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Flight of the Navigator ナビゲイター

アメリカ映画 (1986)

ジョーイ・クレイマー(Joey Cramer)が単独主演のように頑張るファンタジーSFアドベンチャー。前半の謎めいたスリリングでテンポの早い展開と、後半の空を自由自在に飛び回る爽快感の組会せは、観ていてどきどきさせられる。それに加え、主人公であるデビッドの不安や喜びをジョーイが的確に表現していて、ドラマとしても見応えがある。2012年にブルーレイが発売されたが、この種の旧作でブルーレイが出るのは珍しいし、製作元のディズニーはリメイクを視野に入れており、現在でもオリジナルの出来栄えが高く評価されていることが分かる。

友達の家で遊んでいる弟を迎えに行かされたデビッド。森の中を歩いていると、愛犬が崖の下の何かに向かって吠える。デビッドが覗き見ようとすると、ツタが切れ、崖下に落ちて気を失ってしまう。気が付くと犬はいない。崖をよじ登って、家に戻ると、ドアを開けたのは見知らぬおばさんだった。誰かと訊くと、そちらこそ誰かと訊かれる。非常に謎めいたスタートだ。当然、動揺するデビッド。だが、謎はさらに深まる。警察で分かったことは、デビッドの捜索願いが8年前に出されていたという奇怪な事実。そして、連れて行かれた先の家から姿を見せたのは、8年分年老いた両親だった。病院では、特殊な脳波が検出され、データ化すると宇宙船ような図が現れる。一方、NASAは小型の宇宙船が送電塔にぶつかって停止しているという情報を得て、秘密裏に研究所に搬入。両者の形状の類似性に注目したNASAは、デビッドを研究所に連れて行って検査。560光年先のフェイロンという惑星まで行っていたという情報を脳波から読み取った。NASAのモルモット的な対応に不満を持つデビッドだったが、脳に響く声に導かれ、NASAの保管庫に行くと、それには人工知能を持つ宇宙船が収容されていた。家に戻りたい一心で、船に乗り込むデビッド。逆に、人工知能の方は、送電塔にぶつかった際に宇宙航行用の星図のデータが破壊されてしまい、たまたまデビッドの脳の未使用領域にコピーしておいた星図のデータがどうしても必要だった。両者の利害が一致し、宇宙船で家に向かうデビッド。この空の旅が爽快で、時にはスリリング、時にはコミカルで、素晴らしい出来栄え。しかし、故郷に戻ったデビッドを待っていたのは、NASAと警察。それが意味する検査漬けの一生から逃れようと、デビッドは8年前の過去へと遡る危険な旅を、死を覚悟で決意した。そうすれば、元通りの生活に戻れる可能性があるから。

ジョーイ・クレイマーは、12才のどこにでもいそうな普通の少年だが、これだけ複雑な筋書きの映画を一人でひっぱっていけるだけの演技力と、魅力を兼ね備えている。出演作は3本だけ、残り2本は端役なので、これ1本で映画史上に名を残している。ストーリーの関係で、あらすじが長くなってしまったが、ジョーイのいろいろな表情を捉えることができた。


あらすじ

1978年7月4日。フロリダ半島南端のフォート・ローダーデールで開催されていた南フロリダ・フリスビー犬選手権大会を見に来ていた一家。両親と12歳のデビッドと8歳のジェフの4人家族だ。デビッドの愛犬ブルーザーはフリスビーが大の苦手。生意気盛りの弟は、「そんなバカ犬、フリスビーなんてできるもんか」と手厳しい。「そうでも、バカ犬なんて呼ぶな!」。「じゃあマヌケだ」。「いつか優勝するからな」。「よく言うよ」(1枚目の写真)。途中で弟が友達の家で花火をやりたくて降りた時も、兄:「イタチ」。弟:「ダサ~」。「ごますり」。「クズヤロ~」。「9歳の誕生日が迎えられると思うなよ」と悪口の応酬。帰宅した際には、母から「仲良くしてやったら」と注意され、「あんなヤな奴」。父:「年頃なんだ。そのうちやめる」。「それまで生きてりゃね」。「それが弟に言う言葉か?」。「さあ、どうかな」。「お兄ちゃんってこと忘れずに」。「分かったよ」。夕方になり、母から「ジェフを迎えに行って」と頼まれる。「8歳だよ、ママ」。「一人で森を歩かせたくないの」。「1キロもないよ」。「じゃあ、急いで。ハンバーガーや花火が待てるわよ」(2枚目の写真)。結局、しぶしぶ行くことに。ブルーザーと一緒だ。
  
