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Besos de Azúcar シュガー・キス

メキシコ (2013)

メキシコ最大の露店市場(Tianguis)のあるメキシコシティのテピト(Tepito)地区を舞台にした、純粋な愛の物語。その原点になったのは、この映画の脚本を書いたLuis Usabiagaが1971年に観た『小さな恋のメロディ』。そう言われて、この映画を観てみると、初恋の持つ一途さでは似ている面もある。しかし、社会的環境はあまりに違い過ぎる。移民も少なく、極めて安全に暮らすことのできた1970年のイギリスで、僅かな階級の上下はあるが、ごく普通の家庭に住むダニエルとメロディ。その初恋を支えるトム。観ていて楽しい映画だが、ある意味、平和裏に恋は進んでいく。『シュガー・キス』のナチョとマイラ: 片や、再婚した母の連れ子として、義父をはじめ 義弟や義妹、それに、実の母にまで虐められるナチョ。おまけに、義父は、露天市場で海賊版のDVDを売り、元締めのレティには頭の上がらないゴマスリ男、母は交通違反のもみ消しで稼ぐ交通警官。一方のマイラは、元締めのレティの一人しかいない娘。彼女には、レティのお気に入りのギャングのような息子がいる。この、地と天ほどの差のある二人が、お互い、純粋な愛に惹かれる。しかし、ナチョの義父は元締めを乗り換えようと画策中でレティから睨まれ、さらに、警察の「ガサ入れ」の際に拾ったビデオカメラを義父に奪われ、それを盗み出したことから、親子関係も最悪に転落。そして、マイラとの愛がレティに一旦知られると、それをやめるよう両サイドから徹底的に妨害される。ナチョもマイラも居場所を失い、発泡塞がりとなる。『小さな恋のメロディ』のトムに該当するカカヨは、ナチョの唯一の味方だが、トムのような実行力なく、二人の選択肢は逃走しかなくなる。それが、結末と合わせ、この映画を独自の、観たことのない世界へと誘う作品に変えている。最後に、テピト地区のGoogle Earthの全景を下に示す。黄色が主体のカラフルな通りは、すべて露天商の天幕。その数は千の単位を超えて万に達するとも言われている。

この映画は、全編がテピト地区で撮影された。日本でなら、別に大したこととは思えないが、テピト地区は、区の行政・警察の何れも汚職にまみれ、市内最大の麻薬密売拠点であり、犯罪率は市内随一。その中で過ごす13歳のナチョとマイラを撮影するには、いくら事前の地元の有力者の了解があったとはいえ、かなりの勇気が要ったであろう。映画の中の台詞は、テピト地区らしい “激しい” スペイン語で溢れている。以前、巻頭紹介にも書いたが、多くの罵詈雑言を統一的に正しく標記するため、2回以上出てくる独特の単語は、すべて異なる日本語で表記するよう、一種の辞書を作成して翻訳に当たった。

animal ボケ menso ドジ
baboso マヌケ mocoso 鼻たれ小僧
buey 相棒、おい muchacho pelado 生意気坊主
cabrón クズ野郎 naco みすぼらしい
cabróncito クソガキ ojete クソバカ
cabrona 薄情もん pendejadas バカなこと
carajo ちくしょう pendeja バカ
chingada 最悪の pendejo バカ野郎
culero コソ泥 pervert 変態
hijo de la chingada ロクデナシ pinche ちんけな
hijo de tu puta madre 外道 puerco 裏切り者
hijo de tu chingada madre ゲス野郎 puto 腰抜け
idiota とんちんかん rata ネズミ野郎
imbécil このバカ tarado トンマ、能無し
marrano だらしない tonto アホ

ただ、どうしても理解できない部分も多く、AIを利用した。ただ、以前AIには裏切られているので、同じ文を3つのAIに見せ、確認をとることにした。それでも、三者三様の場合も多く、英語字幕は全く役に立たなかったので、これほど訳に苦労したことはなかった。

映画の中に出てくるチラキルは、最初、ブローカー〔警察や役所とのパイプ役〕だと思って訳したが、メキシコの文化庁のサイト「Gobierno de México」の中で映画の脚本家Luis Usabiagaが、ラ・ディアブラのことを「警察から保護してもらう見返りに、その地区を管轄する最高責任者とベッドを共にする、路上露天商の元締め」と書いたことから、管区長(複数の警察署の統括者)、統括官(実務の現場トップ)〔何れも警察署長より上〕とみなし、校正時に訳を一部変更した。

主役のナチョ役は、César Kancino (セサル・カンシーノ)。映画初出演。この映画で、Mexican Cinema JournalistsとPremios CanacineのBest Newcomerにノミネートされた。その後、数多くの映画に出演し、現在に至っている。

あらすじ

メキシコシティのテピト地区(Barrio de Tepito)にある聖フランシスコ・デ・アシス教会の横にある広大なサッカー・グラウンドに落ちていた1枚のマットレスがめくれ上がる(1枚目の写真、フェンスの向こうは教会)。そして、動き始める。カメラの向きが変わると、中に1人の男性がいて、ウレタンマットレスの真ん中に立ち、頭で支えつつ歩いていることが分かる。そして、先程の教会の正面が見える場所まで延々と歩き(2枚目の写真)、露天商の市場の人混みの中を歩いて行く(3枚目の写真)。映画が始まってから50秒。短いようで、長く感じられる導入のシーンだ。

すると、通行を邪魔するように、1人の青年がマットレスの前に現われ、手に持った食べ物の入った小袋を差し出し、「食うか、相棒?」と訊く。この時点で、マットレスを頭に乗せていたのが、13歳のナチョ〔Nacho、本名は Ignacio(イグナシオ)〕だと分かる。ナチョは、「冗談だろ、カカヨ。僕が見えないのか?」と断る。「いらないって、言わなかっただろ」。「いいから、ふざけてないで手伝えよ。な?」。「なら、せめて 『お願い』 くらい言えよ」。「お願いだ、相棒」。こうして、ナチョはマットレスの前に移動し、後ろをカカヨが支える。マットレスがあまりに汚いので、カカヨは「めちゃくちゃカビ臭いな」と文句を言うが、ナチョは、「もうグチかい?」と訊く(1枚目の写真)。「だって、オエッてなっちまうんだぞ」。貧相なアパート(ベシンダ)に着いたナチョは、マットレスを通路(パシージョ)の壁にL字型に置き、そこに疲れたカカヨを寝かせておくと、アパートの中に入る。そして、殺虫剤の入った手押し式の噴霧器を持って出てくると、「さあ、いくぞ」と言い、カカヨの寝ているマットレスに噴霧を始める。カカヨは、「ひどいことしやがる!」と言って飛び起きる。ナチョは、マットレスを起こして手すりに立て、噴霧を続ける(2枚目の写真、矢印は噴霧された薬剤)。噴霧が済むと、「ここからが魔法さ」と言って、ガエル・ガルシア・フォー・メン〔露天商で売っている偽物の香水〕を振りかける。そこに、ナチョの祖母が出て来て、「何だい、このゴミは?」と文句を言う。カカヨが、「今日は、デルフィナさん。母がよろしくって」と丁寧に言っても、祖母は無視し、ナチョに向かって 「あんたに言ってるんだよ、この鼻たれ小僧」と中止を求めるが、ナチョも無視し、カカヨに 「そろそろ中に入れるから」と言う。祖母は、「そんなゴミ、中に入れたら許さんからね!」と言うが、ナチョは、完全に無視してマットレスを中に運び込む。祖母は口を極めて愚行を思いとどまらせようとするが、ナチョは寝室に運び込む(3枚目の写真、矢印はマットレス)〔この寝室のベッドには、祖母、ナチョ、義弟の3人が寝ている〕。祖母は、何度も文句を言い続けるが、最後に、「何てことを、お前の母さんが帰ってきたらどんな目に遭わされるか覚悟しておくんだよ、この生意気坊主! それからカカヨ、あんたは二度と来るんじゃない!」と怒鳴る。

このあと、ナチョは、露天商の市場で、義父のジョアンが開いている海賊版DVDの小さな店に行く。ジョアンはこれまで、元締めレティ〔通称ラ・ディアブラ(女悪魔)〕の傘下にあったのだが、なぜか、別の元締めチャッキー〔こちらも女性〕と親しげに話している。彼女が去った直後、ナチョは義父に 「それで、チャッキーは何の用だったの?」と訊く。「ちょっかい出すな、マヌケ!」。そう言うと、話を逸らすために、「なに持ってやがる、ちんけなネズミ小僧?」と訊く。「買ったんだ」。「『買ったんだ』だと? パクりやがったな! 見せろ」。そう言うと、ナチョが手に持っていたものを、あっという間にひったくる。「返してよ、ジョアン」。「『返してよ、ジョアン』だ? 携帯も持ってねえのに、何でこんなちんけなケースなんか要るんだ、クソガキ?」(1枚目の写真、矢印は携帯のケース)。「僕のだ」。「携帯持ったら返してやる。スポーツセンターに行ってジョセリン〔義妹〕を連れ帰れ」。義妹を連れて家に戻ったナチョ。テコンドーの黄帯を付けた肥満体のジョセリンは、先に中に入って行く時、わざと数枚のコインを床に落とし(2枚目の写真、矢印は落下していくコイン数枚)、ナチョは、床に膝を付いてコインを拾う(3枚目の写真、矢印はコイン)〔意味不明。あとで「ジョセリンに半分取られたんだ」とカカヨに言う場面があるが、恐らくこのことか? → ナチョがもらう小遣いはジョセリンが奪い取り、半分、こうした屈辱的な方法で渡すのか?〕。

