいい。バーニーとレイのガキは俺に任せとけ。だが、聞いてくれ、もし俺たちどうしようもなくなり、限界点に達したら、お前の知ってることを明かすことを覚悟して欲しい」。「私が彼女をバスに乗せただけだなんて、誰も信じない」〔これは嘘 ⇒ ということは、兄はすべてを知らない〕。「こんなことであいつらに絞首刑にされるくらいなら、俺は最低の法執行官で、お前はロクデナシだ」。兄は、弟を守るため、署の中の自分の部屋に匿うと(1枚目の写真)、バーニーを止めるため出て行く。その頃、レイは、ローレンスとシェリーを、メイズの両親の家に預け、自分は警察署に行く。署長に会いに行ったのだが、代わりにいたのはヒルシュ牧師。一方、メイズの両親の家では、シェリーがローレンスに、「以前、どこで牧師を見たのか話してくれる?」と訊くと、ローレンスは 「森の中」と言う(2枚目の写真)。「どこの森?」。ローレンスは立ち上がると、窓のところまで行き、カーテンを開けて窓の外の森を見る(3枚目の写真)。
レイは、牧師に用はないので、署から出て行こうとする。すると、車の止まる音が聞こえたので、ブラインド越しに窓から覗くと、バーニーがいた。そこで、レイは銃を構えて署から出て行く。バーニーの前には、撃たれた警官が1人倒れていた。そして、署の中で大きな音がしたので振り向くと、どうやって中に忍び込んだのかは分からないが、バーニーの手下2人に捕らえられた牧師が出て来て、うち1人にライフル銃で顔を叩かれ、額が切れてかなり出血して歩道に倒れ込む。レイは、なるべく暴力沙汰にならないよう、バーニーに提案する。「あんたと牧師をローレンスのところに連れて行く。あの2人はここに残る。銃は置いてけ」(1枚目の写真、右の矢印はバーニー、中央の矢印はレイ、左の矢印は牧師と手下2人)。バーニーは、レイも銃を置いて行くという条件で提案を飲み、レイのバンに乗る〔牧師は、反対するが、2人の手下によってバンの後部に放り込まれる〕。2人と牧師がメイズの両親の家に着くと、警戒して祖父がライフルを持って出て来るが、2人とも銃を持っていないので、レイが牧師を連れ、バーニーがその後に付いて家の中に入ることを許す。家の中でローレンスを見たバーニーは、「可愛い娘っ子、ジュライ、こっちへおいで」と優しく声をかける(2枚目の写真)。何も知らない祖母が、その異様な態度を批判すると、バーニーは 「黙れ!」と怒鳴り、牧師が 「どうかしてる」と言うと、レイは 「うるさい」と叱り、バーニーに 「どうしたい?」と訊く。バーニーが 「俺は、その… 子から訊きたい。その子が何を見たか」と言うと、シェリーが 「どうか、お静かに」と全員に告げ、ローレンスに 「この人〔牧師〕、分かる?」と訊く。ローレンスは何度も頷く。シェリーは次に 「彼、ジュライを傷付けたの?」と訊く。ローレンスはまた何度も頷く。牧師が 「こんなの子供の空想だ」と言うと、バーニーは 「黙れ、クソが」と怒り、レイは 「大丈夫だよ、相棒」とローレンスを落ち着かせた後、「何があった?」と訊く。「彼、ジュライを殴った」。牧師は立ち上がると 「あの男が私を生かしておくとでも思うのか?」と言うが、レイはそれを無視して 「ローレンス、彼はジュライを殺したか?」と尋ねる。この運命の問いに、ローレンスは何度も頷く(3枚目の写真)。
