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Brothers of the Wind 風の兄弟

オーストリア映画 (2015)

マヌエル・カマチョ(Manuel Camacho)が、アルプスの生態系の最上位に君臨するイヌワシと共演する自然科学番組的な側面も感じさせる感動のドラマ。彼は、8歳の頃に出演した『Entrelobos(エントレロボス/狼とともに)』で狼と共演し、その5年後に、今度はワシとの共演。しかも、両方の映画とも全編現地ロケだ。子供なのに大したものだと思う。共演は、あのジャン・レノ。森林管理官ダンツァーの役どころは、自然児ルーカスのメンター役。その、彼らしくない枯れた演技に驚かされる。オーストリア映画だが、映されるアルプスはオーストリアのアルプスと、かつて南チロルと呼ばれ、今でもドイツ語が通じるイタリア北部のドロミテアルプスの双方。使用言語は英語。マヌエルはスペイン人で、ジャン・レノはフランス人なので、国際色豊かだ。イヌワシとの共演ができる少年がドイツ語圏にいなかったからマヌエルが選らばれたのかどうかは知らないが、生粋のオーストラリア人の息子という設定には少し違和感を覚える(どう見ても、アルプスの山小屋で暮らす根っからのオーストリア人には見えない)。映画の題名『風の兄弟』は、アルプスの空を王者のように、風を切って飛ぶイヌワシの兄弟の数奇な運命を描いていることから付けられたのであろう。イヌワシの生態を描いた部分が少し長すぎる気もするが、映像は秀逸で、よくぞここまで撮影できたな、と感心させられる。そこが、自然科学番組と前置きした理由でもある。

イヌワシの兄弟が、ルーカスと父の山小屋近くの断崖で生まれる。父ワシが侵入してきた雄ワシと戦って2羽とも墜落死したため、餌の供給が少なくなり、早く生まれた兄は、弟を巣から蹴落として餌を独占しようとする。普通なら、崖から落ちて死んでしまところだが、途中の樹木等でソフトランディングし、動物に捕食される前にルーカスに助けられる。ルーカスは、小さい時の火事で母を失ってから父とそりが合わず、父に対して一言も口をきかないような子供になっていた。だから、山に住み、自然が友達のようなルーカスにとって、新たに発見したイヌワシの雛は何より大切な存在だった。その地区の森林管理官ダンツァーは、そんなルーカスを暖かい目で見守り、餌の選び方から飛び方、動物の捕獲法に至るまで、母親代わりとなったルーマスをサポートしてくれる。しかし、自然界に住む動物を人間が「飼育」することは、その動物自体の自立を損ねることになる。雛が大きくなり、すべてをマスターした時が、ルーカスにとっては辛く悲しい別離の時となる。自活できるようになったイヌワシを、遠く離れたドロミテまで運んで行って放す2人。そこで、2度と会えなくなるはずだったが、ドロミテで冬を過ごしたイヌワシは、春になると自分の生まれ故郷へと戻って来る。そこで待っていたのは、兄との生存競争と、ルーカスとの再会だった。ルーカスは、旧約聖書に因んで、弟を蹴落とした兄ワシをカイン、落とされた弟ワシをアベルと呼んでいた。聖書の中でアベルはカインに殺されてしまうが、ルーカスは救おうとして、敢えてその名を付けたのだ。一方、カインこと兄ワシの方は、岩棚を襲った落石で死亡する。因みに、ドロミテは私の大好きな山。3度山登りに訪れたが、3回目のトレッキングの途中での風景を紹介しよう。
  

マヌエル・カマチョは、13歳とは思えないほど背が伸びて逞しくなった。しかし、まだ声変わり前で、笑った時のエクボは『Entrelobos』と時と同じだ。タカよりもひと回り大きなイヌワシが飛んでくるのを片手で受けとめるのは、さぞや大変だったろうと感心する。