  

デビッドは、暗い森が苦手。ブルーザーに、「頼れる男になれよ。女の子にもモテるぞ」と話しかけるが、自分自身を鼓舞しているように聞こえる。枝の折れる音がすると、思わず足を止めて、「ジェフ?」と呼びかける(1枚目の写真)。犬が吠えた時には、「寄るな、銃を持ってるぞ!」。恐る恐る前進するデビッド。そこに奇声を上げて幹から飛び降りる弟。「参ったか!」とからかわれ、「殺してやる!」と追いかけようとした時、また犬が吠える。犬を心配して近づいていくと、犬は崖の端にいた(2枚目の写真)。下に何があるのかと、ツタにつかまって覗き込んだ瞬間、ツタが切れてデビッドは谷底へ。そう高くはないのだが、落ちたショックで気を失う(3枚目の写真)。
  
  
  

デビッドの姿を写す構図が変化する(1枚目の写真)。デビッドは気が付き、体を起こす。呼んでも犬がいない。仕方なく、崖を這い上がって家に戻る(2枚目の写真)。普段はロックされてない玄関扉が開かない。弟の仕業だと思い、「開けろ、この悪ガキ、聞こえないのか!」と扉をドンドン叩く。すると扉が開き、顔を覗かせたのは、見たことのない60代女性(3枚目の写真)。驚くデビッド。「誰なの?」。「あなたこそ誰?」。「僕、デビッド。ここに住んでる」。女性は、笑顔で「家を間違えたのよ、坊や」と答える。しかし、デビッドはそれどころではない。「ママはどこ?」。「さあねぇ。道に迷ったの?」。デビッドは、女性をすり抜けて家に入り、制止も聞かずに、「ママ? パパ?」とあちこち走る回る。2階の自分の部屋に行くと、そこには知らないおじいさんがいる。逃げ出し、階段の途中で2人に挟まれて座り込み、「お願い… ママとパパはどこなの?」と泣き出すデビッド(4枚目の写真)。
  
  
  
  

警察署で1人座り、不安げに待つデビッド(1枚目の写真)。向こうでは、刑事と女性警官がひそひそ話している。コンピュータから出た資料に、行方不明者の情報があり、「デビッド・スコット・フリーマン。髪:茶色。目:茶色。最後に見られた時の服装は、白い横縞の入った青のポロシャツ、ブルー・ジーンズ、白のスニーカーで、青のナップサックを持つ」とあった。まさに、そのままの姿だ。刑事はてっきりこれで決まりだと安心するが、女性警官が、「日付けを見て」と注意する。3回確かめたがミスはないと言い、「法的に死亡と判定されている」と付け加える。耳ざとく、「死」という言葉を聞いたデビッドが、心配そうに、「誰か死んだの?」と尋ねる。刑事は、「誰も死んじゃいないよ。一緒に謎解きに出かけよう」と話しかけ、パトカーに乗せる。車内で、調書に必要だからと女性警官に質問されるデビッド。「年齢は?」。「もう言ったよ、12歳」(2枚目の写真)。「そうね、今日は何日?」。「7月4日」。「何年の?」。「1978年」。ようやく、一軒の家の前で停まる。「なぜ、停まったの?」。「今に分かる。すぐ戻る」と言って家に向かう刑事。デビッドは、「誰が住んでるの?」と女性警官に訊く。「まだ、分からないの」。デビッドにしてみれば、不安の極致だろう。家の電気が点き、犬が吠え、男性の影が近づき、扉が開く。男の声を聞いたデビッドが「パパだ」と言い、車から出て駆けつける。近づいたデビッドがそこで見たものは、少し老けた父だった。呆然とするデビッド(3枚目の写真)。全身で喜びを表す父と母だったが、あまりの変わりように半分逃げ腰になる(4枚目の写真)。そして、気を失ってしまう。
  