その時、ナチョの帰りを待っていた母〔ナチョの実母で、交通警察官〕が、「現行犯逮捕だよ!」と言って、襟を捕まえてナチョを床から引っ張り上げると、「このちくしょう、何なんだい?」と言いながら、寝室まで引っ張って行く。「何が?」。「このクソみたいなやつ」。「僕のマットレスだよ、母さん」(1枚目の写真)。「ふざけるんじゃない、イグナシオ。あんたが家に持ち込んだ粗大ゴミはただの汚物じゃないか」(1枚目の写真)「今すぐこのクソゴミをここから放り出すんだ」と命じる。「なんでだよ?」「あたしがそう言ってるからだよ。それとも、ジョアンに言わせたいのかい?」。この言葉で、ナチョは仕方なくマットレスを頭に乗せて引き返す(2枚目の写真、以前のシーンと、同じ場所の写真を選択した)。疲れたナチョが、マットレスを駐車中の車に立て掛けて休んでいると、きれいな少女マイラが、変な光景を見て笑顔で通り過ぎて行ったので(3枚目の写真、矢印)、ナチョは後ろ姿になっても、じっと見送る。

すると、「見ろよ、あの弱虫! マザコンのガキだ! いっちょ、いじめてやるか」という声が聞こえ、年上の少年たち4人が、ボスの 「いいか、やらない奴は、クソ野郎だぞ」の言葉に従ってナチョに向かっていく。「ナチート、お楽しみの時間だぞ!」。全員でナチョを路面に押し倒し、「ナチャは 弱虫! ナチャは 弱虫!」と歌いながらポカポカ叩く(1枚目の写真)。虐めの後、ナチョは再びマットレスを頭に乗せて運び始めるが、廃墟となった5階建てのビルの前を通った時、元あった場所に戻すのはやめて、ここを休息所にしようと思い立ち、金網の隙間から中に入って、木の扉を開けてみる(2枚目の写真)。次のシーンでナチョは、ロの字形の階段を、5階までマットレスを頭に乗せたまま上がって行く(3枚目の写真、矢印)。そして、まさに廃墟同然の屋上まで着くと(4枚目の写真、矢印)、マットレスを塔屋の中に置く。

夜、寝室で、祖母と義弟のチキに挟まれて寝ていたナチョは(1枚目の写真)、パトカーのサイレンの音で目が覚める。辺りは、大勢の警官で溢れている。ナチョは服に着替えて外に出て行くと、母がいたので、「何なの母さん?」と訊く。「ガサ入れだよ」。義父の横に行って見ていると、義父が隣にいた男に、「誰がパクられた?」と訊く。「チリモヨの連中だ」(2枚目の写真)。「チラキルは?」〔管区長〕。「ウハウハさ」。警官が多くの物品を押収していていく。1人の警官が持った山のような押収物品の一番上に乗っていた小さな箱が、ナチョのすぐそばに落ち、ナチョはそれをシャツの中に入れ、箱で膨らんだ腹部がバレないよう、すぐにアパートに戻る。そしてトイレの便器に座って箱を開けて見ると、中にはSONYのビデオカメラ Handycamが入っていた(3枚目の写真)。その時、ドアの向こうで母の声がする。「中で何をもたもたしてんだよ、このノロマ!」。「待ってよ、母さん。もうすぐ終わるから」。今度は義父の声。「早くしろ、ちくしょう! 漏れちまいそうだ!」。「今、拭いてるところだから!」。「拭いてる場合か。さっさと出てこい!」。

トイレから出たナチョは、さっそく寝室に直行し、クローゼットを開けると、一番上に箱を隠そうとする。すると、いきなり、ベッド脇のランプが点き(1枚目の写真、矢印)、義弟のチキが、「母さん、ナチョのやつ、何かをこっそり隠してるよ」と大きな声で告げ口する(2枚目の写真)。飛んできた母は、「今度は何をやらかしたんだ、鼻たれ小僧?」と訊く。「何もしてない」。チキ:「しらばくれんなよ、兄貴。クローゼットの中だよ」。「何もないよ、このバカ」。母:「イグナシオ、弟にそんな口の利き方をするんじゃない。隠しているもんを お見せ」。「何も隠してないよ、母さん」。母は、「ジョアン!」と夫を呼ぶ。チキ:「クローゼットに隠したんだよ、父さん」。「どこだ? どこだ! このクソチビ! 出しやがれ!」。「何も持ってないよ」。「お前が見せるか、俺が見つけるかだ」。ナチョは仕方なく箱を取って父に渡す。箱の蓋を開けた義父が、「カセットテープか?」と言うと、ナチョは 「カセットじゃないよ、トンマ」と言う(3枚目の写真、矢印)。そこ言葉に怒った義父は、「思い上がるな、ナチョ」と言い、頭を叩く。「どこで拾った?」。「さっきのガサ入れの時、ちんけなポリ公が落としたんだ」。それを聞いた交通警察の母は、「そんな風に呼ぶんじゃない、マヌケ」と叱る。義父は、「俺が、真っ当で、一人しかおらん持ち主にちゃんと返してやる」と嘘を言って持って行こうとする。ナチョは 「僕が一人しかいないホントの持ち主だ」と言うが、「話は終わりだ」。義父が箱を持っていなくなると、ナチョは母に、「あのバカ野郎の思い通りにさせちゃうの!?」と不満をぶつける。「お黙り、イグナシオ。あんたが持ってるもんは全部ジョアンのおかげなんだからね! 聞いてんの!? 何から何までだよ!」。「僕の父さんなら、こんなこと絶対にしないよ。「寝言言ってんじゃないよ。あいつはバカ野郎だった」。「そうでもないよ。少なくとも国境を越えたんだから、偉いじゃないか」。「あぁ、ナチョ! あのクズ野郎はね、あたしたちを野良犬みたいに置き去りにしたんだよ!」。これで、なぜ母が密売屋と再婚したのかが分かる。

別の日、玄関のドアを乱暴にノックする音が響き、トイレにいた義父に呼ばれたナチョは、「見てこい。俺は留守だからな」と小声で言われる。ナチョがドアの前まで行き、「誰?」と訊き、返事がないのでドアを開けると、ドアを叩いていたのは、ブライアン〔通称:チキブキ、義父の露店の元締めレティの長男〕で、彼の後ろにはレティもいる。チキブキは、「義父を呼びな、コソ泥」と命令する(1枚目の写真)。ナチョがすぐに動かないと、「さっさと呼べ、それともここでブチのめされたいか!」と迫る。ナチョは、「ここにいないよ、チキブキ」と答えると、「チキブキって呼ぶんじゃねえよ、バカガキ!」と叱られる。ナチョは、今度はレティに、「ここにいませんよ、奥さん」と言う。レティは、「いるに決まってるだろ、ちんけなチビ。あいつのあのクソ臭い香水の匂いが、ここまでプンプン漂ってきてんだよ!」と言うと、チキブキはナチョの胸をドンと突いて中に入り、レティも後に続く。2人は、勝手に居間まで行くと、レティが、「どこだい?」と訊く。ナチョは。トイレを指差す。チキブキはトイレのドアを叩き、「いつまで中にいやがる。ドアを開けて欲しいんか?」と脅し、義父は 「どーも」と言いながら低姿勢で出て来ると、ナティに向かって 「おいマヌケ、俺がいないなんてよく言えたな」と叱り、レティに向かっては 「ご命令のままに、レティさん」と言う。チキブキは 「みかじめ料だよ、この腰抜け」と言い、義父は、「はい、今すぐ」と言った後で、「レティさん、はっきり言っちゃって悪いんですが、俺たちを守るって約束されたの覚えてますか? だったら、この前の夜にチラキルが仕掛けたあのガサ入れは、一体どういうことなんですか? あんまりですよ、ちくしょう」と不満を漏らす。これに対するレティの返事は、「バカ言ってんじゃないよ、あんた。あれは必要だったんだ。どっかのロクデナシが調子に乗って、あたしの縄張りで許可もなしに密輸品を売ったり隠したりするのを、黙って見過ごせるわけないだろ?」(2枚目の写真)。それを聞いた義父は:「ですよね… そりゃダメですよね…」と、低姿勢に転じる。そこに、レティの毒矢を放つ。「で、あんたはどうなんだい、このコソ泥? まともな品を売ってんだろうね?」。義父は必死に弁解する。「もちろんです、レティさん。ウチのはとびきり上等の海賊版DVDですよ」。「バカ野郎のフリすんじゃないよ、クズ野郎。それと、みかじめ料だ!」。義父はショバ代を取りに行く。その背中に向けて、2つ目の毒矢が放たれる。「もうあたしの耳に入ってるんだよ、ジョアン、あんたがチャッキーとイチャついてるってね、このクズ野郎」。義父が 「ありえませんよ、レティさん」と言うと、レティは 「『ありえませんよ』 だって? いいかい、あのバカ女は警察と手を組む気だよ。であんたは、ろくに商品を売っていないような、ちっぽけなショッピングセンターの一つで終わるのさ!」と言い、みかじめ料を受け取る(3枚目の写真、矢印)〔レティはすぐにチビブギに渡し、金額を確認する〕。最後に義父は、みかじめ料が少ないことを、「それはそれとして、売上は本当にガタガタなんですよ。ほら、サツにはちゃんとワイロを渡さなきゃいけないですし」と弁解する。レティは、「サツのせいだって言うなら、あんたのちんけなカミさんに何とかさせな!」と指摘し、そのまま出口に向かう。チキブキが、ナチョの頭を叩くと、「今度また、義父はここにいないなんて抜かしてみろ、このバカガキ」と脅して立ち去る。