あらすじ

映画の舞台は、「アルプスのどこか。1960年代」とだけされている。映画の語り部は、森林管理官のダンツァー。職業柄、イヌワシの生態にも詳しい。最初に、「この物語はワシと少年のもの。私も一役買ったので、私の物語でもある」と簡単な前置きが述べられた後、画面は物語のスタート、雛の誕生へと移行する。垂直に切り立った高い崖の途中の狭い岩棚に作られた巣の中で、2個の卵が孵る。といっても同時ではなく、最初に1羽が生まれ、しばらく後に2番目が生まれる(1枚目の写真)。主人公のワシは、写真左の2番目の方。最初に生まれた兄の方が、早く生まれた分、力が強い。餌の供給が十分だった時は、2羽の雛に争いはなかった。しかし、父ワシは侵入者と争い、2羽が絡み合って戦いながら空中を落下し(2枚目の写真)、河原に衝突して死亡してしまう。
  
  

ダンツァーが、死んだ2羽のイヌワシを調べているところにルーカスの父がやってくる。父:「こりゃあ、あんたでも どうにもならんな」。ダンツァー:「彼らは自分の領分は侵させない。掟は残酷だ」。「俺達もそうだ」。「ルーカスの様子は?」。「あいつは、変わった奴だ。自然としか口をきかん」。その直後、2人は別れ、ダンツァーは森に入って行く。それを木に隠れて見ていたのがルーカスだ(1枚目の写真)。去って行くルーカスを見つけたダンツァーが、「ルーカス、どこに行くんだ?」と声を掛けても姿を消してしまう。ダンツァーによるナレーション:「少年は、出会う前の雛ワシと似ていた。家にいても安らぎがない点で」。そして、半焼した山小屋が映る。「ここは、昔ルーカスの家だった。今では彼だけの秘密の隠れ場所になっている… 父親からの」。昔、この家で火事があり、母が焼死したのだ。小屋に残っていた本の間から、母の古い写真を見つけたルーカスは、懐かしい思い出とともに大事そうに見入る(2枚目の写真)。
  
  

一方、イヌワシの巣では、父ワシが死んだことで、母ワシ1羽で狩猟することになり、餌が不足する。兄弟喧嘩の末、弟の弱い方の雛が巣から追い出されるが、そこは崖っぷち。落ちようとしまいと、必死で趾(あしゆび)で枝につかまるが(1枚目の写真、矢印の先)、耐えられなくなって落ちてしまう。幸い、途中の樹木に何度も引っかかって崖下の地面にソフトランディング、ケガもしなくて済んだ。しかし、当然、母ワシから餌はもらえないし、外敵からの脅威にもさらされる(2枚目の写真)。
  
  

ナレーション:「この日は、雛にとって最後の日となるはずだった。しかし、実際は、最初の日となった」。この日、ルーカスと一緒にいた猟犬のスカウトが、雛を見つけて吠え、ルーカスが雛に気付いたのだ。雛にそっと近付いて行き、優しく撫ぜ、「怖がらなくていい」と語りかけ、落ちてきたと思われる崖を見上げる(1枚目の写真)。ルーカスはジャンパーを脱いで、「寒いだろ」と雛をくるんでやる。そして、「大丈夫だ。行こう」と言うと、雛の頭に息を吹きかけて暖めてやる(2枚目の写真)。ルーカスは、ジャンパーでくるんだ雛を抱えて高台にある秘密の隠れ家に向かう。雛をテーブルの上に置くと、「兄さんに追い払われたんだな? 心配するな、僕が巣を作ってやる」と言い、ワラで簡単な寝床を作ってその中に入れてやる。「お腹、空いてるだろ?」と唯一持っていたパンを食べさせようとするが、ワシの雛は嫌がって食べない(3枚目の写真)。ルーカスは、「すぐ戻るからな。食べ物を持ってきてやる」と言って小屋を後にする。
  
  
  

ルーカスは、父が屋外の作業場で昼寝をしている所にこっそりと近付いて行く。そして、食べようと置いてあった昼食用のソーセージを1本頂戴する(1枚目の写真)。1本と言っても、長さが40-50センチはありそうな大きなものだ。ルーカスはそれを持って雛の待つ小屋へと走る。ソーセージは、一応肉なので、雛も喜んで食べる(2枚目の写真)。餌を食べさせた後は、木の手押し車にワラを敷いた上に雛を乗せ、小屋の周りを乗せて嬉しそうに走り廻る(3枚目の写真)。一段落すると、池の端に寝転んで、お腹の上に雛を乗せて可愛がる(4枚目の写真)。雛は、ルーカスにとって、格好の遊び相手となった。
  
  
  
  