  
  
  

ミステリーが頂点に達したところで、画面は一転し、送電鉄塔の倒壊現場。パトカーの脇にNASAの車が横付けする。降りてきたのは研究所長のファラデー博士。「生命反応は?」。「外部にはなく、内部は調べようがありません」。「だが、何物かが浮上させている。ファーストコンタクトの可能性もある」。そして、鈍い銀色の物体が映る。目撃者が、この物体は、飛行してきて鉄塔に衝突したと語る。全長6メートル、全高3メートル程度の物体が、地上1メートルほどのところに浮かんでいる。デビッドに起きた異常な現象を解く鍵が、ようやく現れた。
  

病院に搬送されたデビッド。「何が起きたの?」と不安で一杯だ。父に、「長い間、どこにいたんだ?」と訊かれ、「長い間?」と訊き返すデビッド(1枚目の写真)。「数時間前に、ジョンソンさんちにジェフを迎えに行っただけじゃないか。ジェフに訊いてよ」。そこに、病室の入口から「デビッド?」と声がかかる(2枚目の写真)。不審そうに、「あれ、誰?」と訊く。母:「あなたの弟のジェフリーよ」。「何だって?」。兄は、「覚えていた通りだな」「すごすぎる。小さい兄さんなんて」と思わず苦笑。そんな気分ではないデビッドは、「あんた、弟じゃない」。弟:「聞いて… 木から飛び降りて脅かしたこと、ごめん。ずっと後悔してた」。「そんなの証拠にならない」。「君が デビッドだってことも、信じれなかった。だって、ホントなら20歳だ」。さらに、「何かに使えるかもと思って、取っておいたんだ」と言い、『行方不明』と書いた写真入のビラを取り出して見せる(3枚目の写真)。そして、両親と一緒に、何年も電柱に貼り続けたこと、母が部屋の持ち物を全部取っておいて、死んだと信じなかったことを話して聞かせる。そして、最後に、弟:「イタチ」。兄:「ダサ~」。「ごますり」。「クズヤロ~」、といつもの罵り合いを逆に言い合い、兄弟であることを相互に確認。「ジェフ、怖いよ」と心を開くデビッド。そこに、医者に呼ばれていた両親が戻って来る。涙目で「パパ、家に帰りたい」と頼むデビッド(4枚目の写真)。真迫の演技だ。涙の溢れた目は、涙が流れるよりも哀れを誘う。「分かるよ、パパもそうしたい。でも、お医者さんが2・3日入院を求めてるんだ」。「いやだ、僕をここに置いてかないで」。結局、母が付き添うことで了解する。溢れる涙。2人が去り、「ママ、僕ホントに8年もいなかったの?」と訊く(5枚目の写真)。「そうよ」。「悪い夢みたいだ」。
  
  
  
  
  

その間、NASAは、空中に浮遊したままの飛行物体を、カバーで隠し、トラックに乗せて、延々NASAの研究所まで運んで行った。2枚目の写真の背後に「NASA RESERCH CENTER」というゲートの文字が見える。最終的に警戒厳重な格納庫に収容される。その「船」からは、人間には聴こえないメッセージが、デビッド向けて発信されている。
  
  

病院で、ジェフが付き添い当番の時、急にデビッドが飛び起きる。そして、「傷ついて、僕を呼んでる」と話す。そして、「声が聴こえるんだ、くり返し何かを言ってる。よく理解できないけど」。「何 言ってるんだ?」。「説明できない。信じないだろうから」。「信じるとも」。この時の「ホントかな」というデビッドの表情は、なかなか演技が難しい(写真)。「僕が、気が狂ったと、思ってない?」。「まさか。何度も検査したじゃないか。ここで正気なのは、君だけだ。心配するな、悪い夢だ」。「ありがとう」。兄と弟の立場か完全に入れ替わっている。弟は、かつて意地悪だった分、兄を労わろうと必死なのだ。
  