ナチョとカカヨが、ゲームセンターのダンスアーケード・ゲームで、ダンステクノを楽しんでいる(1枚目の写真)。終わった後、カカヨは、「ノリノリだな、ちんけなクソガキ!」と褒める。ナチョは、「もう一回やろうよ」と言うが、カカヨは、「ダメだ、マジで金がない。お前の小銭 使えよ」と返す。ナチョ:「僕もなんいだ」。「小遣い、少ないな」。「ジョセリンに半分取られたんだ」〔冒頭近くにあった、ジョセリンがコインを床にばらまき、それをナチョが拾っていたシーンと、どう結び付くのかが分からない〕。「お前の可愛い妹だろ? 冗談だよ、ナチョ、勘弁な!」。「あいつは黄帯だろ、このボケ!」。お金がないので2人はゲームセンターを出て行こうとするが、ナチョは、その時、入って来た少女マイラに気付く。マットレスを戻しに行く時、すれ違った少女だ。マイラが、他の女の子と、ダンステクノを始める(2枚目の写真)。踊っていると、マイラの手首からピンクのブレスレットが床に落ちる。ナチョはすぐにブレスレットを拾うと、手に持ってダンスを見ている(3枚目の写真、矢印)。

一家の夕食の場面。もう酔っているのか、義父は、「ぶっちゃけさ、マジな話、ラ・ディアブラもチャッキーも、俺の足元にも及ばないね。あの世間知らずのバカどもは、俺の 『ちんけな靴』 にされてるってことに気づいちゃいないのさ。俺が、あいつらの両方に足を突っ込んで、自分の行きたい場所へ運ばせてるのによ。もし商売がこのまま上手くいけばさ、かみさんよ、俺たちは今に…」と、世迷い事を言うと、「どこに行きたい、俺の可愛いハニー?」と訊く。ハニーと言われた妻(母)のリチャは、「カンクン〔Cancún、カリブ海屈指のビーチリゾート〕に連れてってくれるかい、あんた?」と笑顔で訊く(1枚目の写真)。話は弾むが、ナチョだけは、何も食べずにうつむいたまま。見かねた母が、「ほらナチョ、ピザ食べな」と言うが。「いらない、お腹空いてない」。酔っ払った義父は、さっきの続きの雰囲気で、「可愛いかみさんよ… ナチョのやつ、どうやらもう恋で頭がいっぱいみたいだぜ」と言って、口笛を吹く。母は。「そこまで言わなくても。でもナチョ、あんたもそろそろ女の子が恋しくなる年頃だもんね」と言う。義弟は、さっそくふざけて、「アニキ、もう彼女がいるんだってさ!」と勝手なことを言い出す。義父は、「バカ言うんじゃねえ!」と言って、頭を叩く。しかし、祖母は、「学校の女の子かい?」とナチョに訊き、義妹は 「きっと、いい体した女の子だよ」と言う。義弟は、また、「うわ、マジか! アニキ、もう女の子がいんの?」とふざけ、「おやじ、アニキは誰かのばあちゃんナンパしたの?」とまで言う。義父は、「おっと、そりゃねえぞ、坊主! ナチョのやつだって、一丁前に男のナニを持ってるんだからな」と茶化し、ナチョは、母に助けを求めるが(2枚目の写真)、母は 「ほらナチョ、話しなさいよ」としか言わない。悪乗りの義弟は 「アニキ、もうヤッてんの?」、義妹は、「♪彼女、何て名前」。これでプツンと切れたナチョは、「もう!」と言うと、席を立って部屋から出て行く(3枚目の写真)。義父:「ホント冗談の通じない奴だな。何出しても気に入らんし、何にでもイライラしやがって」。

恐らく、翌日、ナチョは、学校に行かずにマットレスを運び上げたビルの上に行き、ポケットからマイラが落としたブレスレットを取り出して自分の腕にはめてみる(1枚目の写真)。そして、カカヨが働いている部屋に行くと、ゴミの置いてあるソファの上にひっくり返るように横になる。カカヨが 「何だよ、また学校サボりか?」と訊くと、「違うよ、ボケ。ちょっと調べてるんだ」と答える。「マジかよ、おいおいおい」。「ポランコの学校の下校時間に合せて行かなきゃいけないんだ」(2枚目の写真)。「へぇー、そりゃまた随分と 『ご立派な』 調査だな」。「マイラに会いに行きたいんだ」。「誰だよ、それ?」。「彼女が何で 『お人形さん』 って呼ばれてるのか、やっと分かったよ」。「あぁ、あのマイラか。あいつの親父が 『人形』 って呼ばれてたからだ。そういや親父のやつ、あいつが生まれる前にひどい亡くなり方をしたんだったな」。「でも、彼女、ホントにきれいなんだ」(3枚目の写真)。「いいこと思いついたぞ! あいつをモノにしたいなら、お前がダンスフロアで踊ってるところを俺が動画に撮って、YouTubeにアップしちまえばいいんだ。それを見たら、マイラのあのバカ、一発でコロッと落ちるから見てな」。「カカヨ、君は天才だ」。

ナチョは、こっそりアパートに戻ると、誰もいない隙に中に入り込むと、義父が奪ったビデオカメラを探し、両親と義妹の寝室の棚の奥に隠してあったカメラを奪い返す。そして、そのままメトロバスに乗ってポランコ〔Polanco、テピトの約7キロ西〕に向かう。学校の前まで歩いて行くと、ちょうど、マイラが 別の女の子(シトラリ)と一緒に玄関から出て来たところだった。ナチョはさっそくビデオカメラを取り出して(1枚目の写真)、撮影を始める(2枚目の写真)。すると、横から、A:「シトラリのあのピンクのドレッド髪見た?」。B:「超ハレンチよねー」。A:「それにさ、あのダサいマイラの奴、シトラリにべったりへばりついてんの。信じられる?」。C:「ホント、バカよね」 という声が聞こえてきたので、カメラをそちらに向ける。すると、カメラに向かって、A:「何よ、何が欲しいわけ、ちんけでみすぼらしい変態」。C:「最悪、ねえ、マイラはなんであんなみすぼらしい奴に、平気で動画なんて撮らせてんの?」。B:「今のあの負け犬の顔見た?」。A:「もういいじゃん、ほっときなよ」と、悪態をつかれる(3枚目の写真)〔顔の周りの四角の枠は顔検出機能(オートフォーカス、自動露出)〕。遠くの学校まで行って帰宅したナチョは、祖母から、「一体何時だと思ってんだい! 待たせやがって、この鼻たれ小僧!  ここは お前の都合でいつでも開いてる定食屋じゃないんだからね!」と叱られる。ナチョは、ビデオカメラを “隠してあった場所” に戻す。

翌日もナチョはポランコに行き、路側駐車の車に隠れて〔車道上を歩く〕マイラの跡を付けている。マイラは父方の祖母ヤジスと携帯で話している(1枚目の写真、矢印)。マイラは話し終えると、すぐに後ろを振り向き、「なんで私のあとをつけてくるの?」と訊く。ナチョは、車の陰から立ち上がって、姿を見せる。「そう、あんたよ。何が望みなの?」。「いや、その… 僕は…」と言うと、「なんでもない。誰と話してたの? 彼氏?」と訊く。「そんなことあんたに関係ないでしょ。あんたんトコ、露天商よね? もし私のママにあんたといるところを見られたら、どんな大騒ぎになるかあんたには想像もつかないよ」と言うと、「なんの用?」と訊く。ナチョは、「これ、この前、君が落としたんだよ。ダンスゲームのところで」と言って、ブレスレットを渡す(2枚目の写真、矢印)。「ありがと」。ナチョは、「僕、ナチョって言うんだ」と握手のための手を差し出すが、マイラはわざと手に触らないよう、手で風を切ると、「どーも、ナチョ。じゃあね、ナチョ」と言って立ち去ろうとする。ナチョ:「そのピンクの髪。すごくカッコいいね」。マイラは振り向くと笑顔になり、「ありがと」と言う。ナチョ:「ダンスフロアで君を見たよ。『シュガー・キス』〔この映画の英語題名〕、すごく上手だね」。「あ、そう? 私もお返しに褒めてあげたいけど、あんたじゃお話しにならないわ」。「え、マジで言ってるの?」。「ええ」。「じゃあ、ダンスバトルをしようよ」。「もう行かなきゃ」。「やるの、やらないの?」。レティの乗った車が近づいて来るのが映る。「やるから、もう行って」。「じゃあ、いつ?」。「いつでもいいわ」。ナチョは 「1時間後にいつものゲームセンターで」と言うと、走って逃げ出す(3枚目の写真)。その直後、車が玄関の前に停まり、車から降りた母のレティは 「誰と話してたの?」と訊く。「誰も」。「『誰も』 だって。バカのフリすんじゃないよ、ちんけなマイラ。あのロクデナシ、ケツにロケットでも突っ込んでるのか、猛ダッシュで逃げてっただろ」。そう言うと、マイラのピンクに染めた左の前髪に触りながら、「これは?」と訊く。「気に入った?」。「気に入るハズないだろ、このバカ。いいかい、マイラ、あんたをあの学校に行かせてるのは、お姫様になることを学ぶためで、娼婦じゃないんだよ、このちんけなメス猫の嘘つき」。マイラは、「だって、おばあ様が…」と言い始める。それを聞いたレティは、「一体全体、何であのクソババア〔祖母〕と話しやがったんだ! あいつが唯一まともにやったのは、息子〔マイラの父〕を産んだことくらいだろ!」と、大嫌いなマイラの祖母を貶す。マイラ:「すごく似合ってるって、おっしゃったので…」。「モタモタすんじゃないよ、このマヌケ! こちとら暇じゃないんだ。さあ、入るんだよ!」。そして、車を運転してきたチビブギに、マイラのピンクの髪を元の色に戻すヘアカラーを買いに行かせる。