ルーカスは、ワラではワシの巣らしくないので、森で木の枝を集めてきて、新しい巣を作ってやる。しかし、いつもソーセージを盗んでくるわけにはいかないので、石の下を探ってミミズを見つけ、それを吊り竿のように糸にぶら下げてみるが、雛は興味を示してくれない(1枚目の写真)。そこに、いきなりダンツァーが入って来る。秘密のアジトのはずなので、真っ青になるルーカス。実は、ダンツァーは以前から、ルーカスがワシの雛を育てていることに気付き、時々双眼鏡で観察していたのだ。「驚かせて、悪かった。イヌワシの餌やりは とても難しい。ソーセージは最悪だ。だから、これを持って来た。アヒルの肝臓だ。これなら、体にいい。やってごらん」と言って、ルーカスに差し出す(2枚目の写真)。人には口をきかないので、お礼は言わないが、素直に受け取る。ダンツァーは、さらに、「お父さんは、君が どこにいるか知りたがってるぞ。なぜ、お父さんを怒らせるんだ、ルーカス。君が口をきかないから、ますます機嫌が悪くなる。そういう お父さんも、寡黙なんだがな。あの日のことは、絶対に口にせん。心の底に閉じ込めてしまっている。君もそうだぞ。いつか、声が聞きたいものだ」。「あの日」とは、父親にとっては妻、ルーカスにとっては母が焼死した日のことだ。話が一段落すると、「太陽の光だ! 羽の成長には欠かせんぞ」と言い、棒で突いて壁に穴を開け、暗い小屋の中に太陽の光が射し込むようにする(3枚目の写真)。ルーカスが笑顔になっているのが、これは母が死んで以来、人前で見せた初めての笑顔だろう。
  
  
  

しかし、父との関係に進展は全くない。明くる日、父に命じられて柵を作る手伝いをしている。作業中、父親が無理に笑顔を見せて寄ってきても、ルーカスは冷たく見るだけ(1枚目の写真)。途中で作業をやめようとして〔餌が心配〕、父から、「おい、どこに行く気だ?」と停められる。それでも、去ろうとするルーカスの首根っこをつかまえ、「お前には やるべき半端仕事が山ほどある」と行かせない。これでは、2人の関係は悪くなりこそすれ、良くなる兆しは全くない。それを加速する出来事が、その夜起きる。夕方まで薪割りにこき使われたルーカスが、最後に鶏小屋の掃除をした後、わざと柵を閉めずにおいたままにしたのだ。その隙間から狐が侵入して、鶏を殺してしまう。カンカンになって怒る父を尻目に、ルーカスは鶏小屋から狐が殺した鶏を持って逃げ出し、夜道を、隠れ家に向かう。そして、雛に「僕、悪いことをしちゃった。でも、お前にいい物を持って来てやったぞ」と鶏を見せる。雛にとっては、初めての本格的な餌だ(2枚目の写真)。その後、ルーカスが自室で母の写真や聖書を見るシーンがあるが(3枚目の写真)、よく父が帰宅を許してくれたものだ。このシーンで重要なことは、ルーカスがたまたま読んだ旧約聖書から、ワシの兄弟の争いをカインとアベルに喩(たと)え、崖から落とされた雛をアベルと呼ぶことに決めたことだ〔もう1羽の雛の名は当然カイン〕。
  
  
  

ナレーション:「この崖のどこかで、アルプスの王者によってカインが育てられ、鍛えられていることをルーカスは知っていた」。1枚目の写真は、母ワシが、捕獲した餌(矢印)を趾でつかみながらカインの待つ巣に辿り着いた瞬間(少しピントがずれている)。一方、母代わりのルーカスは、山の中を走り回ってようやく野鼠を捕まえることに成功。アベルの前で、シッポを持ってぶら下げ、「ここまでおいで。飛ぶことを覚えなきゃ」と呼びかける(2枚目の写真)。写真で鼠が分かりにくいので、矢印を入れた。しかし、アベルは、木柱の上に乗ったまま動こうとしない。そこにやってきたダンツァーは、「まだ小さ過ぎる。羽が生え変わらないと」と教えてやる。そして、「君のお父さんと話した。夏の期間、私の仕事には助手が必要になる。君は、私と一緒に住むといい。この廃屋に一緒に来れるし、餌だって十分に用意してやれる」。ダンツァーの手にした餌を見て、嬉しそうにアベルを見るルーカス(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーンで、ルーカスがアルプスを背景にアベルと一緒に歩き(1枚目の写真)、「こんな風に飛ぶんだ」と腕を上げて教える(2・3枚目の写真)。とても気に入っている場面だ。
  