一方、NASAでは、宇宙船らしきものを搬入したのはいいのが、どうやっても開けることができない。継ぎ目が全くないし、溶接の高温にも変化しないので、対処の方法がないのだ。「中には何かがいる。死んでいるかもしれないが」と悔しがるファラデー博士。
  

病院で、本格的な検査が始まった。デビッドに質問して、脳波の変化を調べるのだ(1枚目の写真)。森の中での出来事を順に尋ねていく。話が、崖のところまでくると、脳が複雑な周波数パターンのα波(脳波のうち8~13Hz成分のこと)を発信し始めた。前例がないので、医者にも何のことか分からない。α波の周波数は、デビッドが崖から落ちた話になると、急に12.78秒周期と極端に遅い波(もうα波ではない)となり、二進コードでコンピュータと直接交信を開始する。そして、「崖から落ちた後、どこかに行ったわね。どうやってそこから出たの?」と訊かれると、モニター画面に丸っこい物体(NASAが回収したもの)の3次元図が表示された。「これが、デビッドの頭から?」と驚く父(2枚目の写真)。
  
  

その画像は、照会のためNASAの研究所に送られ、それを見たファラデー博士が、飛んで来る。デビッドはちょうど退院したところだ。是非ともNASAへという博士の要請に対し、「デビッド、どう思う」と訊く父(1枚目の写真)。「絶対イヤ。行くもんか」とデビッド。その意志を汲んで断る父。しかし、博士は、①8年間どこにいたのか、②なぜ記憶がないのか、③脳の奇妙な動きは何なのか、④それより何より、なぜ年をとらなかったのか、について解答が欲しくないかと巧みに誘い、48時間だけと確約してデビッドのOKを取った。研究所に着くと、部屋に案内される。白くて冷たいが、オモチャが一杯置いてある。しかし、目ざとく見回して、電話機がないことに気付き、「両親と電話できるハズだと思ってたけど」と鋭く指摘(2枚目の写真)。明朝、博士のオフィスでという返事と、部屋が自動ロックになっていてドアノブすらないような牢獄状態に、怒る。壁にかかっている大きな鏡は、監視用のマジック・ミラーなのだ。そこに、急にドアが開き、妙な機械が入ってくる。そして、快活なお姉さんも(3枚目の写真)。キャロリンと名乗る配膳係りの女性は、トゲトゲしたデビッドの心を癒していれた。機械は、略称ラルフ(RALF)と呼ばれる自走式の多目的ロボットで、郵便物や補給物資の運搬に使われていた。
  
  
  

そして、検査本番。病院よりは精巧そうな装置を脳につけられたデビッド(1枚目の写真)。谷に落ちた時から質問が始まる。情報を得ているので、最初からコンピュータに同期させてある。「君の名前は?」と訊かれると、口で答える前に、モニター画面に『DAVID SCOTT FREEMAN』と表示される。デビッドは、「待ってよ! どうなってるの? 何も言ってないのに」と動揺する。それには答えず、「次の質問」と係員に命じる博士。こういう態度が、不審感を招くのだ。「デビッド、8年間どこにいたんだい?」。「言ったでしょ、知らないって」。しかし、モニター画面には、『音声推定モード:フェイロン』との文字が。「君が旅行した技術的方法は?」という質問には、未知の文字がモニターに次々と現れる。英語では標記できない科学理論だからであろう。それを見て興奮する博士。「フェイロンまでの距離は?」。「知るはずないだろ」。画面には『換算: 560光年』。確かに、1光年は地球年の1年で光が進む距離なので、換算が必要となる。「そこに着くまでに要する時間は?」。『2.2地球時間』。その後、デビッドが質問し、それに対し博士は、「光速より速く移動すれば、たった4.4時間で往復することもできるが、地球上ではその間に8年が経過したんだ」と答える。これは解答になっていない。仮想的な超光速での空間移動法は、スタートレックで有名になったワープ航法とか、最近のワームホール航法などがあるが、いずれも一瞬でジャンプするので、8年の時間経過など起きない。唯一の可能性は、ジャンプ地点まで光速以下で移動したという筋書きで、それなら光速以下で移動している時間に対し、特殊相対性理論による時間の遅れが発生する。因みに、光速より10億分の2だけ遅いスピードで2.2時間、等速直線運動をすると仮定すると、静止した(地球上での)観測者が4年間を測定する間に、宇宙船内の時計は2.2時間進む〔ジャンプ地点までほぼ光速で移動した〕。さて、次の質問は、「フェイロンはどこにある?」。そろそろ頭に来ているデビッドの返事は、「何で分かるのさ」。一方、モニター上では、地球上で知られた星図では表示できないので、デビッドの脳からコンピュータに星間情報が転送され、フェイロンを含む恒星系が図示される(2枚目の写真)。「デビッド、これがフェイロンか?」。「知るもんか」。画面上は『YES』。完全にキレたデビッドは、「もうイヤだ!」と器具を投げ捨てて出て行く。「48時間では足りないな」と呟く博士。
  
