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Toast (TV) トースト/幸せになるためのレシピ

イギリス映画 (2010)

イギリスのテレビでお馴染みの料理研究家ナイジェル・スレイター(Nigel Slater)の少~青年時代を面白おかしく描いた作品。映画そのものはとてもよくできているが、見ていて腹が立ったのは、映画の前半(2/3)の主役を務める9才のオスカー・ケネディ(Oscar Kennedy)の名が冒頭に全くないこと。後半(1/2)に現われ画面をさらうヘレナ・ボナム=カーター(Helena Bonham Carter)が最初というのは頷けるが、4人だけクレジットが出て、最後が“and”で受けてフレディ・ハイモア(Freddie Highmore)で終わり。フレディは後半(1/3)にしか顔を見せない。出演場面がの一番長いオスカーは、エンド・クレジットに出てくるだけ。こうした例はほとんど見たことがないが、主演しているのに無名だからと冒頭に名前を出さないのは失礼である。

さて、映画は「ナイジェル・スレイターの幼少期の記憶に基づくもので必ずしも正確なストリーではない」と断った上で、コメディタッチで悲惨な食事環境を見せていく。父親は工場の社長なので、上流階級ではなくても経済的には貧しくはない。しかし、食事はお粗末だ。理由は奥さんに料理の才能が欠如していることで、一番上手な料理はバターを載せてこんがり焼いたトーストだ(もちろんトースターで)。それが、映画の題名にもなっている。ナイジェルは、そんな食生活の中、まともなものが食べたいと願うが、それは叶わぬ夢だった。しかし、母が、恐らく肺癌で死亡した後、お手伝いさんとして雇われた「ポッターさん」が家に闖入してくると、様相は一変する。労働者階級で、夫まである身であるながら、ヘレナ・ボナム=カーター扮するポッター夫人。彼女は、最初は熱心な清掃ぶりで、次は見事な料理でナイジェルの父を魅了し、遂にはダンス・パーティーに誘うまで親密になる。労働者階級の既婚女性との不穏な関係に不審と不満で一杯のナイジェル。しかし、料理は気に入っている。ここで、ナイジェル役が17才のフレディ・ハイモアに代わり、料理に目覚めたナイジェルと、自分こそ一番と自信を持っている「ポッターさん」の間で激しいつばぜり合いが起きる。そして、恐らく甘いものの食べすぎで急死する父。ナイジェルは、自分の人生のくびきだった「ポッターさん」を捨て去り、ロンドンへと向かう。

オスカー・ケネディ(Oscar Kennedy)は、ごく普通のイギリスの男の子。演技もさほど巧いわけではないが、強権的な父に見せる諦めにも似た寂しい表情と、おいしいものへの憧れの表情には納得できる。フレディ・ハイモア(Freddie Highmore)は、このサイトで紹介できる年令上限に近い。役柄は面白いが、演技は上手とは言えず、かなり失望した。2人分の紹介なので、あらすじは若干長くなっている。


あらすじ

映画は、ナイジェルのナレーションから始まる。「僕は、ナイジェル。9才だけど、缶入り野菜以外食べたことがない」。そして、こうも述べる。「父が怒りっぽかったのは、栄養不足のせいかも。父は甘党だったが、甘い人間ではなかった」。なかなか上手な脚本で、一気に物語りに引き込まれる。「母は、優しかったが、料理は まるでダメ、サンドイッチですら。お陰で、いつも ひもじい思いを」、云々。その後、ナイジェルにせがまれてケーキを作ろうとするシーンがある。ボールに小麦粉を篩わずに入れ、バターを1本丸ごと落とし、へらで乱暴にかき回し、とまるで漫画みたいなひどさ。ケーキが丸焦げになっている間、作っていた夕食(鍋に缶詰が3つ入っているだけ)も焦げてしまい、結局トーストに。このトーストに対するナイジェルのナレーションがいい。「ママのトーストは絶品。表面が カリカリに焼けてて、中はふんわり。溶けたバターの塩味は最高だった」。トーストはナイジェルの子供時代に象徴であり、唯一の「美味しいもの」だった。
  
  

そんなナイジェルに、新しい視点を与えてくれたのは若い庭師のジョシュだった。堆肥を見せ、「素晴らしいだろ? 生きてるんだ」。庭に生えた植物を見せながら、「何千もの生命が誕生し、それが臭覚や味覚を刺激してくれる」。最後に野菜畑で生えている赤かぶをそのまま食べる。「そんなの食べて汚くない?」。「汚いと思うかもしれんが、害なんかない。それに第一美味いしな」。「どこが?」。「新鮮だ」。これは、ナイジェルにとって新鮮な驚きだった。
  

