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25 Hill 「25ヒル」道路

アメリカ映画 (2011)

非常にマイナーな映画会社によって製作された小品。魅力はネイサン・ギャンブル(Nathan Gamble)の一番可愛い作品という点と、アクロンで行われる全米ソープボックス・ダービーの開催が資金難で中止されるのをネット動画で救おうというアイディア。ネイサン・ギャンブルがすぐ後で出演した『イルカと少年(Dolphin Tale)』でもネット動画でイルカを救おうとしており似ているが、こちらはせっかくの金髪を黒く染めているのでネイサンらしくない。

戦争で父を亡くしたトレイが、消防士の息子を亡くした消防所長のロイ(Corbin Bernsen、監督・脚本・製作を兼ねる)の助けを借りて、全米ソープボックス・ダービーに挑戦し、悲しみを克服するという単純明快なストーリー。日本人にとってはソープボックスは馴染みがなく、映画でも他にフランキー・ミュニズ(Frankie Muniz)主演の『ミラクル・チャレンジ/憧れのトロフィー(Miracle in Lane 2)』がある程度。

トレイ役のネイサン・ギャンブルは、さらさらの金髪のおかっぱ頭でとても可愛い。ただ、表情がワンパターン的で、演技も抜群に上手いとは言えないし、どの役をやっても口元の締りが悪いのはよろしくない。


あらすじ

父が、クリスマス・プレゼントにと言って変なものをくれた。「これ何?」とトレイ。「2人で、こいつを仕上げたら、お前が走らせる」「ソープボックス・ダービー、初めて聞いたのか?」「パパが昔 どれほど憧れてたか」「行けなかったが、いつか必ず行くんだと…」「夢だった」。しかし、一緒に車を作るはずが、父はすぐに予備役で召集されてしまう。そして、戦死の悲報。「ああ、坊や…」と泣き崩れる母。「神と国家による応召ほど尊いものはありません…」。墓地で涙を流すトレイ。この導入シーンは意図的に彩度が落とされている。
  

父親を亡くしたショックで、トレイは勉強に熱が入らず、落第寸前だ。見かねた校長先生は、「トレイ、いいかしら… 会って欲しい人があるの」「あなた達なら 相性抜群だと思うの」と不思議なことを言って、トレイを消防署のロイ署長に会いに行かせる。
  

トレイが部屋を訪ねても、ロイは剣もほろろ。追い返そうとするが、「バナー先生が、あなたと仲良くしろと」の言葉で、ようやく口をきいてくれる。「俺と仲良くだと?」「そう言われたのか?」。名前を交換し、「いいか、会ったぞ。仲良くな」「終わり」。何ともぶっきらぼうだ。「先生はきっと、僕たちに何か共通点があると…」のトレイの言葉に、「敗残者同士をくっつけりゃ、治療になるってか?」「逆だ。悪化する」「俺は マトモだし」と冷たい。しかし、トレイも負けてはいない。「そうかな」「僕よりバレバレだけど」「あんたはタフガイに見えるけど、心は深く傷付いてる」。結局、消防士だった息子を9.11テロで亡くしたロイは、トレイに対し「お気の毒クラブ」 にようこそと告げたが、それは「さよなら」の意味だった。トレイはすかさず、「校長先生は、僕たちの喪失感が、一種の父と息子の代理関係によって癒される、と考えたのさ」と切って捨てる。そして、「僕らは意見が合わない。時間つぶして、ごめん。先生には、テキトーに言っとくよ」。何ともクールだ。
  
  

この亀裂が埋まるきっかけは、トレイがネットを見て、ロイがかつて全米ソープボックス・ダービーで優勝したことを知った瞬間だった。校長の狙いは「お気の毒クラブ」ではなく、ソープボックス・ダービーだったのだ。さっそくロイの家におしかけるトレイ。そして、「あのロイ・ギブスなんでしょ?」「バナー先生は、嘆き合うため、会わせたんじゃなかった」。トレイは、昔ロイが練習した「25ヒル」道路という直線一定勾配の下り坂に連れて行ってもらう。ロイは、「この角度。アクロンのコースと ぴったり同じだ」と話す。「ウチのすぐ近くで、好きなだけ練習できた」。「だから勝てたの?」。「賢いガキにしては、アホな質問だな。お前の考えは?」。「父さんは、知ってて買ったんだ」。「分かってるじゃないか」。
  

その後で、父に買ってもらった組み立てキットを見せるトレイ。「こいつが校長さんの策略か」「俺がパパ役、お前が息子役。二人でこいつを作って、お前が予選に勝ってオハイオへ」「お前は優勝。俺達みんな、ハッピーて訳だ」。ロイは自嘲的で口が悪い。そこに母が登場。ロイを紹介した後、トレイは余分なことを言ってしまう。「一緒に仕上げるんだ」。否定するロイ。母が出て行った後、「二度とやるな」「俺を困らせるな」と強く言う。トレイは、「大人なんだから、好きにしたら?」「もし、ここで、二人して“パパと息子ごっこ”やったら、そりゃ最悪だよね」。実にズケズケものを言うユニークなキャラクターだ。ついでながら、使っている俗語だらけの英語はかなり難しい。結局、ロイも折れ、「明日、転がしてみよう」。しかし、その後、またケンカ。「パパは言ってた。人生には必要だって。“忠誠と勇気” が」。それを車の名前にし、「僕たちの車だ」と言ったところで、ロイがカチンとくる。そして、「この話は終わりだ」と言って出て行ってしまう。
  
  