  

次の朝、頭に響く例の声で目が覚めたデビッド。「そこにいる?」。「うん。ここにいる」。「助けて」。「助けるって、どうやって」。「来てくれる?」。「うん、行くよ」(1枚目の写真)。すると、ドアが開いてラルフが入って来る。どうやら、電気製品は、自由自在に動かせるらしい。デビッドは、ラルフに入るよう促され、マジック・ミラーをカーテンで隠し、ポロシャツをはおって、ラルフに乗り込む(2枚目の写真)。ロボットは、そのまま、監禁用の部屋を抜け出し〔ロボットだけだから、誰も警戒しない〕、宇宙船の格納されている棟に到着(3枚目の写真)。中に入れてもらい、デビッドを無事 宇宙船の間際まで連れて行く。
  
  
  

デビッドが宇宙船の下まで来ると、継ぎ目のない壁面の一角が溶けて、宙に浮いた階段を作る。デビッドは、階段を登り(1枚目の写真)、金属で内面を覆われた船内を覗き見る(2枚目の写真)。この時代の作品としては、非常に精巧にできていると思う。先ほどの、階段ができる部分も、CGではなく、ストップ・モーション撮影だが違和感はない。船内に入り、先端まで進むと、いつの間にか操縦席が床から立ち上がってくる。慌てるデビッドに対し、目の前の半球状の部分が開き、そこから頭の中にではなく、直接声がする。「座りなさい、ナビゲーター」。「君が僕を呼んでたの?」。「その通り。あなたは、任務遂行に必要な情報を持っている」。そして、デビッドの脳の中に、宇宙の航行図が入っているといい、顔の間にせり出してきて、「あなたは、ナビゲイターだ」と宣言する(3枚目の写真)。
  
  
  

宇宙船に開口部ができていることに気付いた監視員が警報を鳴らし、博士をはじめ、大勢の警備員が駆けつける。騒ぎに驚いて、開口部から顔を覗かせるデビッド。最初は宇宙人と勘違いされ、その後は博士に見つかり、「最悪だ」。中に引っ込み、「ドアを閉めてくれる?」と頼む。「肯定します」。階段が溶けて船体と一体化し、上昇を始める宇宙船。操縦席の前の壁面を透明化してくれたので、外の様子がよく見える(1枚目の写真)。窓と違い、壁面が透明化しただけなので、範囲も広いし、強度も落ちない。非常に面白いアイディアだ。宇宙船は係留していた鎖を上昇して断ち切り、電磁波を出して扉を開放すると、ゆっくり外へ出て行く(2枚目の写真)。実物大の模型をそのまま動かしているので、迫力がある。人工知能に「ナビゲイター、指示を待っています。すぐに行動すべきです」と言われ、どうしていいか分からないので、「考えるから、まず、ここから20マイル先へ連れてって」と言う。すると、元来これは宇宙船なので、垂直上昇を始める。あまりの加速に顔がゆがむデビッド(3枚目の写真)。宇宙船は、20マイル上昇した所で「あなたの要請した距離です」と言って停止した。「垂直じゃないよ。水平だと思ってた」。今度は垂直降下し、正確に元の位置に戻る宇宙船。頭上すれすれで急停止した宇宙船に対するNASAの職員の慌てぶりが面白い。
  