それを見た途端に、後ろ手を縛られたままの牧師は必死に立ち上がり、バーニーは 「このクソ野郎!」と怒鳴って立ち上がる。牧師は、ドアのガラスに体当たりして(1枚目の写真、矢印)、バルコニーに逃げ出す。バーニーはレイとライフルを持った祖父に邪魔されるが、彼はライフルを取り上げて祖父の顔を叩き、レイにライフルを向けつつ(2枚目の写真、矢印はライフル)、壊れたドアから出て行く。レイは祖父から拳銃を受け取ると、そのまま走り出て、野原に向かう(3枚目の写真、矢印は銃)。そこに、キャロラインが運転するパトカーが到着し、彼女も野原に向かう。一番遅れたのは署長で、この役立たずで犯人隠蔽の悪者は、ライフルを持って後を追う。
それまでは、真っ暗な夜だったハズなのが、この先の追跡場面は昼間のように明かるいので、その辻褄を合わせるため、映画では日が昇る場面を入れて誤魔化している(1枚目の写真)。牧師は、野原を必死で逃げる(2枚目の写真)。そして、ローレンスは、野原を越えて森へと向かう(3枚目の写真、矢印)。
ローレンスが、森の中で立ち止っていると、そこに、レイが走ってくる(1枚目の写真、矢印)。その頃、牧師は、後ろ手に縛られたヒモを何とか外していた。ローレンスは、駆け寄ったレイに、「パパ、あそこだよ」と、ジュライの埋まっている場所を指差す(2枚目の写真、矢印)。それを見たバーニーは、指差した窪みに降りて行くと、積もった落ち葉を掻き分け、柔らかい地面を掘り始める(3枚目の写真)。すると、すぐに頭蓋骨が出て来て(4枚目の写真)、バーニーは泣き始める。
一方、キャロラインは牧師を発見し、牧師は両手を挙げる。そこに、署長がやって来て、キャロラインに銃を下げるよう命じるが、牧師は、「彼女〔ジュライ〕は この町にいるべきじゃなかった」と言い出す。そして、映画は過去のシーンに戻る。ジュライがマーティの家のドアをノックする。「私は彼女にそう言った。彼女はいい子だった。彼女は、世界を見て来るべきだ」。マーティがドアまで出て行くと、べそをかいたジュライが、荷物を背負って立っている。マーティがドアを開ける。ここで、兄が 「マーティ、何も言うな」と注意する。「私は彼女を愛していた」(1枚目の写真)〔過去の映像なのに、マーティがあまりにも老けている〕。「彼女をバスに乗せたのは私だ」。「黙れ、マーティ」。キャロラインは 「知ってたんだ」と言い、署長は 「銃を下ろせ」と命じ 「彼女をバスに乗せて、この町から追い出したのは、正しいことだった」と言う。牧師:「でも、彼女は真夜中に現れた」。ここで、また過去のシーンに戻り、マーティが 「冗談だろ?」と驚く。「彼女は、バスの運転手に頼んで下ろしてもらった。土砂降りの雨だった。彼女は父親に話すつもりだった。彼女は聞く耳を持たなかった。私は努力した」。ジュライが夜の森の中を走って逃げて行き、マーティがそれを追う。そして、転んで倒れているジュライを発見する。ジュライは激しく抵抗し、なぜか、マーティは大きな石を手に持つと(2枚目の写真、矢印)、それでジュライを殴り殺す〔なぜ、愛していたのに殺したのかさっぱり分からない〕。牧師は兄に謝り、キャロラインの方を向くと、いきなり近寄って行き(3枚目写真)、彼女の銃を握って発射し、自殺する。
映画の最後は、幸せそうな顔のキャロラインが映る(1枚目の写真)。署長に昇格したのだろうか? しかし、パトカーの横には、「副保安官」と書かれている。地元の学校の前までローレンスと一緒にやってきたレイは、「相棒、調子はどう?」と訊く(2枚目の写真)。「フィラデルフィアに戻ってもいいんだぞ」。「ううん、大丈夫だよ、パパ」。そう言うと、ローレンスは、レイが母斑を目立たなくするために被せた帽子を外し、笑顔で新しい学校に向かう(3枚目の写真)。