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Yohan – Barnevandrer ヨハン/出稼ぎ児童

ノルウェー映画 (2010)

ロビン・ピアデスン・ダーネル(Robin Pedersen Daniel)が主演する、19世紀末のノルウェーを描いた子供向き映画。北欧の映画大国はデンマークで、次がスウェーデン、ノルウェー映画は質・量ともに後塵を拝している。この映画も、「映画としての完成度」はイマイチだが、ロビン演じるヨハンの不幸な境遇があまりに可哀想なのと、ロビンがあまりに可愛いので、見る価値は十分にある。

現在一人当たりの名目GDPが世界2位(2014年の日本は27位)と豊かなノルウェーだが、映画の舞台となる1896年にはヨーロッパの最貧国の一つで、食い扶持を減らすため子供を平野部の大農場に出稼ぎに行かせる苛酷な児童労働が横行していた。ノルウェー最南端のヴェスト・アグデル(Vest-Agder)県の奥地にあるアウネンダーレン(Audnedalen)に住む貧しい樵(きこり)の一家では、三男ヨハン(Robin Pedersen Daniel)が長男のクヌートに嫌われ、何かある度に叱られていた。そして、例年になく冬が長く続き、食料がなくなった時、父が出稼ぎに行って留守の間に、家長顔をしたクヌートが独断でヨハンを出稼ぎに行かせてしまう。アウネンダーレンから70-80キロ離れた大きな港町クリスチャンサン(Kristiansand)を経て、北方の港町アーレンダル(Arendal)までさらに70キロを歩く苛酷な旅だ。派遣された先の農場では、意地悪な兄妹のせいで雇い主から棒で打たれるが、そんな環境でも同行の女の子アナの健康を気づかうヨハン。見ていて居たたまれない境遇を救ったのは、昔知り合ったジプシーの集団で、それが最終的にはハッピー・エンドへとつながる(そうでなければ、可哀想で見ていられない)。

ヨハンを演じるロビン・ピアデスン・ダーネルは、いかにも北欧らしい金髪碧眼の男の子。真面目な顔はハンサム、笑うと顔全体が崩れて可愛い。美少年のトップ・テンに入る。ノルウェー映画を取り寄せる人はあまりいないと思うので、「あらすじ」では、ロビンの様々を表情を紹介する。寂しげな、あるいは、悲しげな表情が最も素敵だ。年令的に他の3人の兄弟も対象になるかもしれないがリストには入れていない。特に、3人中最も重要な長男を演じるベンジャミン・トフト(Benjamin Toft)は、結構ハンサムだが、あまりにも憎たらしい役のため無視した。


あらすじ

カナダに移住し財をなした老ヨハンの回顧談が始まると、画面はいきなりノルウェーの大自然に切り替わる。毎朝ヨハンは、牛と羊を1頭ずつ山まで連れて行き、新鮮な草を食べさせる役目だった。遥か下の道を行くジプシーの馬車に向かって、手作りの縦笛で音楽を贈り、ジプシーもバイオリンで返礼する。しかし、突然長男のクヌートが現われ、笛を取り上げ、「何してる? ジプシーなんかと遊んで。役に立つことをしろ」と言い、縦笛をへし折る。クヌートは、ヨハンの持っているハーモニカが羨ましくてたまらないので、ことごとく辛く当たるのだ。
  
  

露天市が開かれる日、オーモット家は、家財を売って食料を買い込むことにした。母が、鏡を売ろうと言うと、すかさずクヌートが口をはさむ。「ヨハンだけ、犠牲払わなくていいの? ハモニカ、売らないじゃないか」。父は、小豚を売れば大丈夫と庇う。この日、ヨハンだけはいつも通り山で牛と羊の番。すると銃声が聞こえる。逃げ出した牛を追っているうち、熊が撃ち殺された場所に来てしまう。そこに隠れている小熊。ヨハンは、猟師に見つからないよう隠して逃げ、露天市まで走っていって父に見せる(飼ってもOK)。一方、市場では、持っていった小豚の1匹が逃げ出し大騒ぎ。ヨハンは、「わずか1クローネ! 世界一速い豚だよ!」と大声で売るが、全く売れない。「大麦が買えないわ」と心配する母。そこに児童労働の斡旋業者が寄ってきて、「いい値を 付けるぞ」と話しかける。「出稼ぎさせるんだ。食い扶持が減るぞ」。父は、「長男を一度出した。二度とさせるくらいなら、俺は土だって食う」と断る。業者は、「あんたの子供達が土を食うようになったら、知らせてくれ」と言って去る。
  
  

翌日から天候が劇的に変わり、最悪の冬が訪れた。ライ麦はなくなり燕麦も残り僅か、貴重な食料を食べる小熊にじゃ、クヌートの冷たい視線。「いつまで置いとく気だ?」。「父さんが、いいって」。「その粥、俺たちの食い物なんだぞ!」。母も食料不安でストレスが溜まっている。父は、食い扶持を減らす意味からも、海外に出稼ぎに出かけて行く。寂しそうに父を見送るヨハン。
  
  