  
  

「わあ、どうやったの」と感心するデビッドに対し、人工知能は、「あれは、三級の操縦です、ナビゲイター」と答える。「あれが三級なら、一級はどんななの?」とデビッド。「見ていなさい」と言うと、船体が前に引き伸ばされ、流線型に変わる(1枚目の写真)。そして、近くの小屋の屋根が壊れるほどの加速で発進、「一級の操縦とは、あなたの惑星の厚い大気の中で水平に飛行することです」と説明。目に前に広がる光景に感激し、思わず「クールだ」と言うデビッド(2枚目の写真)。それを文字通り「寒い」と受け取った人工頭脳が、「室温調節しましょうか?」と尋ねる。20マイル地点は、ちょうど牛の放牧地。デビッドは、朝からトイレに行っていないので、トイレに行きたいと申し出る。「トイレとは、何ですか?」。「ドアを開けて」。「説明を要請します」。「開けて、じゃないと後悔するよ。すぐ戻るから、約束する」〔後悔というのは、中で漏らすという意味〕。「約束とは、何ですか?」。かくして、ようやく外に出してもらえたデビッド。茂みで用を足す。後ろから、「何をしているのですか?」と訊かれ、「僕には、プライバシーもないの?」。「プライバシーとは、何ですか?」。このあたりのやりとりはユーモラスだ。
  
  
  

デビッドは、「僕の名前はデビッド」と自己紹介し、「君は、何て呼んだらいい?」と訊く。「私は、トライマクシオン・ドローン船です」。「じゃあ、マックスと呼ぶよ」。以後、人工知能はマックスとなった。このマックス、目的は、宇宙の各所から生命体の見本を採取し、一旦フェイロンに送り、分析を行ってから、採取した時と同じ場所、同じ時間に戻すこと。地球では、デビッドが採取され、フェイロンに連れていかれた。しかし、帰すにあたり、人間の体が脆弱で時間の逆行に耐えられないと判断し、そのまま帰したので8年後に出現してしまったのだ。また、デビッドは(というか、人間は)粗悪な生命種で、脳の10%しか使っていない。そこで、残った部分に、実験的に宇宙の航行図を入れた。だから、デビッドのことをナビゲイターと呼んでいる。最後に、鉄塔にぶつかったのは、ひなぎくに見とれていたからで、ぶつかった際の電磁的ショックで航行図が消えてしまい、デビッドに助けを求めた。そして、邪魔されずに情報を転送するため、海へと突入する。転送作業の準備中に、採取した他の惑星の生命体を興味深げに眺めるデビッド。気持ちの悪いものが多い中で、唯一気に入ったのが、彗星の衝突で母星が消滅し、帰るところのなくなったパックマリンという生物。さっそく手に取る(1枚目の写真)。パックマリンが笑っているのを見て、「ほら、笑ってる」と嬉しそうにマックスに見せるデビッド(2枚目の写真)。「笑う目的は、何ですか?」。「目的? 笑うと幸せになるからさ。やってごらんよ」。機械的な笑い声をあげるマックス。機械と、こういう交流が自然にできるデビッドの存在が、この映画を特別なものにしている。そして、いよいよ、宇宙航行図の転写。「ここに座って、ナビゲイター」。「痛くない?」。「何も感じません」。「記憶は残るよね?」。「すべて残ります」。「これ、今までに何回やったの?」。「ゼロです」。「ゼロ? 初めてなの?」。「やって欲しくないな。脳が焼けちゃったら どうする?」。「脳を焼いたりはしません」。「どうして分かる?」。「高度の知性体によってプログラムされていますから。横になって」。そして、光が一往復しただけで作業終了(3枚目の写真)。「これだけ?」。「これだけさ、デイビー」。マックスは、デビッドの脳の余分な部分まで転写してしまい、人間のように話し始める〔デイビーはデビッドの愛称〕。「うわぉ、ハハ~、何だかおかしいぞ。この船の操縦に関係ないとこまで、君から取っちゃったみたいだ」。
  