明くる朝、いくら待ってもロイが来ないので、捨てられたとあきらめ、自転車でとソープボックス・カーを坂の上まで引っ張り上げるトレイ。坂の上に車を置き、動かないように後輪に石で固定してから乗り込み、石を外そうとする。その時、後ろからクラクションが聞こえ、ロイが車から降りてくる。見かねてやってきたのだ。「おい、何やっとる?」。「見ての通り」。「ケガするぞ、死ぬかもな」。「へえ、心配?」。お互い口の悪さは一級だ。しかし、ロイの「悪かった」「迎えに行かんかった」「だが、来たからには後悔させるな」の言葉に、従うトレイ。トレイの滑走練習が始まる。
  
  

いよいよ予選だ。朝、ロイがトレイの希望通りに青と白の炎が描かれ(アメリカ国旗の赤白青)、“忠誠と勇気”と書かれた車で迎えに来る。感激して喜ぶトレイ。しかし、レース地に向かう車の中では、相も変わらぬ二人だった。「吐いたことは?」というトレイの謎の言葉から始まり、「何とか抑えようとしても、どうしても出てきちゃう」「ポイントは、いくら頑張っても抑えられないってこと」。そして、「だから、頭だって同じだと思う」「何か悩み事があったら、出てきちゃう」。最後に、「お酒をそんなに飲まなかったら、心の痛みも追い払えるんじゃないかな」。実はトレイは、息子を亡くしてからのロイの飲酒癖をずっと心配していたのだ。この会話は、しかし、ロイの皮肉たっぷりの「そうか、旅行相手は大先生だったか」で、あえなく終了。
  
  

予選のカリフォルニア大会。参加者はかなり少ない。昔と違って娯楽や趣味が増え、人気がガタ落ちしているのだ。「のんびりしてるね、州大会なのに。誰もいない」とトレイ。しかし、初レースとなると彼も緊張する。「始まっちまうと、頭の中が真っ白になる」「そんな時、勝たせてくれるのは集中力だ」と諭すロイ。スタート台での最後の会話。「深呼吸しろ、さあ…」。「怖いよ」。「分かっとる」「いいぞ、大丈夫」「頑張れ」。「うん」。
  

「25ヒル」での真っ直ぐ走る練習と、かつての優勝者ロイの「体を丸めろ」という加速姿勢の教えのおかげで無事予選を通過したトレイ。その次に行われた西部地区大会も無事通過して、遂にアクロンへの出場権を獲得することができた。この裏には、最初のレースで優勝候補の女の子が見せた“全身を使ってプッシュするテクニック”を真似できたことも大きかった。
  

すべてが順調に見えたとき、突然ロイから意外な話を伝えられる。全米ソープボックス・ダービー協会に対し、銀行が融資の返済を要求、出場者減のため返済できないため、今年のダービーそのものが中止されてしまったのだ。愕然とするトレイ。それは、トレイに夢を託していたロイにとっても同じだった。「教えてくれ…」「ダービーに、一体何の意味が?」「悪かった」「夢は終わった」「一瞬でも信じた俺がバカだった。阿呆だ」「恥ずかしいよ」とロイ。そして、酔っ払って火災現場に行く途中、事故を起こして足に重傷を負ってしまう。しかし、トレイはもっと行動的だった。校長先生をくどいて、わざわざ、アクロンの銀行の頭取にまで会いに行き、直訴する。しかし、「私の裁量を超えている」「ダービーは、当行に多額の負債があるんだ」「お客様の関心は、資金の的確な運用だから」「このまま赤字を増やし続ける訳にはいかない」と拒絶されてしまう。
  
  

トレイは、自分のダービーへの熱意、戦死した父への思い、地元の人たちの応援などを、「ダービーを救おう」「僕は、トレイ・コールドウェル、絶対あきらめない」という1本の動画にまとめ、YouTubeに投稿する。これが大きな反響を呼び、たくさんのカンパが寄せられ、有力なスポンサーも乗り出してきて、大会の復活開催が決定した。
  
  

“大会を救った人”として競技場で喝采をあびるトレイ。人気は最高だが、実力もそれに劣らないことを、順調に勝ち抜くことで証明していった。そして、遂に決勝戦にまで登り詰める。決勝の前夜、母とベッドで話し合う。「いい日だったわね」。「サイコー」。「パパのこと、考えてる?」。「いて欲しかった」。そして最後に、「明日は、絶対勝たないと」。「できるわよ」。「でも、どうなっても、パパは誇りに思うわ」。「大好きだよ」。すがすがしい会話だ。母が眠った後、トレイはベッドから降りて床に跪き、神に祈るのだった。「僕、勝ちたいんです」「父さんのために」「それに、できれば、もう一つお願いが」「ロイを救って下さい」。
  
  

トレイの祈りを聞いてしまった母は、そのことを車椅子で応援に来ていたロイに話す。ロイはトレイを誘って散歩に出る。そして、こう切り出した。「お前を知ったから、今の俺がある」「このアクロンで創設されたアルコール中毒者更生会。俺は、そこに行くつもりだ」。嬉しさのあまり涙を流すトレイ。アルコール中毒のロイだけでなく、皮肉屋だったトレイも、ダイビーによって変わったのだ。とてもいい子に。決勝戦は、激しく競り合った結果、残念ながらトレイは3人中の3番で終わる。優勝した常連の女の子を寂しく見つめるトレイ。
  
  

「ビリっけつ」と落胆するトレイに対し、ロイはこう言ってほめ讃えた。「お前は勝ったんだ、ずっと大きなレースに」「たった一人で、ソープボックス・ダービーを救ったんだ」「70年の歴史、それを守ったんだ」「お前が救ったから、伝統が残った」「おめでとう」。
  

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