その1時間後、ゲームセンターでマイラを待ち続けるナチョが映るが、母や兄がいるのにマイラが出て来られるわけがない。暗くなっても来ないので、ナチョはレティの館の前まで行って様子を窺う。すると、玄関のドアが開き、レティが、管区長のチラキルと一緒に出てくる。チラキル:「そのドレス、すごく似合ってるな」。「気に入った?」。「最高だよ。じゃあ、いつもの最高級ラブモーテルでひと暴れして、そのあとはサクッとタコスで締めだろ?」(1枚目の写真、矢印がチラキル)。「ちょっと、また同じかい? あそこに行くたびに、あの腰抜けどもから小遣いでも貰ってんじゃないのか? もっとマシな提案しなよ、このクズ野郎」。そう吐き捨てるように言うと、レティは チラキルの車に乗る。これで、残りは1人になったので、ナチョは思い切って、塀→雨樋→テラスと登って、2階のマイラの部屋のガラス窓まで行く〔なぜ、彼がマイラの部屋の場所を知っていたのかは不明〕。そして、カーテンの隙間から中を覗く(2枚目の写真)。中では、マイラが上半身にタオルを巻いて、洗った髪をとかしている。すると、そこに兄のチキブキが入ってきて、「何だよ、そんなに身構えんなよ。すげえ気持ちよくしてやるぞ」と言う。マイラは、「イヤ」と拒む。しかし、兄は、ベッドに座っていたマイラを押し倒して覆いかぶさる(3枚目の写真)。そして、あちこち触ろうとしながら、「気持ちよくないって言うのか」と言う。「離して! あんたなんか大嫌い」。「これでも、愛撫を感じないってか?」。「やめて!」。

ナチョは、急いで街路まで下りると。落ちていた石を拾い、窓に向かって投げる(1枚目の写真、矢印)。石は窓ガラスを割り、顔を出したチキブキが、「何しやがる、このロクデナシどもが!」と怒鳴る。チキブキは、すぐにナチョを見つけ、「見つけたぞ、このバカガキ! ボコボコに叩きのめしてやる! お前は終わりだ! 生チンポをぶち込んでやる! このクソビッチなお袋のガキめ!」と叫びつつ、玄関までたどり着くと、ドアを開ける。そして、拳銃を手に街路に出てくると、「そこにいたな、売女のガキ! そのちんけなキンタマを引きちぎって、牛乳と一緒に食わせてやるからな、バカガキ!」と怒鳴る(2枚目の写真)。道の真ん中を走って逃げて行くナチョに向かって銃口を向けると、バタンと音がして玄関のドアが閉まる。チキブキは、すぐにドアまで行き、開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。ドアを叩いて、「開けろ、バカ! 鍵、持ってないんだ! 開けろ、このクソ女!」と怒鳴る(3枚目の写真、矢印)〔チキブキはブリーフ1枚だけ、素足〕。応答がないので、マイラの窓の前まで行き、「さっさと開けやがれ! ちんけなドアを開けんと、銃でブチ抜くぞ、このバカ!」と怒鳴る。すると、窓の向こうに立ったマイラが、「お母さんに全部言ってやるから」と言う。それを聞いたチキブキは、「冗談じゃないよ、おい、もう勘弁してくれ! 外になんかいられるか、病気になっちまう。意地悪するなよ。ここはクソ寒いんだ〔メキシコシティの標高は2240m〕、頼むから開けてくれよ、見捨てないでくれ」と言うが、マイラは窓からいなくなる。チキブキは、「おい、そこまでやる気かよ、このロクデナシ! マイラ! マイラ!! いい加減にしろ、マイラ!!」と大声で怒鳴る。すると、窓まで戻って来たマイラが、車のキーでライトを点ける。これで、車に入れると思ったチキブキは、「ふざけた真似しやがって、このバカ女!」と言って運転席のドアに向かう。すると、ライトが消え、ドアがロックされる。行く場をなくしたチキブキは、「嘘だろ、このクソ女…! いい加減にしろ、マジで!」と怒鳴る。窓の前まで戻って来たチキブキに、マイラは車のキーを見せる。「クソッタレが! この最低最悪のマイラ、おい、いい加減にしろ、開けろ!」。そして、マイラは二度と姿を見せなくなる。玄関に戻ったチキブキは、ドアベルを何度も鳴らし、罵声を浴びせるがドアは開かない。

翌日(日曜日)、ナチョが義父の露店の店番をしていると、そこにチャッキーが来て、「ナチョ、うまくやってんのかい? ジョアンに、返事はもう決まったのか聞いときな」と言う。「何が決まるの?」(1枚目の写真)。「あんたは、ただ聞きゃいいんだよ、相棒」。次に現れたのがマイラ。お互いに挨拶した後、マイラが 「ごめんね」と言う。「何が?」。「すっぽかしちゃって」。「ああ、それね」(2枚目の写真)「負けるの怖かったの?」。「まさか。いつバトルする?」。「いつでもいいよ」。「1時間後?」。「いいよ。で、君の髪、どうしたの?」〔ピンクの髪がなくなっている→レティがヘアカラーをつけた〕。「また後でね」。その直後にやって来た義父。マイラとの親密な様子を遠くから見ていたので、「おい、ちんけなナチョ。まさかお前、あのディアブラの娘に惚れたんじゃねえだろうな、このバカガキ」と叱りつけ、ナチョが黙っているので、「おい、聞いてんのか、このクソガキ!」と言って頭を引っ叩く(3枚目の写真)。さらに、「お前がどんな大トラブルに俺を巻き込もうとしてるか、分かってんのか!?」と訊く。「分かったよ、もう。行っていい?」。「どこへでも失せやがれ、このちんけなマヌケが。だが一つだけ言っておく。ディアブラにバレる前に、あの 『人形』 とは完全に手を切れ。分かったか!?」。「わかったよ」。「本当に分かってんのか、このクソガキ!」。「わかったって… さっきチャッキーが来て、『返事はもう決まったのか』 って聞いてたよ」。「お前には関係ねえだろ、このちんけなマヌケが! さっさと失せろ!」で、もう一発。家に戻ったナチョは、両親の寝室に入って行ってビデオカメラを、義父の隠し場所から取り出すが、怪しいと睨んで跡をつけてきた義妹に多額の口止め料を請求される。

さっそくゲームセンターに行ったナチョは、マイラとダンスアーケード・ゲームでダンステクノを競うが、2人とも抜群のスキル(1・2枚目の写真)。暗くなってから、ナチョが走って家に戻ると、母と義父がビデオカメラの件で大きな声でもめている〔義父は 「みつからん」、母は 「散らかり過ぎてる」〕。それを聞いたナチョは、ビデオカメラを家の外に隠してから中に入って行く。すると、居間にいた母が、ナチョを呼び止める。「イグナシオ。いいかい、鼻たれ小僧。レティさんの娘と何企んでんのか、ちゃんと話すんだ!」。「誰の娘?」。「ディアブラの娘だよ。とぼけてんじゃない、バカガキ。おいおい、ナチョ、あんた脳みそあるんかい?」。「いいかい、母さん、僕が誰とデートしようが勝手じゃないか」。「つべこべ言うんじゃない、ナチョ! マイラに犬みたいにつきまとってるってディアブラが知ったら、あんたが地獄を見るだけじゃ済まないんだよ。あんたのバカな真似のせいで、ジョアンをトラブルに巻き込むんじゃない。分かった? ガキのくせに、チンポで考えるのはおやめ。ディアブラには いろんな噂があるんだよ、自分で夫を殺したとかね。だから、あの 『人形』 のことはキッパリ忘れるんだ。分かったかい?」(3枚目の写真)。「うん、母さん」。