  
  

この次の2つのシーンが、映画の中で最もユーモラスな部分。まず、最初のシーンから。道に迷ったデビッドとマックス。マックス:「まだ 着かないんかい? だけど、どこにいるのかな?」。デビッド:「さっぱり分からないよ。訊いてみないと」。そこで、ちょうど下を走っていた赤いオープン・カーが停車した時に、近づき、ドアを開けて、「フォート・ローダーデールがどっちか、知らないよね?」と訊く。すぐにマックスも顔を出して、「2人とも道に迷いやすいから、ちゃんと教えてよ」(1枚目の写真)。あんぐり口を開け、慌てて逃げ出す赤い車。「あいつら変わってないか、デビッド?」。「うん、マックス、変わってる」。さらに、マックスは、「デビッド、さっきの妙な音は何だい?」と訊き、それが音楽だと教えられる。ラジオを受信し、クラシック、ボサノバは「早く変えて」。ロックロールになると、「これでいい、これが音楽だ!」。少し独断的な選択だが、デビッドが歌いながら、音楽に合わせて操縦する様子がすごく楽しい(2枚目の写真)。この映画のいい部分は一杯あるが、このあたりの高揚感もたまらない。宇宙船も楽しそうに飛んでいる。ちゃんと水面にも映っている(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、一番の傑作、アリのゲーター園〔アリゲーターは最強のワニ〕のシーン。何度見ても笑える。アリゲーターなので、フロリダまで着いたと確信したデビッド。「きっと、電話あるよ」と言って、降下していく。スタンドの真上で停船し、階段を出し、降りて行く(1枚目の写真)。それを、ポカントと口を開けて見る太っちょの男。デビッドが近づいて行って、「やあ、えっと、ウチに電話するんで、小銭貸してもらえません?」と頼む。固まってしまい、手だけズボンに入れ、小銭を渡す男(2枚目の写真)。「ありがとう」。その時、マックスが顔を出して、「やあ、デブ。ブーブー。ケーキの食べ過ぎだぞ!」と冷やかす。そこに乗り付けた家族連れ。「悪いんだが、ワイフがトイレを借りてもいいかな?」。しかし、男は微動だにしない。夫は、あきらめてトイレに行くよう指示。同乗していた子供たちが、「パパ、空飛ぶ円盤見ていい?」とせがむと、「いいぞ」。そして、男のそばに寄って行って、「ここのインディアン村はひどかったが、この空飛ぶ円盤は一級品だな。こんなの造るのに、どのくらい時間かかったんだい?」と訊く。男は固まったまま。「もういいよ」と肩を叩き、「そこら辺を見てくるから」。父親の表情もユーモラスだ。子供の方は、宙に浮いた階段を押してみて、「見ろよ、この階段押しても動かないぞ。ぴくっとするだけだ」。デビッドの電話がやっと通じ、弟のジェフに、新しい家の場所が分からないから、暗くなっても、空から見えるよう合図して欲しいと頼む(3枚目の写真)。そして、帰りがけに、地図をもらい、チョコバーを買う。宇宙船の前で記念写真を撮り終わった一家の前を、「すみません」と言って横切ると、階段をトントンと登り、中へ消える(4枚目の写真)。すぐに、マックスが顔を出し、「またな、アリゲーター、ハハ」と言って消えると、すぐに階段が溶けてなくなり宇宙船が上昇を始める(5枚目の写真)。男の肩に手をやり、「何てこった」と目を疑う父親。そこで、やっと男が口を開く、「ウチに電話かけると言ってた」(6枚目の写真)。
  
  
  
  
  
  