唯一の庇護者がいなくなったヨハンのそれからの毎日は、最悪となった。スキーを取り上げ、学校に行かせない。自分と次男と四男の3人だけ学校に行き、三男のヨハンには知恵遅れの末っ子オナの面倒を見てろと命じる。しかし、雪靴で歩いて学校に行くヨハン。放課時間にクヌートに雪の上に突き飛ばされ、家に帰れと命じられる。家に戻ったヨハンは板を使って、「スキーボードだぞ!」と叫び、オナや小熊と遊ぶ。まだスノーボードなど存在していなかった時代だ。そして、凍った池の中から貝を採り、淡水真珠を取り出す。しかし、みなが眠ったと思い、ハーモニカを入れた宝箱が気になり床板を外したところを、クヌートに見られてしまう。
  
  

ヨハンは、採り貯めた真珠を持って教会に行き、牧師さんに干草を売ってもらう。大きな橇に干草を山と積み、背中にも一杯背負って家への道を必死で登るヨハン。途中で、ジプシーの馬車と遭う。干草を売ってくれと頼まれ、最初は断るが、「俺たちの馬が死んじまう」と言われ、「少し、あげるよ」。優しい子だ。しかし、やっとの思いで家に帰ると、「スキーは、いい金になった」「何だ? それっぽっちの干し草か?」とクヌートがケチをつける。そして、クヌートは、ヨハンのスキーだけでなく、小熊も、ハーモニカも全部ジプシーに売ってしまっていた。怒るヨハンに、「大人になれ。今は非常事態なんだ!」と冷たい言葉を浴びせる。本当に嫌な奴だ。ヨハンの悲しい顔がたまらない。ジプシーに返してもらおうと出かけるヨハンを見て、暗くなるからと止めに行った母が、戸口の雪で転倒。母は妊娠中なのだ。「赤ん坊が死んだら、お前のせいだからな!」とクヌート。そして、ヨハンを突き飛ばすと大事な鏡が割れてしまう。
  
  

赤ちゃんを助けようと、スキーボードで雪道を上手に滑り降りるヨハン。途中で狼の群れに遭い、決死の思いで急斜面を滑走し医者の元へ。そして、折り返し女医と馬車で家に向かう。辺りは真っ暗だ。狼に襲われ、銃で撃ち殺すシーンは迫力。家に着くとクヌートが出てきて、「お前は納屋に行ってろ」とヨハンを追い払う。家の外から、罪悪感を込めて心配そうに見守るヨハン。あまりに可哀想。結局、赤ちゃんは死んでしまった。
  
  
  

ヨハンが家に戻ってくると、家の前でクヌートと男が話している。「署名して」。ヨハンは出稼ぎ児童にさせられてしまった。母は、最後のお金を「舟賃よ」と言って渡し、「気をつけて」と言ってヨハンを抱きしめる。外へ出ると、クヌートが杖を渡し、「さあ、早く行け。母さんを悲しませるな」。元はといえば、自分に責任があるのに、冷酷で自分勝手な人間だ。
  
  

最初の集合場所に行くヨハン。引率は無口で陰険そうな男。目的地に向かって一列になって歩く子供たち。ずっと裸足の子もいれば、ヨハンのように1足しかない大事な靴を、履いたり裸足で歩いたり交互にする子も(下の写真のヨハンは裸足)。ある夜、引率の男が、他の子の荷物をあさっているのを見てしまうヨハン。それに気付く男。気まずい雰囲気だ。
  
  

舟賃の要る渡し場に到着。昔から知っていた同じ村の女の子アナの舟賃が紛失している。ヨハンは舟賃を持っていたが、付き合って残ってあげる。ヨハンが、お金を盗んだのはきっと引率の男だと言った時、アナは、「で、黙ってたわけ? 臆病ね」と手厳しい。それでも、ヨハンはアナの傷だらけの裸足を見て、自分の靴を貸してやる。幸い途中で、顔見知りのジプシーと偶然出会い、クリスチャンサンまで乗せていってもらう。
  
  

無事グループに合流したヨハンたち。この先、映画では短時間だが、実際の距離はアウネンダーレン~クリスチャンサンと同程度。かなり苦労したはずだ。ようやく目的地に接近し、最初にヨハンが呼ばれ、「この方角だ」と告げられる。「僕、最初の農場じゃないよ」。「お前がノーマに行くんだ」。前々から睨まれていたヨハンなので、こうなったのであろう。一人になって歩いていくと、やがてノーマ農場に出た。最初に会った農場の使用人ギュスタフが親切な若者だったので、ヨハンはホッとして中に入って行く。
  
  

ギュスタフがヨハンを紹介すると、さっそく料理係から文句が。「そんなの困るわ。台所を手伝う女の子を頼んだのに、牛飼いの男の子だなんて」。そこに旦那様が登場。2人の兄妹も一緒だ。「名前は?」。「ヨハンです」。ここで女の子が「台所向きね」と兄にヒソヒソ。「来たからには、役に立ってもらわんと」と言い、「カトリーナ、農場を見せてやってくれ」。そんなに怖い人でもなさそうだ。自分の事情をよく知らないヨハンが、カトリーナに「僕は“出稼ぎ児童”なの?」と訊くと、「そうよ。それとも、金持ちの娘さんと結婚するつもりで来たの?」と冗談。さらに、寝場所の納屋へ連れて行き、「ここが、王子様と牛さんの家。横になって、可愛い女の子の夢でも見れば?」。干しワラをぶつけ合って笑う2人。使用人はいい人ばかりだ。
  