そのあとすぐ、今度は寝室で探していた義父に、「カメラはどこだ、クソガキ!」と言われる。ナチョは、相手が “他人” なので、今度は反撃に出る。「僕から取り上げただろ」。「とぼけんじゃねえよ、バカガキ」。「持ってないよ」。「ジョセリンが見てたぞ」。ナチョは部屋に入ると、「ジョセリンが? あいつは ちんけな上に、嘘つきだったんだ!」と言うと、義父が 「妹に向かって何てこと言うんだ、バカガキ!」と叱る。「あのカメラは僕のだし、あんたが奪ったんだ。失くしたんなら、そっちの問題だろ。違うか?」。「そんな口の利き方すんじゃねえ、ちんけな腰抜け!」。そこに、母が入ってくる。「一体何が起きてんの?」。義父:「このバカガキがカメラを持ってやがる」。母:「イグナシオ、何て子なの! カメラをジョアンにお返し」。「僕のだ」。義父:「お前が盗んだんだ、バカガキ!」。母:「カメラを返すんだよ、鼻たれ小僧」。義父:「母さんの言うことを聞け」。「絶対渡すもんか、バカ野郎」。連れ子とはいえ、妻の息子から「バカ野郎」と言われた義父は、盗んだ自分が悪いのに、ナチョをベッドに押し倒し、「一つだけ言っておく。あのちんけなカメラが出てくるまで、外には出さんからな」と、外出禁止を言い渡す(1枚目の写真)。翌朝、義父が家を出て行く時〔妻はもう出勤し、義弟と義妹は学校に行っている〕、南京錠を祖母に渡し、「出かける時は、外から南京錠をかけてくれ。あいつが何かバカやったら俺に電話しなよ」と言って出て行く。寝室にいてもすることがないので、居間に行こうとすると、祖母〔正しく言えば義祖母〕は、「どきな、ドジ。モップがけしてるの見えんのかい?」と叱り、ビデオゲームをしようとすると、「あたしの音楽のジャマだよ」〔祖母は、いつもラジオで音楽を聴いている〕。TVも、「テレビは禁止」。ナチョは、寝室に戻り、ゴムのボールを壁に投げて遊ぶ(2枚目の写真、黄色の丸の中がボール)。耐えられらくなったナチョは、祖母がトイレに行くと、キッチンに置いてある祖母の携帯でカカヨに電話する。「もしもし? カカヨ、ナチョだよ」。「何だよ、バカガキ」。「外出禁止なんだ。家に閉じ込められちゃって。急いで来てよ」。「絶対無理」(3枚目の写真)。「意地悪言わないで、カカヨ。なんなら、『カカヨの大好き写真』 1枚あげるから」。「ちょっと考えさせろ… しょうがねえな」。

かなり時間が経ち、ようやくカカヨが窓の外〔中庭に面した側の共同通路〕から口笛を吹いて合図する。窓まで言ったナチョが 「遅かったじゃないか、ちんけなカカヨ」と言うと、ムスっとした顔で、「用って何だよ、相棒」と訊く。「ちょっと頼みがあるんだ」。「約束のものが先だろ」。ナチョはさっそく、女性のヌード雑誌から1枚破り取り、それをカカヨに渡す〔『カカヨの大好き写真』のこと〕。満足したカカヨは、「なんで外出禁止なんだ?」と訊く。「ジョアンのバカ野郎が僕のカメラを奪ったから、取り返しただけさ」。「で、一体何して欲しいんだ?」。「マイラに伝えて欲しいんだ」。「おいおい! あの 『お人形さん』 にマジで本気なんだな。だったら、そろそろあの子とヤッちゃえよ」。「マジで?  でも、まだ早すぎない?」。「おいおい、大丈夫だって。場所が必要なら俺の部屋貸してやるよ」。「でもさ… どうすりゃいいの?」。「まずは、ドカンと熱烈なキスしてさ… あとはお尻とおっぱいをつかめばいいんだ」。「それからどうするの?」。「あとは、最後までいっちゃえばいいのさ」。「最後までって何?」。「おいおい、野暮なこと言わせんなって、な?」。それだけ言うと、カカヨは、「それで、あの子に何て言えばいいんだ?」と訊く。「僕、外出禁止になっちゃったから、会いにいけないって」(1枚目の写真)。「そんなことかよ?」。「うん。言ってくれる?」。ナチョはいなくなる。そのあと、ナチョ以外の全員が食事をする場面がある。だから、翌日、また1人になったナチョが、手作りのダンベルを使って腕を鍛えていると(2枚目の写真)、窓から笑い声が聞こえる。振り向くと、窓からマイラが笑顔で見ていたので、ナチョは 「わあ、来てくれたんだ! すごく嬉しいよ!」と言いながら、急いで服を着る。マイラ:「調子どう?  あんたの友達のカカヨから聞いたよ、外出禁止なんだって?」。「うん、そうなんだ」(3枚目の写真)。「外に出られそう?」。「絶対無理」。それを聞いたマイラは、「ちょっと待ってて」と言うと、いなくなる。

恐らく、かなりの時間の経過後、アパートの玄関の南京錠を、鍵職人が解除している場面に変わる。鍵が外れると、マイラは 「おじさん、どうもありがとう」と言ってお金を渡そうとするが(1枚目の写真)、鍵職人は、「とんでもない、お嬢さん、お代など結構ですよ。それより、お母様のレティ様によろしくお伝えください。それでは、失礼します」と言っていなくなる。ナチョは、ドアから外に出ると、南京錠を掛け、マイラと手をつないでアパートから出て行く(2枚目の写真)。そして、カカヨの家に行くと、ドアベルを何度も鳴らす。ドアを開けたカカヨが、2人を見て呆然とする(3枚目の写真)。だから、ナチョが、「やあ、カカヨ。一人?」と訊いても頷くだけ。「母さんは?」と訊くと、首を横に振る。「遅くなるの?」。また頷く。業を煮やしたナチョが 「何か言えよ相棒」と言うと、「祈祷の集まりに行ったんだ、相棒。夜まで帰ってこねえ」と答える。ここで、ようやく、ナチョは、「あの…  きのう、言ってたこと覚えてる?」と、少し恥ずかしそうな顔で訊く」。「俺がか?」。「うん」。「何だっけ?」。「場所が必要なら… って」。それを聞いたナチョは、自分の言ったことをすべて思い出し、思わず照れ笑いすると、「じゃあ、お好きにどうぞ」と言う。そして、マイラの背中を押してドアから入ったナチョに、「すぐ戻る。鍵かけとけよ」と言って、いなくなる。

カカヨの部屋の中は、裸の女性の胸の部分を手描きの黒いブラジャーで塗りつぶした写真で隙間なく埋まっている。ナチョは、変に誤解されないよう、「罪深い生き方をしないように、ブラジャーを描いてあげてるんだ」と言って誤魔化す。マイラが、「ここで何をするの?」と訊くと、ナチョは、マイラの手を取って、「おいで」と言うと、ベッドの前まで進ませ、自分はベッドに腰かける。マイラもその隣に座る。ナチョは、マイラの顔に自分の顔を近づけて行く。そして、右手でマイラの胸に触る(1枚目も写真)。怒ったマイラは左手で、ナチョの頬を叩く。「どうしたんだよ?」。マイラは、何も言わずにドアに向かい、次のシーンでは、玄関のドアが開き、マイラは開けっ放しにしたまま、さっさと出て行く。ナチョは、急いで出て来ると、玄関のドアを閉め、走って後を追う。道路の中央付近を歩いて行くマイラに追いついたナチョは、「ごめん、マイラ。そんなつもりじゃ…」と謝りかけるが(2枚目の写真)、マイラは、「あんたみたいな 能無しとは付き合うなって、ママが言ってた理由がやっと分かったわ」と切って捨てるように言う。「違うんだよ、カカヨがああやるもんだって言ったんだ」。「じゃあ、カカヨ相手に続きでもやってくれば?」。「僕ってホントに間抜けだった」。「今になって気づいたの?」。「うん。大ちょんぼ しちゃった」。「最悪よね」。「もう二度としないって誓うよ。なんなら、俺の手を縛り付けたっていい。見捨てないで。会えなくなるのは耐えられない」。「ホントに誓う?」。「誓うよ」。「破ったらどうするの?」。「そんときは、君の母さんと兄貴のチキブキに言えばいいさ。そしたら、僕はもう終わりだ」。それを聞いたマイラには笑顔が戻り、「ホントに、とんちんかんね」と言い(3枚目の写真)、ナチョは 「今ごろ気づいたの?」と言い、マイラは頷く。

ナチョとマイラは、1つの綿菓子を2人で食べながら街を歩いている。ナチョは、「ねえ、君に見せたいものがあるんだけど… 誰にも言わない?」と言い出す(1枚目の写真)。「言わないわ」。「君の友達のシトラリにも言っちゃダメだよ」。「まさか。言うわけないじゃない」。「よし、着いたよ」。そこは、マットレスを運び上げた廃墟のビルの前。その時、ビルの “入口” から、かつて、ナチョを路面に押し倒して虐めた4人組が出てくる。それを見たナチョは、「来て」と言うと、“入口” に向かって走り出し、マイラも後を追う。2人は 金網の隙間から中に入り、ロの字形の階段を駆け上る。慣れないマイラが「待って」と言うと、ナチョが手を取って一緒に走って登る。そして屋上まで登ると、塔屋の中に置いておいたマットレスに火が点けられていたので、2人で消す。そのあと、ナチョはマイラに 「ここから、何が見えると思う? すごいよ」と言うと、ビルの端まで連れて行く(2枚目の写真、下に見えるカラフルな通りが、露天商の通り)。3枚目の写真は、Google Earthで見た、テピト地区にある、このビル(矢印)。そこから下を見たマイラは、「わあ、すごい!」と言って笑顔になる。「いい眺めだよね?」。「ええ」。そのあと、マイラは凄いことを口にする。「なんか、飛び降りてみたくならない?」。「なるよね?」。「あんたにはそんな度胸ないでしょ」。「君だってないくせに」。マイラは露天商の天幕を指して、「私たちを支えられると思う?」と訊く。「まあ、きっと無理だよ」。「じゃあ何? 私たち終わっちゃうの?」。「もしかしたらね。でも、あの緑の天幕の下にある 下着売りの店に落ちれば、なんとか助かるかも」(4枚目の写真)〔重要な伏線〕。

