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300 mil do nieba 天国への300マイル

ポーランド映画 (1989)

1985年に実際に起きた2人の兄弟による「共産圏からの脱出」劇を映画化したもの。実際に起きたことは、ポーランド東南端のデンヴィッツァ(Dębica)に住む12歳と15歳の兄弟がトレーラーの下に隠れてスウェーデンに逃亡したものだが、映画では、そこより100キロほど北東のキエルツァ(Kielce)郊外に住む2人の兄弟が全く同じような形でデンマークに向かって逃げる。後で映画を観た本人の感想では、①劇的になっている(架空の人物を追加して、逃避に恋を絡めている)、②「凍えるような寒さ」と「恐怖」はもっとひどかった、とか。それは、ただ単純に逃げるだけの、苛酷極まる逃避行だった。キエルツァからデンマーク行きのフェリーの出るシフィノウイシチェ(Świnoujście)までは高速道路を使った最短ルートでも670キロあり、これは420マイルに相当する。題名の300マイルの根拠がよく分からない。全線が高速道路ではないので、平均速度を時速70キロとすると、国境通過を含めて10時間ほどトレーラーの下で頑張ったことになる〔フェリーの中で、さらに12時間〕。もう1つ分からないのが、どうやって映画を作ったか? ネット上〔ポーランド語〕で情報を探したが、映画が「いつ」作られたかについての情報はなかった。このことに拘るのは、ポーランドでの劇場公開が1989年10月30日だからだ。「連帯」が合法化され、共産党政権下での市民的自由が認められたのが1989年4月5日、共産党に有利な部分的自由選挙が実施されて「連帯」が勝利したのが1989年6月18日。こんな緊迫した政治情勢下で、共産主義の圧迫とそこからの脱出を描くような映画制作を、どういうタイミングで企画すれば10月30日に間に合うのだろうか? これは主演する2人の子役の年齢にも関係する。共産党体制化で撮影を始めることはあり得ないので、1989年6月から撮影に入ったとすれば、脱出を企画した弟を演じたヴォイチェフ・クラタ(Wojciech Klata)は1976年1月27日生まれなので13歳、渋々付いて行った兄を演じたラファウ・ジモフスキン(Rafał Zimowski)は1974年9月29日生まれなので14歳ということになる〔1歳半しか違わない!〕。しかし、映画を観ると、ヴォイチェフはどう見ても12歳を超えているとは信じられないし、ラファウは15歳くらいに見える。一体どうなっているのだろう? ただ、ヴォイチェフの映画初主演作『Amerykanka』(1988)や、その後のTV主演シリーズ『Dekalog, jeden』(1988)〔下の写真〕を見ても、同じような顔なので、童顔タイプなのかも。
  

失業中の両親をもつ2人の兄弟、双子の弟までいて、生活は楽ではない。父は鬱状態で、すぐガミガミ言うし、家はバラック同然。増築して住環境を良くしようと自分で煉瓦を作っていると、役人らしい男が現れ、違法行為だと言いがかりをつける。野鳥に興味がある兄は、学校では、元教師だった父を追い出した「奴」が教師に納まっているので、事ある毎に盾突く。ガールフレンド〔映画化にあたり創造された人物〕も犯罪者の娘なので、教師からの覚えは最悪。だから兄は、ガールフレンドと一緒に「西」に逃げたいと思っている。弟は、アコーディオンが大好きで、いつかルイジアナ州へ行ってブルースを演奏するというのが夢。「西」の自由の世界へ行くことを積極的に考えたのは弟の方で〔実話とは逆〕、大型トレーラーの車体の下にある小さな箱状の空間に隠れることを兄に提案する。しかし、それはあくまで、自分とアコーディオンと兄のための案だった。ところが、両親宛の手紙を残し、真夜中に家を抜け出すと、そこには兄のガールフレンドも来ていた。パーキングに入って来たデンマークの大型トレーラーに潜り込もうとするが、3人が入るには狭すぎる。弟はすぐに入るが、兄とガールフレンドが行く行かないでもめているうちに、トレーラーが弟を乗せたまま動き出してしまう。弟を1人で行かせるわけにはいかないので、バイクを盗んで後を追う2人。しかし、慣れない運転のため途中で転倒し、ガールフレンドは重傷を負う。兄は、弟の後をヒッチハイクで追いかけようと道路上を走っているうち警察に保護されてしまう。一方、弟の乗ったトレーラーは林の中のパーキングに停まり、運転手は途中で拾った女性とよろしくやっている。兄を護送中の警官が、不審車両として検問したことで、兄と弟の奇跡的な再会が実現する。この前後の部分は、すごく不自然で、実話通りに最初から2人だけで逃げた方が遙かに良かった。狭い空間に兄弟とアコーディオンが詰め込まれた結果、アコーディオンが兄によって捨てられる。途中一番緊張するのは、バルト海に臨む港町シフィノウイシチェでの出国の厳しいチェック。ここで弟の事前対策が生きる。デンマークに無事入国した2人は、警察に保護され、サンホルム難民センターに収容される。兄弟のことを聞いて、やってきたのが、①ポーランド出身で、難民の子供達を撮っている女性ジャーナリストと、②ポーランドの大使館員。①のジャーナリストが、②の大使館員の策謀を封じてくれ、2人は強制送還ではなく亡命が許可される。最後まで乗り気でなかった兄を決断させたのは、両親からかかってきた電話だった。父の「二度と帰ってくるな」と言葉は印象的だ。実話の兄弟は別々の里親に引き取られ、兄はスウェーデンで暮らし、弟は自由化された後にポーランドに帰国した。