ナイジェルは、ベッドの中で消灯の時間も隠れて料理の本を眺めるほど、食べ物に関心があった。ある日、どうしてもスパゲッティを食べたくなり、ママに頼み込んで材料を買ってもらう。ママを主導して作っている時、父が帰宅して、渋い顔で言う。「何だ、それ?」。ナイジェルは、「ボローニャ風スパゲッティ。イタリア料理だよ」。「イタリア? 一体 何考えとる?」、そして、茹でる前の麺を食べて、「石みたいに硬い」。イタリアに対する偏見は強い。ナイジェルが「料理前だから」と言っても、「バカな真似しおって」と一蹴。結局料理は、ナイジェルの奮闘もあってちゃんとでき上がったが、「口に合わん」の一言で、結局トーストに。
  

ママの容態が急に悪くなった。酸素吸入しないといけないほどに。ある夜、父が寝室に入ってくる。様子が変だ。そして、「クリスマス・プレゼントだ」と言う。「でも、まだ1ヶ月も」というナイジェルに、「明日の朝、開けよう。お母さんから頼まれた」。結局、その夜母は亡くなり、父は泣き崩れる。奇妙な夫婦だったが、嫌いだった父も、心から母を愛していたのだと悟るナイジェル。
  

妻を失い、何ヶ月もトーストを続けた後で、父は、缶詰食品を温めるという大胆な行動に出た。しかし、それすら満足にできなかった。暖かくもなっていない缶詰の中味が皿に並べられ、さあ食べろと父。「冷たいままだ」。「まず、食え。アフリカの子供達なら喜んで食べるぞ」。「ヤだ。食べない」。「警告しておく」とまで言われて一口食べ、吐き出して、逃げ出すナイジェル。
  

友達からの助言を受け、ナイジェルはお小遣いをはたき、父の大好物の燻製のタラを買ってくる。いつもの帰宅時間に合わせて焼き始めたが、ちっとも帰って来ない。それでも一応食卓に並べるが、心底がっかりだ。帰宅した父は、「お前が 作ったのか?」。「冷めちゃった」。「構わんよ。わしの大好物だ」。「でも、最悪だよ。パパ、食べなくていいんだ」。「何、言ってる、おいしいぞ」。この風変わりな父子の間で交わされた、初めての息子想いの会話だ。
  

ナイジェルの行動がきっかけになったのか、ある日、学校から帰ってくると、変なおばさんがぶつぶつ文句を言いながら掃除をしている。「誰なの?」とナイジェル。「掃除婦だよ。何に見えた? ジャンヌ・ダルク?」「前に掃除した奴(つまり、母のこと)、サイテーだね、こりゃ」。第一印象は最悪だ。「パパ、知ってるの? 勝手に入って、台所の床磨いてる」。「ムダ話は、もうたくさん。生意気な ガキね」。すごい個性の持ち主。ヘレナ・ボナム=カーターだから出来るポッター夫人の登場だ。その後、掃除婦がいろいろと余分な仕事をして、父がそれに感心する様子が描かれ、ナイジェルのナレーションが入る。「この人が、長続きするとは思わなかった。でも、それは間違いだった。いつしか、ポッターさんは、父の日課の一部になっていた。そして、洗い、磨き、漂白しながら、生活に割り込んできた」。この台詞も実によくできている。
  

掃除しかしなかった「ポッターさん」が、真価を垣間見せるシーンが登場。帰る間際に、「お2人に、ちょっとした プレゼントをと」と言って食卓の上に置いたアップルパイを見せる。もちろん丸ごと1個で、彼女が焼いたものだ。彼女は「間に合わせですけど」と言っていたが、「ポッターさんのパイは、しゃくだが悪くなかった。正直、悪いどころか、抜群で、これまで口にした、最高の出来栄えだった」とナレーションが入り、ナイジェルは最高に嬉しそうにパイをほうばる。
  

それでも、ナイジェルの「ポッターさん」嫌いは続く。「ここで料理してること、旦那さん 知ってるの?」。「主人づらは おやめ。掃除婦やってても、バカじゃない。ガキね。苦労知らずの ボンボンが」。反撃もすごい。かくして、父と「ポッターさん」は仲良くホイスト大会へ。「わしにだって、人生はある」と言い残して。その次は、もっと昇格し、年に一度のフリーメイソンの食事とダンスの会へ。同行したナイジェルは、階段を降り、会場に入るときに父が「こちらジョーン。ジョーン・ポッター」と紹介し、「ポッターさん」が「初めまして」と言ったあと、すかさず「ウチの掃除婦」と口をはさむ。2人への復讐だ。
  