そして、ビルの端に立ったまま始まる この映画の題名でもあるシュガー・キス。18秒続くキス・シーンは、子供同時のファースト・キスとしては、信じられないほど激しい。本当にディープ・キスをしているとしか思えないような口の動き。メキシコ映画なんだから可能なのだとしか思えない。流れるきれいなピアノの音と相まって、極めて無垢で純潔なイメージを与える。そのあと、2人は、汚いマットレスの上にきれいな布を敷き〔そんな布など、どこにもないハズ〕、向かい合って横になる。マイラが、ナチョの顔を見ながら、「ニキビがあるよ」と言う。「え?」。「鼻のところに、ニキビがあるの」。「そう?」。「取ってあげようか?」。「ううん」。「私にもニキビある?」。「ないよ」。ここで、ナチョが話題を変える。「目を閉じるとね、白い点々が見えるんだよ」と言って上を向く。横を向いたまま目を閉じたマイラは 「私には何も見えないけど」と言う。マイラは目を閉じたまま上を向くと、「あ、ホントだ。見えてきた。すごーい!」と言う(3枚目の写真)。

2人は、そのまま眠ってしまい、目が覚めたら辺りは真っ暗。マイラ:「今、何時?」。ナチョ:「分んない」。「ママに殺されちゃう」。場面は、マイラの館の前に変わる。ナチョは 「明日も、こんなふうに会える?」と囁く。マイラが普通の声で「さっきの隠れ家で?」と聞いたので、ナチョは「しーっ」と言うがもう手遅れ。館の中が明るくなる。「同じ時間?」。玄関のドアがさっと開き、レティがマイラに対し、「一体どこにいやがった、このロクデナシ! お前の可哀想な兄貴が、一晩中ずっと探し回ってたんだよ!」と叱り付ける(1枚目の写真、矢印)。次に、ナチョの腕をつかむと、「おいお前、クソガキ! 娘に何をした!?」と激しく訊く。「何も」。マイラに向かって、「何されたんだ、このバカ!? 一緒に何してやがった?  この二匹の子ブタ!」(2枚目の写真)。「ううん、何も」。ナチョの顎をつかむと、顔に向かって 「いいか、このクソバカ。お前のクソ義父は、ショッピングモールの警備員で終わりだ。お前は、ブライアンにボコボコにされるのを待ってな。分かったか」と言い、ナチョは 「ヤだヤだ」と言って逃げ出す。レティは、「このクソガキ!」と怒鳴ると、マイラに「さっさと中にお入り、このバカ娘!」と命じる。一方、家に辿り着いたナチョは、ドアを叩く。すると、ドアの向こうに義父と母が出てくる。義父:「いい度胸じゃねえか。大した肝っ玉だ」(3枚目の写真)「何時だと思ってんだ、このマヌケ。そんなに度胸があるなら、今夜は外で野宿しやがれ、このバカ」と見放す。母は、「ジョアン、クソ坊主の小遣いはどうするんだい?」と訊くが、義父は無視し、「ハッキリ言っておくぞ、弱虫、あのカメラを返すまで 家には入れんぞ。分かったか、クソガキ」と言って中に入ってしまう。

泊る場所をなくしたナチョは、カカヨの家に行って泊めてもらう。翌朝、カカヨの家の玄関のドアが激しく叩かれる。そして、「ドアを開けろ、外道。ここにいるのは分かってんだ、クソバカめ」という声が聞こえる。2人はすぐに目を覚まし、カカヨが窓のカーテンを少しだけ開けて様子を窺う(1枚目の写真)。すると、チキブキと、他にも怖そうな手下3人がいて、チキブキが 「もう終わりだぞ、このコソ泥め」と言っているのが見える。カカヨは、「チキブキと他のクソ野郎3人だ」とナチョに知らせる。それを聞いたナチョは、大急ぎで服を着て、出て行く用意をする。「出てきやがれ、ロクデナシ。ちんけな面(つら)をぶち砕かれたくなかったらな、この外道が! お前のちんけなタマ、えぐり出してやろうか!」。そして、「開けやがれ、このクソガキ!!」と怒鳴る。そこに、カカヨの母が行き、ドアを開けて、「ブライアン、一体何の騒ぎ? エンリケ〔カカヨの正式名〕に何の用なんだい?」と訊く。「カカヨのバカ野郎には用はねえんだよ、バアさん。ナチョのバカガキはどこにいやがる?」。「神様に誓って! ここにはいないよ。ホントに」。「すっこんでろ、ちんけなババア」。すると、カカヨの部屋のドアが開き、カカヨがバッドを持って出てくる。母は 「どうしたんだい、キケ〔エンリケの愛称〕」と心配し、カカヨは 「何でもないよ、お袋」と言う。バッドを持ったカカヨを見て、チキブキは 「何だそのちんけな態度は、バカ野郎」と言い、カカヨはバッドをチキブキの顔の前に出して 「何の用だ?」と訊く。チキブキは、そんなカカヨなど問題にせず、カカヨをつかむと、母親の横の壁に叩きつけ、手下と一緒に中に入って行く。その時には、ナチョはもう部屋の裏手に回っていたので、「どこにいやがる、ちんけな外道が! ぶっ殺されたいか?」と、探し回る声だけが聞こえる。しばらくすると、ナチョが、奥の出口から通路に顔を出す(3枚目の写真、矢印はカカヨの部屋のドア)。そして、裏から逃げ出す〔カカヨの所にいた証拠はなくなる→カカヨに迷惑はかからない〕。

ナチョはバスに乗ってマイラの学校に行き、一人で外にいたシトラリに話しかける。「君、シトラリだよね? 僕はナチョ、マイラの彼氏だよ」。「あんたがイグナシオ? わあ! 思ってたのと違ってた」。「だろうね。マイラは?」。「学校に来てないわよ」。「なんで?」。「なんか お腹壊したみたい」。それを聞いたナチョは、マイラの館に行き、いつも通り塀を登り(1枚目の写真)、マイラの部屋のテラスの窓をトントンと叩く。しかし、出て来たマイラは、「ここで何をしてるの?」とすげない。「大丈夫?」。「何の用?」。「お仕置きにでもされたの?」。「違う、病気なの。もう行って。あんたとは話したくない」。「何かされたんか、マイラ?」。マイラは、それには答えず、窓を閉めようとする。「ダメ、閉めないで、お願いだから」。「消えて。そこから出てってよ。分からないの!?  あんた、思ってたよりずっと とんちんかんね」(2枚目の写真)「もうあんたとなんか付き合いたくない。バカなことしか言えなくて、オカマみたいに踊ることしかできない、ちんけな露天商の、クソったれの息子のくせに!」。「何があったの? どうしちゃったんだよ?」。「何でもないわよ、このバカ! ちくしょう、二度と私に話しかけないで。分かった!?」。「帰るもんか、だって…」。「失せろ、このバカガキ! 行かないと、兄に電話してやる!」。「どうしちゃったんだよ、マイラ?」。マイラは、携帯を手に取ると、兄にかけ、「ブライアン? ここに例のバカがいるわ」と言う。それを聞いたナチョは立ち去る〔ナチョの命を救うために、わざと乱暴な態度に出た〕。悲しくなったナチョは、ビルの塔屋に行くと、マットレスに座って泣く(3枚目の写真)。

ナチョは、そのまま疲れて眠ってしまう。すると、そこに、いつもの4人組がやって来て、しめたと思う。「眠ってるかな?」。「しーっ、黙れ」。4人はナチョを取り囲み、一斉におしっこをかける。「おしっこだぞ、ナチャ〔わざと女性形で呼ぶ〕(1枚目の写真)。「おしっこ好きか?」。ナチョは必死に逃げ出す。4人組は、「ナチャ、売女(ばいた)! ナチャ、売女!」と歌ってからかう。ナチョは、アパートに行き、祖母がいるので、鍵のかかってないドアから家に忍び込む。そして、シャワー室に行くと、汚染された体を湯で洗い流し(2枚目の写真)、洗剤で消毒する。しかし、その音を聞きつけた祖母がシャワー室を開け、「ここで何してるんだ、この呪われたガキめ! お前はこの家に入るのを禁止されてるんだよ。この厚かましい鼻たれ小僧! お前のせいで露店を没収されたんだよ! よくもまあ、あのディアブラの娘に手を出しやがったね?!  今に見てな、すぐジョアンに電話してやるから。もうお前には、うんざりなんだよ、このバカガキ!」と罵る。寝室に行ったナチョは、急いで着替え、必要なものを “背負いカバン” に詰め込むと、二度とここに戻って来ない決意で玄関に向かう。しかし、そこには祖母がいて、義父に電話をかけている。「お前さん、急いでおくれ、あいつは、あたしが捕まえておくから」。そこに、ナチョが現われたので、祖母は、「ジョアンのカメラを渡すまで、ここから出て行かすもんか!」と言う。「あのカメラは僕ので、カカヨに売ってやるんだ。そこどけよ!」。「ここからは 出さんからね!」。ナチョは、「へえ、そうかい?」と言うと、横に置いてあった “祖母が一番大切にしているラジオ” を両手でつかむと、頭の上に持ち上げる。祖母は、「何するんだい、イグナシオ!? やめな、とっとと置くんだ!」と言うが(3枚目の写真、矢印)、ナチョは、ラジオを床に向かって投げつける。バラバラになったラジオを見て、祖母は 「あたしのラジオが…! あたしのラジオ、あたしの音楽が!」とオロオロし、その隙にナチョは家を出て行く。