  
  

ルーカスが案内されて入って行ったのは、夏の間過すことになるダンツァーの、というか、森林管理官の官舎(1枚目の写真)。ルーカスの部屋には、「イヌワシを手にとまらせた少年」の絵が飾ってあり、棚の上には訓練用の厚い革手袋も用意してある。配慮のこもった対応にルーカスも嬉しそうだ(2枚目の写真)。
  
  

ナレーション:「学ぶには勇気が要る。そして、教えるには 母親の忍耐力が。母ワシは知っていた、子ワシを飛ばせるには、強い誘惑が必要だと。そして、巣の上で飛び跳ねるよう仕向けた」。その結果、カインは生まれて初めて飛ぶことができた(1枚目の写真)。「ルーカスには、本能が欠けていた。しかし、彼は熱心な少年で、工夫に長けていた」。ルーカスは、小屋の前に落ちても怪我しないようワラを敷き詰め、モッコのようなものにアベルを乗せると、屋根から突き出た梁にロープをかけて空中に吊り上げた。そして、生肉を手で振って、アベルに飛び降りろと促す(2枚目の写真)。しかし、全く動かないので、今度は上まで登って行って、竿でアベルの目の前に肉を吊るして、「さあ、ジャンプしろ」と促す。それでも動かない。しびれを切らしたルーカスは、アベルをモッコから取り出すと、屋根の縁に立ち(3枚目写真)、そこから放り投げる。アベルは、羽をバタバタさせるが、そのまま真っ直ぐに落下。落ちた場所は敷いたワラの外だ。なかなか思った通りにはならない。「もっと早く羽を動かさないと、永久に飛べないぞ」。
  
  
  

そんなアベルにも、遂に飛べる日がやって来る。ルーカスは、アベルを手袋に乗せ、「行くぞ、アベル」「羽を広げろ、そうだ それでいい」「さあ、飛ぶんだ。絶対できる。やってみろ。さあ、ジャンプだ」。アベルは、ようやくルーカスの腕を離れる(1枚目の写真)。初飛行は10数メートルの距離だったが、飛んだことに変わりない。「やったな」と走っていき、「いい子だ」と撫でてやる。夕闇迫るアルプスを眺めながら、屋根の上で並んで座るルーカスとアベル(2枚目の写真)。ルーカスはそのまま屋根の上で寝てしまう。朝起きると、一緒にいたアベルがいない。捜し回るうち、大空を自由に飛んでいるアベルを見つける。「やったな!」。アベルに向かって大喜びで手を振る。アベルが小屋のそばに着地し、ルーカスが屋根から降りて近付いて行くと、ルーカスの目の前でアベルが飛び去ってしまう。一緒に喜びを分かち合いたかったのに、どうしたんだろう?(3枚目の写真)。大声で「アベル!」と叫んだが、アベルはそのまま飛び去ってしまった。ダンツァーは、後でこのことを聞き、野生の本能で自由に飛びたかっただけで また戻って来る、と慰めるが、実際にどうなるか分かっていた訳ではない。
  
  
  

数日経ってもアベルが戻らないので、ルーカスは必死になってアベルを捜し回る。アベルにとって、問題は餌の獲り方が分からないことだった。その点でも、カインはずっと先を行っていた。アベルがマーモットを狙った時は穴の中に逃げられ、無謀にもカモシカを襲った時は、制御しきれずに、趾でつかんだままカモシカと一体になって斜面を転がっていく(1枚目の写真)。CGではないので、どうやって撮影したか不思議だ〔ワシがカモシカと崖の間で圧死する可能性がある〕。これに懲りたのか、アベルは、突然ルーカスの前にすっと着地する。「待ってたんだぞ。もう 戻らないかと思ってた。でも、見事に飛べたな」。ナレーション。「アベルは飛ぶことを学んだ。そして、ルーカスは希望は決して捨てるべきでないと学んだ」。しかし、アベルの学ぶべきことはもう1つ残っていた。獲物の狩り方だ。ダンツァーは、それを教えるための道具を考案する。「狩猟はスピードとタイミングにかかっている。だから、それを教えないと」(2枚目の写真)。その時、急にルーカスがいなくなる。父がやって来たのだ。父:「あの子は、あんたのために働いてるのか? それとも、その逆かね?」と皮肉る。そして、ルーカスを貸したのは夏の間だけだと釘を刺す。「俺の息子だ。忘れてもらっちゃ困る」。ルーカスも隠れて その話を聞いている。それから、アベルの特訓が始まった。ルーカスが、アベルが近付いた瞬間に、ぬいぐるみのマーモットを思い切り引っ張り、木箱の中に入る直前に捕獲させるという実践的訓練だ(3枚目の写真)。右端の矢印の黒くボケているのが飛んで来るアベル、中央の矢印が箱に入る寸前のぬいぐるみだ。この特訓が実り、最後には本物を捕らえるのに成功し、喜び合う2人(4枚目の写真)。
  