  

ヨハンの不幸は、屋敷のそばでキツネの親子のいる巣を見つけたこと。それをうっかり台所で話したのを、主人の娘に聴かれてしまう。兄と妹から巣の場所を教えろと迫られ、断るヨハン。それから2人の意地悪が始まった。初日。張り切って牛飼いに出かけたヨハンが、小川で顔を洗っているすきに牛が1頭隣の境界を越えた。監視していた兄妹がさっそく父に告げ口。「もう、注意を忘れたのか?」「体に覚え込ませてやる」「手を出せ」と言って、ヨハンの手のひらを棒で強く叩く主人。
  
  
  

別な日、ヨハンが牛飼いに出た時、隣の農場で牛飼いになったアナと出会う。奇遇を喜ぶ2人。微笑ましい光景だが、牛が2頭いなくなる。例の兄妹がこっそり連れ帰ったのだ。「隣の娘と遊んでて、俺の牛を忘れただと?」。今度は、2度叩かれる。「トビアス達が見つけて、幸運だった」「飯がすんだら、寝るまで薪を割ってろ」と主人。痛さでうずくまるヨハン。
  
  
  

ある雨の日、ヨハンが会ったアナは、ひどくやつれていた。顔にも足にも傷があり、熱もある。主人に殴られたという。足が冷たいので、牛の糞に突っ込んで暖める(信じられない!)。この日から、ヨハンはアナのことが心配になった。数日後、隣の農場との境界に行ってみると、別の牛飼いがいた。「アナは、どこ?」。「知ったことか」。「答えろよ。病気なのか?」。「死んだ」。「ウソだ!」。呆然とするヨハン。しかし、その間に、牛が熊に襲われてしまう。「この役立たず!」「牛から離れるなと言ったのに!」と強くひっぱたかれ、体を激しく揺すぶられる。
  
  
  

アナが心配なヨハンは、その夜こっそりと農場を抜け出し、アナに会いに行く。「アナ、生きてる?」。「ええ、でも警察から知らせがあって、ママが死んだの」。小さな弟オライも一緒のアナの境遇は悲惨だ。「あたしが治らなかったら、オライを連れてってくれる?」。「バカ言うな。良くなってるだろ」。元気がつくようにオレンジを買ってやろうとアーレンダルの町に出るヨハン。そこで児童労働の斡旋業者に見つかってしまう。「逃げ出して来たんだな?」。そして、さっき父と会ってとても喜んでいたと嘘を付く(実際は、怒って羽交い絞めにされた)。そして、「お父さんには、どう説明する? 可愛い息子が、仕事から逃げたと聞いたら、どう思われるかな?」と諌める。
  
  

窓から逃げ出したヨハンは、偶然、金持ちの家でバイオリンを弾いている顔見知りのジプシーと会う。そこで、「アナが重病で死にそうなの」と悩みを打ち明ける。冒頭シーンで笛を吹いたり、干草を分けてあげたよしみで、ジプシー全員が協力し、アナとオライを助け出してくれる。
  
  

アナの健康が回復した頃、元主人が仲間と鉄砲を持って探しにくる。森へ逃れる3人。翌日、川まで出て魚を採り焚き火で焼いて食べる。しかし、夕方となり、そこを離れようと火を消した時、熊の気配が。辺りはどんどん暗くなる。オライが襲われそうになり、ヨハンが叫んでおびき寄せる。そして、何とか火をおこし、燃える棒きれを振り回す。その時銃声がして、熊は川に落ちて死んだ。撃ったのは、ヨハンを探しに来た父だった(父は、斡旋業者からヨハンが農場にいると聞き、探し回っていた)。
  
  

翌日、農場の主人の家で、父と、町の要人を交えた食事会が開かれる。おもむろに主人が口を開く。「あんたが撃った熊の毛皮を買いたい」「幾ら、値をつけるね?」。父:「少し燃えたから」。主人:「どうかな100クローネで?」。父:「できれば、あと1、2クローネ」。主人:「じゃあ、200クローネで」。客:「破格値ですな」。主人:「牛飼いのチビ君の思い出にしたいんでね」。主人は、心の底はいい人だったのだ。その場に現われたアナの元主人は、児童虐待で連行されていった。さらに、意地悪ばかりしていた兄妹も、父に促され、兄:「悪かった」。妹:「さあ これ。ごめんなさい」と新品の靴をヨハンに贈る。「ありがとう」と微笑むヨハン。
  
  

父とヨハンは、ジプシーの一行と一緒に故郷に戻り、そこで一家と感激の再開を果たす。ここで再びシーンは老ヨハンに切り替わり、老ヨハンが、かつて意地悪だったクヌートと和解するところで映画は終わる。結果論的だが、クヌートの悪意のお陰で、妻アナと知り合えたので。
  

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