ナチョは、唯一の血縁関係者である母に会いにいく。彼女は、交差点で、交通違反をもみ消すための “賄賂〔200ペソ札数枚(当時の3000円くらい)〕” の受け取りと、運転免許証の返却をやっていた。ナチョは 「別れを言いに来たんだ、母さん」と声をかける。「どこ行く気だよ?」。「父さんのところ」。「ちょっとナチョ、あいつがどこにいるかも知らないくせに! なんてガキだ! あの役立たずが生きてるか死んでるかさえ、分からないんだよ!」。「どうだっていい。どっちみち、僕はもうここにはいられない」。「そんなお金、どこにあるんだい?」。「カメラを売るんだ」。「カメラはお前のもんじゃない、ナチョ。こっちに渡しな、ナチョ。命令だよ。バカなことはおやめ。どこにも行かせないからね。刑務所にぶち込んでやるよ、このクソガキ。そうすりゃ、少しは身の程ってやつを学ぶだろ」。しかし、ナチョは、「さよなら、母さん。達者でね」と言って去って行く。母は業務中で、上司から呼ばれたので、ナチョを追えない。ナチョが街中を歩いていると、「やぁ、チラキル」。「よぉ、チャッキー」と言う声が聞こえる。チラキル:「で?」。チャッキー:「あら。あんた、服を変えたのかい?」〔警備員のような服〕。「このご時世、これが一番都合がいいのさ」。ナチョは、背負いカバンからビデオカメラを取り出すと、撮影を始める。チラキルが 「で、あんたは? 俺の金は持って来たんだろうな?」と、金を請求すると、チャッキーが 「ほら、あんたの分だよ」と言ってお札を取り出して渡す(1枚目の写真、矢印)。「どれどれ? なんだ? 冗談だろ! これだけか?」。「あたしだから払うんだよ。あの女〔レティ〕には こんなに出せないさ」。その時、ナチョの背後で車のセキュリティアラームが鳴り出し、チラキルとチャッキーは音のする方を見るが、同時に、ナチョも見つかってしまう。重大な密会をカメラで撮られたと知ったチラキルは、「この外道めが!」と言うと、ナチョの方に向かって来る。ナチョが逃げようとすると、祖母の電話で家に駆け付けてきた義父と鉢合い、「お前はもう終わりだ、このクソガキ! カメラを寄こせ。何してやがった?」と、カメラを奪われる。ナチョは、「待って、ジョアン! これがあれば、ディアブラに怒られなくて済むよ」と、宥めようとする(2枚目の写真、矢印)。そこに、チラキルがやってきて、ナチョをつかみ、「勝手に何録画しやがった、このクソガキ?」と訊く。「何も」。「カメラを渡せ」。「そっちのバカ野郎が持ってるよ」。チラキルは 「カメラをよこせ、クズ野郎!」と言って、義父からカメラを奪う。義父が 「待ってくれ、チラキル。ちょっと確認するから…」と言い始めると、チラキルは 「『確認』? ふざけんじゃねえ、俺がチェックするんだ」と言い、再生しようとするが、サムネイルの一覧の中で、焦って別の映像を押してしまう。そこに流れたのは、義父と母のHな映像。それを見たチラキルは 「これはYouTubeにアップロードしなくちゃ」と言う(3枚目の写真、矢印)。その一瞬の気のゆるんだ瞬間をとらえ、ナチョはカメラを奪い返して、走って逃げ去る。

ナチョが向かった先は、レティの館。ドアベルを鳴らすと、レティが携帯で話しながら出て来る。通話を終えると、ナチョを見て、「おやおや、バカガキ直々のお越しかい。何をご馳走してあげよう、坊や? クッキーかい、それともレモネードかい? あたしのブライアンが戻ってきたら、ボコボコに叩きのめしてあげるからね」とニヤニヤしながら言う。ナチョは、「ちょっと待ってよ、奥さん。絶対に興味を持ってもらえる機密情報を持って来ました。見れば分かりますから」と、必死に言う。「奥さんなんて呼ぶんじゃないよ、あたしには名前があるんだ、このバカ」。「すみません、ディアブラさん」。「あたしの名前はレティシアよ、バカガキ」。「これ見てください、レティシアさん」。そして、さっき撮った映像を見せる(1枚目の写真)。最初は、それほど重要な映像だとは思っていなかったので、「おい、クソガキ、もう一回再生だよ」と言って、内容を再確認する。レティは 「なんてひどい外道なんだ!」と怒りを露わにする。そこに、チラキルが車で乗り付ける。車から降りたチラキルに向かって、レティは 「あたしをコケにするとは、あんたいったい何様のつもりだい、このゲス野郎」と怒りをぶつける。その隙に、ナチョは館の中に潜り込む(2枚目の写真)。チャッキーの手下になったチラキルはレティなんか、もう赤の他人なので 「落ち着けよ、落ち目のレティ」と平気で言う。レティ:「あんたのお袋にでも 『落ち着けよ』 って言ってな、このクズ野郎!」。「俺のお袋に構うな、ロクデナシ」。「いいかい、お前のチャッキーもお前も、あたしの敵じゃないんだよ。さっさと消え失せな、この外道が。聞こえたかい? いいかい、ちんけな腰抜け。チャッキーの犬にでもなってきな! そのあと、とっとと消え失せやがれ。分かったかい?」。その頃、ナチョは2階への階段を上り始めるが、横に置いてある “骸骨が中に入った” 巨大な置物に驚く(3枚目の写真、矢印)〔伏線〕。「チャッキーは倍の金をくれるんだよ、バカアマ。しかも、あいつとヤる必要すらねえ。 そのために、俺にピチピチの若い女をくれたからな!」。「くたばれ、バカ野郎! あんた、自分が誰を相手にしてるか分かってるのかい? あたしはラ・ ディアブラ(女悪魔)なんだ、ふざけるんじゃないよ! とっとと消え失せな、バカ野郎!」。

2階まで行ったナチョは、ドアを開けて 「マイラ?」と声をかける。そして、中のドアを開けて中に入ると、壁を向いてベッドに横になっているマイラに、「マイラ、僕だよ」と話しかける。驚いて振り向いたマイラは、「ここで何してるの? ママに殺されちゃうよ」と言うが、ナチョは それに構わず背負いカバンをベッドの後ろに置くと、マイラの横に座る(1枚目の写真)。そして、マイラの顔に手をあてて、いろいろな傷痕を見ると、「顔どうしたの? 誰にやられたの?」と訊く(2枚目の写真、矢印)。マイラは、「逃げて、ナチョ。私たちは一緒にいられない。分からないの?」と言うが、ナチョは、「一緒に逃げよう、マイラ」と強く誘う。その時、部屋の外で、レティの声が聞こえる。「あの ちんけな雇われ犬め、反吐が出るよ」。ナチョは、急いでベッドの下に隠れる。ギリギリ間に合って、内側のドアが開き レティが部屋に入って来る、そして、「あのチラキルのコソ泥!」と言うと、それまでナチョが座っていた場所に座る。そして、持って来たテキーラをガブ飲みした後(3枚目の写真)、独り言を続ける。「なんで あたしにばっかりこんなことが起きるんだろう。きっと、お人好しだからだね。絶対、そのせいだ。優しすぎたんだ。仕方ないか。マジで、いつもこうなんだから」。マイラが、「心配しないで、ママ。全部うまくいくから」と言うと、「分かってるよ。あたしは一人じゃない。ブライアンがいるからね」と言う。「私だっているわ、ママ」。「そうだね。でも… ブライアンは… ブライアンは特別なんだよ。あんたは父親そっくりに育っちまったからね」。