  
  
  

しかし、この成功は、悲しい別れを意味するものでもあった。ダンツァーは、「ルーカス、夏は終わった。君は、お父さんの元に帰らないといけない。そして、アベルを彼の世界の戻してやらないと」。「No!」。「やっと話したな。1語だが」。「アベルには本能がある。野生で生きるための記憶だ。もし、君が一緒にいると、本能が弱くなる。そうなったら、もう山に戻ることはできない」(1枚目の写真)。「自由に生きられなくなる。それでいいのかな?」。それを聞き、目に涙を浮かべて考えるルーカス(2枚目の写真)。この辛い決断をルーカスは受け入れた。そして、2人は、アベルの頭に袋を被せてドロミテまで連れて行く。ルーカスのいる所まで戻れないようにするためだ。ルーカスは用意した足環をはめ、「生き抜くんだぞ」と声をかけ、袋を外し、新しい空へと解き放してやる(3枚目の写真)。
  
  
  

ナレーション:「私は、その冬が、アベルの物語の最後になりはしないかと怖れた。雪がひときわ深かったからだ」「イヌワシの眼ですら欺かれる。空と雪とが一つになるのだ」。アベルの羽が、雪の斜面に接触し(1枚目の写真)、最後には雪面に突っ込んでしまう映像が紹介される。これも、どうやって撮影したのか不思議だ。次のシーンもよく撮ったと思う。アベルが雪の谷川に急降下して(2枚目の写真)狐をつかむが、雪の抵抗でそのまま狐と一緒に谷川に落ちてしまう(3枚目の写真)。これでは、川から出るのに必死で狐を放さざるを得ない。こうして、ドロミテの冬は、アベルにとっては厳しい試練だった。結果として、アベルは強くなり、そして、自分の生まれた故郷に帰ろうとする。
  
  
  

ある冬の終わりの日、ルーカスは森の中を歩いていて、木々の間から空を飛ぶイヌワシを見かける。直感でアベルだと悟ったルーカスは、石を小さなケルンのように積み上げると、その上に生肉を置く(1枚目の写真)。そして、そのまま雪の上に横たわってアベルの来るのをじっと待つ。しかし、アベルがハッと目覚めて体を起こすと、1匹の狼が唸り声をあげている。走って逃げ出すルーカス。しかし、彼は、父が狩猟用に仕掛けておいた罠に片足を突っ込んでしまう。強力なバネで鋸歯状の鉄輪を閉ざす最も損傷力のある罠だ。激痛のあまり絶叫するルーカス(2枚目の写真)。そして狼が目も前に近付くて来る。絶体絶命。そこに、叫び声を聞きつけて(偶然すぎると思うが)ダンツァーが駆けつけ、狼は逃げて行く。罠を外してくれたダンツァーに抱き付くルーカス(3枚目の写真)。ナレーション:「これで、物語は幕引きかと思った。しかし、自然はもっと賢かった。これは物語の終わりではなく、始まりにすぎなかった。アベルが谷に戻って来たのだ」(4枚目の写真)。「しかし、彼の挑戦が終わった訳ではない。ここ、彼の生まれ故郷では、彼の兄が待ち受けていた。彼を巣から追い出した兄が」。
  
  
  
  