しかし、こうした抵抗は全く役にたたなかった。ある日父が、「来るんだ、ナイジェル」と言い、車に乗せて郊外に連れて行き、一軒の家の前で停まる。そして、「実は、良かれと思う方法を、ずっと考えてきた。で、一から出直したら どうかと」。一からということは、人里離れた田舎で「ポッターさん」と暮らすということだった。家から走って逃げ出すナイジェル。なだめようとする父を制して、「ポッターさん」が代わりにやってくる。「ショックだったってことは、分かる」「とっても辛いことも」「あたしは敵じゃない、ナイジェル」「感情的なシコリは忘れて、一から始めましょ、3人で」「チャンスを ちょうだい」とマトモに話しかけるの。ところがナイジェルは、「イヤだ! あんたは掃除婦だ! ウルヴァーハンプトンに帰れ!」と取り付く島もない。そこからの「ポッター節」が凄まじい。「よく聞きな、このわがまま坊主」「あたしゃ、何もかも捨ててココに来てる」「ウルヴァーハンプトンに戻ったら、リンチ」「だから、ブツクサ言わずに黙って一緒に住むんだ」「さもなきゃ、人生ドン底にしてやる」。背筋がザワっとするシーンだ。ヘレナ・ボナム=カーターの真骨頂。
  

田舎暮らしは、グルメ三昧の日々となった。毎日食卓を彩る豪華絢爛たる逸品の数々。労働階級出身の「ポッターさん」がどうやって修業したのかは謎だが、実話なんだから「あり」なんだろう。そんな彼女が、危機感を覚える日が到来する。ナイジェルが男子生徒の中で一人だけ家庭科を選び、料理に真剣に取り組み始め、自信の一品をこっそり家に持ち帰り、父に出して見せたのだ。愕然とする「ポッターさん」。父が、「なかなかイケるぞ、ナイジェル 張ったな」「てことは、毎週水曜は、お前が料理するのか?」。「うん そうなるね」。
  

自分の領域を侵されたくない「ポッターさん」は、ナイジェルが料理を持って帰る日に、いろんな手を使って妨害工作。そして、今まで作らなかった真打のレモン・メレンゲを作ってみせる。そして、そのあまりに見事な出来栄えに唖然とするナイジェルに、「こんなレモン・メレンゲ、食べたコトないでしょ。他の誰にも、この味は作れない。競争しても、勝てっこない。足元にも及ばない」と言う。お前は引っ込んでろ、との宣言だ。
  

癪に障ったナイジェルだが、どう試しても、あの味が再現できない。そこで、窓からこっそり盗み見をして、遂に同じものを作り上げるのに成功。さっそく父に勧めるが、「今は何も入らん」と断られる。食卓に置かれた「ポッター風レモン・メレンゲ」のそっくりさんに近寄り、じっと見て、一口味わう彼女。「あたしのレシピよ」「よくも盗んだわね」とたちまち見抜く。そして、「料理して、掃除して、いろいろ世話だって焼いたのに、これがその恩返しかい?」「台所から出てお行き。これ以上、盗まれたくないからね。恩知らずの、くず野郎に」。例によってすごい。
  

その後も、収まる気配も見えない2人のつばぜり合いに、とうとう父も爆発する。「やめんか! もうたくさんだ! いさかいも、食べ物も!」「頼むから、仲良くしてくれ!」「惨めすぎる」。自分の蒔いた種とはいえ、朝から晩まで食べさせられ続けて父にとって、魂の叫びか。
  

かくして、父は過食による肥満で死亡。帰宅したナイジェルは、父の死を知らされると、「あんたのせいだ」とだけ告げ、自分の部屋に行き荷物をまとめ始める。部屋まで紅茶とケーキ持って押しかけてきた彼女が、「黙ってないで。何か言って」と言うと、「あんたの勝ち」「僕は出て行く。二度と会わない」。「母親でしょ!」。「誰でもない(You're nobody)」と切って捨てる。
  

ナイジェルは、スーツケース1つで家を飛び出てバスに乗った。そのままロンドンに向かい、イギリス最高のサボイ・ホテルの厨房に現われ、見習いのコックとして雇ってくれと頼む。その時に登場するシェフ役がナイジェル・スレイター本人で、しかも、あのトーストをかじりながら、「分かった、雇おう」というシーンで終わる。
  

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