地図で現在位置を確かめ、インターステート(州間)ハイウエイ95号線〔フロリダの東海岸に沿ってマイアミまで南下する高速道路〕に沿って飛ぶことにする。目的地のフォート・ローダーデールの標識が映っているのが、1枚目の写真。しかし、この標識どう考えても間違っている。そもそも、フォート・ローダーデールはマイアミの北20マイルほどに位置する都市なので、マイアミより遠いはずがない。95号線はマイアミが終点なので、南から接近している可能性はゼロ。アメリカ人が製作しているのに、こんな凡ミスがあるものだろうか。高速道ではないが、小田原の道路標識に『東京50キロ/横浜75キロ』と書かれているようなものだ。一方、ジェフは屋根に登り、花火を上げている(2枚目の写真)。1枚目の写真で、家まで90キロ程度しかないのに昼間のように明るい。それが2枚目の写真では真っ暗。7月なので日没は20時過ぎ。宇宙船は時速20キロ以下でノロノロ飛行したことになる。この辺りも絶対変だ。ま、それはさておき、宇宙船からジュフの花火が見え、「あれだ! やると思ってたよ、ジェフ」とデビッドが嬉しそうに指し示す(3枚目の写真)。しかし、その直後、この映画の最大の「ミス」が待ち受けている。家には、早くからNASAの係官が数名が押しかけてきて、家族は軟禁状態にあり、ジェフも見つからないようこっそり花火を打ち上げたはずなのに、ここで、両親が庭に出てきて(その背後にはNASAの係官も映っている)、母が大声で「まだ見えない?」とジェフに訊き、ジェフも「まだだよ」と叫ぶ。隠密行動が、いつの間にか、おおっぴらに。これは絶対に脚本のミスだ。映画がよく出来ているだけに残念だ。
  
  
  

花火の合図で家の上空に到達したデビッド。ものものしい警戒に驚く。実は、NASAがレーダーで飛行ルートを予測し、家に帰ると考え、博士を先頭に、警察も動員して待ち受けていたのだ。「なぜ放っといてくれないんだ」。「考えていること分かるよ。また、連れて行かれると心配してるんだろ?」。「うん」。デビッドは、宇宙船から降りていくものの(1枚目の写真)、絶望的な状況に、迎えに来た家族に「ごめんなさい。もう、ここには居られない。大好きだよ」と悲しそうに言い(2枚目の写真)、船内に引き返す。そして、「僕を連れてって、マックス」と頼む。「連れていけないよ。危険過ぎる」。「あれは僕の家族だけど、ウチじゃない。ウチは1978年にある。もし、ここにいたら、僕は 死ぬまで科学者どものモルモットだ」。「もし時間を逆行すると、消えてしまう恐れがある」。「やるしかないんだ」。「とても危険だが、いいんだねデビッド?」。「いいよ。やろう」。「分かった。そう決めたのなら」。相手が人工知能の割には、非常にしんみりしたムードだ。コミカルな部分の直後に、真摯な部分があり、映画が急に引き締まる。「じゃあ、出発しないと。つかまって、デイヴィ」。「寂しくなるね」。「私も寂しいよ。いろいろ ありがとう」。「大したことないよ、ホント」(3枚目の写真)。マックスを見つめる目の涙がとてもいい。そして、「さあ、ここから出ちゃおう」。「了解、ナビゲイター」。2人が顔を見合わせる。「幸運を」。2人の心が通い合った最高のショットだ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

過去への旅は無事完了。デビッドは、元の場所、元の時間に戻り、谷底に倒れている(1枚目の写真)。本当は犬がいるべきだが、細かいことは無視して… デビッドが自宅に戻ると(2枚目の写真)、海の方から「おい、デビッド」と父の声がする。「さあ、おいで」。ボートの上で、父が小さな花火を手にしている」(3枚目の写真)。それを見て、最高に幸せそうなデビッドの顔(4枚目の写真)。全く新しいものでも見るように、ボートに近づいていくデビッド。母に、「どこにいたの、いらっしゃい」と手招きされると、思わず「ママ、大好きだよ」。「まあ、ありがとう坊や、でも、どうしちゃったの?」。肩をすくめる。そして、弟が「怒ってる?」と訊くと、「ううん、お前も 大好きだよ」。あまりの変わり様に驚くジェフ。両親も顔を見合わせる。最後に、ナップサックからパックマリンが顔をのぞかせ、ジェフがびっくりするのを、「しーっ」と制止するところ(5枚目の写真)で映画は終わる。
  
  
  
  
  

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