春になり、雪もすっかりなくなった頃、ルーカスの足も良くなっていた。ある夜、ルーカスの隠れ家を訪れたダンツァーが、本を読んで聞かせている。「彼は、弟より強かったが、勝利への道は幾つもあった」。ルーカスは、「それで、最後には?」と訊く(1枚目の写真)。「ここで終わってる」。「でも、どうなるの?」。「もし、最後のページがあっても、この兄弟がどうなったかは分からないだろう。そもそも結末が必要かな? 人生にはな、自分で結末を付けるべき時がある。自分で物語を作るんだ」。アダムとカインの戦いの決着は、アダムの勝利に終わった。一対一の空中戦ではなく、カインが獲ったカモシカの子を食べようとした時、アダムがいきなり襲いかかったのだ。ふいを突かれたカインは、防戦一方となり、アダムが勝利を収める。しかし、兄弟はそれ以上争そわず、カインがアダムに従って共存する形となった(2枚目の写真)。ただ、このような状態になった後も、ルーカスがアベルに会えたわけではない。ルーカスは隠れ家で、どうやったら再会できるだろうかと考える(3枚目の写真)。だが、そこに突然父が現われ、「小屋が燃えた時はあんなに叫んだのに、今は口もきけんのか?」とそしり、マッチを取り出し、隠れ家を燃やすふりをして、点火したマッチを床に投げる。あの悲惨な火事の記憶が蘇り、小屋を飛び出して行くルーカス。一方の父は、床に落ちたマッチで燃え始めてしまった妻の写真を手に、呆然としている。そして、ようやく自分のしでかしたことに気付き、ルーカスを追って外に出る。外は夜、雷雨の荒天になり始めていた。
  
  
  

どしゃ降りの中、ルーカスは、アベルがいるであろう崖の下まで辿り着り、「アベル!」と叫ぶ(1枚目の写真)。その時、崖の最上部で落石が起こり、アベルは飛んで逃げることができたが〔カインは死ぬ〕、落石はそのままルーカスのいる方に落ちてきた。岩陰に隠れて何とかやりすごしたものの、落雷のショック(?)で気絶するルーカス。嵐が収まり、心配したアベルが近くに飛んで来るが、ルーカスは気絶したまま(2枚目の写真)。しばらくして、昨夜の反省後、ずっと捜し続けていた父がようやくルーカスを発見する。頬を触られて気付いたルーカスが、「アベル?」と訊く。「違う、俺だ。悪かった。許してくれ」と父が謝る(3枚目の写真)。
  
  
  

数年後。時期は冬。親子が背中に薪を背負って雪の中を歩いている。森から一面の雪原に出た所で、ルーカスがつまずく。ルーカス:「大丈夫」。そして、立ち上がると、「どうだい、強いだろ」。「お前の方が、俺よりずっと強いからな」。父と子の間で会話が交わされている。きっと最後の反省が父を変え、それがルーカスをも変えたのであろう。しばらく歩いていると、イヌワシの鳴声が聞こえる。ルーカスは立ち止まると(1枚目の写真)、薪を雪面に置き、革手袋を取り出す。ルーカスが来ないのを見て、父は戻って来て、「とまるんじゃない。ワシなんか いないぞ」と言う。「いるよ。どこかに」。「どうして分かる?」。「分からないけど、感じるんだ」。「アベルは、嵐で死んだんだぞ」。「違うよ、死んだのは兄の方だ。アベルは生きてる」。「死んだんだ。受け入れろ。戻って来るなんて夢は、忘れろ。頭から押し出すんだ」。その直後、父が、同じ表情で言う。「腕を出すんだ、ルーカス」。いきなり、何のことかと戸惑うが、「腕を伸ばせ」の催促にようやく理解して、後ろを振り返るルーカス(2枚目の写真)。そして、微笑むと腕を高く掲げる(3枚目の写真)。その手にとまる巨大なイヌワシ。アダムだ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

「僕が 見つけたんだ」。「彼が お前を見つけたんだ。お互いが見つけ合ったのかもな」。喜びながらも、ルーカスは昔付けた足環を外してやる。「何してる?」。「これで自由になれる。永遠にね」。そう言ってアベルの頭を撫でてやる(1枚目の写真)。この後、アベルは飛び去って行った〔もちろん、気が向けばルーカスを見に戻ったことであろう〕。映画の最後。アベルの巣では、雌ワシを迎えて、新しい生命が誕生しようとしていた(2枚目の写真)。卵にヒビが入ったところで映画は終わる。
  
  

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