マイラは、「ママ。ブライアンが私を襲おうとしたの」と、先日の夜のことを打ち明ける。「バカなこと言うんじゃない」。「神に誓ってホントよ、ママ。ブライアンが私に襲いかかったの」。「お黙り、マイラ」。マイラは、立ち上がりながら、「前は 覗き見だけだった。でもこの前、私がシャワーを浴びた後、ブライアンが部屋に入ってきて、それで…」と言うが、レティは、「黙れって言ってんだよ、バカ娘!!」と怒鳴ると、マイラの頬を思い切り引っ叩き、マイラは床に倒れる(1枚目の写真)。そして、ベッドの下に隠れていたナチョと、ちょうど目が合う(2枚目の写真)。レティは、「どうせ色目でも使って誘ったんだろ? 自分から挑発したくせに、このちんけな尻軽女」と侮辱し、マイラは、その母の顔を軽蔑したように、あるいは、見放したように見上げる(3枚目の写真)。レティは、「あたしがこんなにボロボロになってる時に、よくもそんなちんけな嘘がつけるね。このちんけな最低なエゴイスト」と、最後の暴言を吐くと、部屋から出て行く。ベッドの下から出て来たナチョは、「逃げよう、マイラ」と言う。「どこに?」。「父さんのいるアメリカだ」と言って、大切に持っている写真を見せる。しかし、その写真を見たマイラは、「ねえ、それ、メキシコ側〔の国境検問所〕から撮った写真でしょ? それより、ヤジスのところに行こう」と言う。「ヤジスって誰?」。「私のお祖母ちゃん。パパのお母さんだから、ママは大嫌いなの。少しヤジスのトコで過ごしてから、あんたのパパのトコに行けばいい。ヤジスはタパチュラ〔Tapachula、メキシコ最南端の都市、グアテマラの国境の約10キロ北〕の近くの、海辺に住んでるの」。「でも、それってアメリカとは真逆だろ」。「だから何?」。

その瞬間、外側のドアが開く音がする。外ドアと内ドアの間には、1~2メートルほどの距離があるので、マイラは、開いたままのクローゼットに中に、ナチョを突き飛ばすように入れる。すると、兄のチキブキが入って来て、「ママに何て言いやがった、このバカ娘」と批判する(1枚目の写真、矢印はナチョ)。チキブキはマイラを壁に押し付けると、「よく聞け、このバカガキ。俺とお前の間で起きたことは、ここだけの秘密だ」と言いながら、唇をマイラの顔に付けようとするが、マイラは顔を背けて回避する。チキブキは、マイラの顔を両手で掴んで正面を向かせ、壁に押し付けると、「いいかマイラ、ママに何か言ってみろ。マジでぶっ殺してそのバカなツラ、バラバラに引き裂いてやるからな」と脅す。そして、何とかマイラにキスしようと、「大人しくしてろ。今からたっぷり味わわせてやるからな。大人しくしろ、ちんけなマイラ! 大人しくしろ、この薄情もん!」と言いながら、何とか自分の物にしようとするが、マイラは全力で抵抗する。それを、ナチョはクローゼットからじっと見ている。そして、マイラが危機に落ち入りそうなのを見ると、手に持った物でチキブキの後頭部を叩くが、そんなことではびくともしないチキブキは、振り向くと、「ここで何してやがる、この外道が!?」と言い、すぐさまポケットから拳銃を取り出して、数10センチの距離でナチョの額に銃口を向ける。そして、「終わりだな、クソバカ」と言って撃ち殺そうとするが(2枚目の写真)、後ろにいたマイラが、両手でチキブキの口を押えて邪魔をし、チキブキは、背中でマイラを壁にぶつけ、マイラは、床にそのまま座り込む。その隙に、ナチョはベッドサイドランプをつかみ取ると(3枚目の写真)、それで、チキブキの顔をぶっ叩く。

チキブキは一瞬くらっとし、後ろの床にいたマイラは、チキブキの股ぐら〔鼠径部〕を足で蹴り上げる(1枚目の写真、矢印)。これが一番効果的で、チキブキは痛くて床に倒れる。ナチョは、チキブキが手に持ったいた拳銃を蹴り、それをマイラが拾って、銃口をチキブキに向ける。しかし、マイラが銃の扱い方など知らないことを知っているチキブキは、薄笑いを浮かべながら、「何をもたもたしてやがる、売女、撃てよ」(2枚目の写真、矢印)「ビビってんじゃねえ! 撃ちやがれ、チンケな売女、撃て!」と、逆に威嚇する。それを見たナチョは、マイラから拳銃を奪うと、拳銃で思い切りチキブキの顔をぶっ叩き、ようやくチキブキは気を失う(3枚目の写真)。「さあ、行こう」。2人は、荷物を持つと急いで部屋を出て行く。

2人が階段を降りて行こうとすると、1階ではレティが、彼女の管轄する区(デレガシオン)を任されている与党の政治家・幹部に、抗議の電話をかけている。「へえ、それじゃあ あんたとあんたの知事がやりたいのは、このくだらない街中の道、特にあんたのくだらない区の道を、完全に大混乱にすることなんだね? この、クズ野郎。ふん、まあいいさ。もしホントにあんたがそんなちんけな最低の態度を取るってなら、あたしは党首直々に一言談判しに行かなきゃならなくなるよ、見てな。次の選挙で票が他所に流出するのが、あいつに好都合だとは到底思えないからね」。そこで、2人は音を立てないよう、そっと階段をおりて、1階のレティから見えない場所に隠れる〔マイラは、レティの隠し場所から鍵を取り出すと、分厚い札束を旅行用に盗む〕。しかし、その場所は、色々な置物の間に隙間があり、その隙間から見えたナチョの顔に、レティが気付いてしまう。そこで、電話を続けながら、机から拳銃を取り出し、電話を終えると同時に、逃げ出そうとしたナチョに拳銃を向け、「絶対に許さないからね。地獄に落ちろ。もう終わりだ、コソ泥」と最後通牒を突き付ける(1・2枚目の写真、矢印は拳銃)。それを救ったのは、階段の横に置いてある “骸骨が中に入った” 巨大な置物。マイラは、置物を後ろから押し倒し、レティを下敷きにする(3枚目の写真、左の矢印はマイラ、右の矢印はレティ)。レティは、「一体どこ行くつもりだ、バカガキども!」と言うが、2人は、玄関から逃げ出す。「ブライアン!」。少し前に、意識が戻っていたブライアンが1階に走ってくると、レティは 「この最悪の物をあたしの上からどけろ、クソ野郎!」と命じる。

外に出た、マイラとナチョは、全速で歩道を走って逃げる。館の外に出たレティとチキブキは、二手に分かれ、チキブキは走って2人を追いかけ、レティは車で追う。カメラは、チキブキをメインに映す。彼は、拳銃を構え、邪魔者には 「どけ!」と怒鳴り、かなり先を入っている2人に向かって、「見つけたぞ、クソバカども! ブチ殺してやる!」「ふざけるな、バカガキ!」「クソッ、ぶち殺してやる、このロクデナシが!」と怒鳴り続け、2人は精一杯走り続ける(1枚目の写真)。チキブキは、「もう終わりだ、クソバカ!」と怒鳴り、拳銃を真っ直ぐ向ける(2枚目の写真)。それを見た通行人は、逃げ惑う。2人は、道路から建物の中の通路を通って別の街路に逃げたり、他人の家の中を通って窓から逃げたりするが、最後は、レティの車に行く手を塞がれ、いつもの廃墟のビルの中に逃げ込まざるをえなくなる(3枚目の写真、矢印)。2人は、ロの字形の階段を駆け上がり、レティは、「奴をぶち殺せ、クソ野郎!」とチキブキに命じ、チキブキは撃つが複雑な形状の階段なので当たらない。「チクチョウ、このゴキブリめ!」「見てろよ、コソ泥! すぐ追いついてやる」(4枚目の写真、左の矢印はチキブキ、右の矢印はレティ)。

屋上に出た2人は、ビルの端に立つ。チキブキ:「そこにいやがったか、外道どもめ!」。レティ:「ふざけるのはお止め、バカガキども!」(1枚目の写真)。レティは、娘のことが心配になり、「マイラ、お待ち! あんたに話してんだよ、マイラ!  バカなことはお止め! クソガキから離れるるんだよ、そしたら奴を撃ち殺すから」と、必死に止める。一方、ナチョは、「下着いっぱい?」と、“大丈夫だよね” の意味を込めてマイラに訊き、マイラは、“そうよ” の意味を込めて 「下着いっぱい」と自信をもって答える。2人は手をつないで数メートル下がると、レティの必死の 「マイラ! お聞きったら! 何すんだよ! マイラ!」の叫び(2枚目の写真)を無視し、走っていくとビルの端から飛び降りる(3枚目の写真)。4枚目の写真は、Google street viewで、下から見たビル〔露天商はいない〕。映画の最後の場面は、笑顔で落ちていく2人(5枚目の写真)。メキシコの文化庁のサイト「Gobierno de México」に、この映画の詳しい紹介があり、その最後に、この結末について、映画の脚本家のLuis Usabiagaの言葉が載っているので紹介しておこう。「観客が “この先どうなるか” について、どう解釈しようとも、私たちは、ナチョもマイラも、“飛び降りた瞬間に解放されたのだ” と考えています。それが二人が自ら下した決断であり、抑圧的な環境から自らを解き放つためにそうしたのだということが、観客も画像を通して納得するでしょう」。因みに、5階の屋上(6階に相当)から飛び降りた場合、露店の天幕は簡単に破れ、下着が積んであっても効果は少ないので、運よく生き残っても重傷を負ってしまう。だから、このシーンは「天幕にうまく着地して逃げ切れた」という現実的な脱出劇ではなく、残酷な現実から、純粋な愛で結ばれた二人が永遠に解き放たれた瞬間を映画的に表現したものと言える。こうして、映画史上、稀なエンディングは。「純粋な愛が、最も美しく輝いた瞬間」で終わる。

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