ヴォイチェフ・クラタ、ラファウ・ジモフスキンの2人の子役のうち、幼い方のヴォイチェフはTVの常連で、この映画の後も、『コルチャック先生』(1990)〔下の写真〕など数本の映画にも出ている。一方のラファウはこれが映画初出演で、すぐ俳優をやめてしまう。2人ともポーランド人らしい灰色の瞳が特徴。


あらすじ

渡り鳥の観察が趣味の14歳のイェンドリクは、早朝、一人でベッドを抜け出すと、近くの池まで野鳥観察に抜け出していく。両親は失業して久しいので、住んでいるのは郊外のバラックのような場所だ(1枚目の写真)〔なお、実話の兄に親しかった人は、「あんなバラックには住んではいなかった」と指摘〕。池は完全に凍りついている。実話では10月に越境しているが、キエルツァの平均最低気温は、10月20日過ぎに0℃になるので、映画の撮影時期は平均最低気温がマイナス5℃以下となる12月に入ってからであろう(デンマークの難民キャンプに着いてクリスマスを迎える)。11歳のグジェイシェクは、兄がいなくなったのに気付き、大好きなアコーディオンを持ち、お邪魔虫で後を追う。そして、茂みのそばで鳥から見えないようにメモを取っている兄のそばに寄って行く。「邪魔するな! 明日まで生き残れると思うなよ」(2枚目の写真)。「そんな口…」。「今、何時だ?」。「7時32分」。「どこへ飛んでいくの?」。「北さ」。「どうやって北が分かるの?」。「嗅覚がすごいんだ」〔渡り鳥が行くべき方向を知るのは、①太陽の位置関係、②星の位置、③地磁気などの説があるが、ミズナギドリだけは嗅覚。こうした特殊例を知っている兄は、かなりの専門家→後で地元の大学とコンタクトしていたことが分かる〕。「兄ちゃんと同じだ。家に帰ろう。父さんを手伝おう」(3枚目の写真)。「そのハルモニウムが、お前の頭にブチ当たるといい」。「アコーディオンだ」。2人の仲の良さがよく出ている。
  
  
  

バラックのそばでグジェイシェクが遊んでいると、そこに1人の男がやってきて、「お父さんは?」と尋ねる。「あっち」。男は、泥土の山を歩いて父が作業している現場に向かう。「こんな所で工場を… あんた、カトロスキーさんだね」。「何の用だ?」。「要点を言おう。これは違法な工場の可能性がある。だから、様子を見に来た」(1枚目の写真)。「工場なんか操業しちゃいない。自分達のために煉瓦を作ってるだけだ」。小うるさい共産主義的な小役人が、権威に笠を着て反逆的な非党員を虐めている感じだ。「税金も払っとらんし、許可も得とらん」。「金が欲しいのか?」。「おいおい、こんな衆人環視の中でか? 2人だけで話そう」。ここで、イェンドリクが口を出す。「でも、父さん、そんなのおかしいよ。増築に使うだけじゃないか。そいつに言ってやれよ。住むとこもないし、煉瓦を買うお金もないんだって。学校をくびになったことも」。この最後の言葉が気に食わなかったのか、父は、「口出しするな」と叱る。それを聞いていた母も、「賄賂を取りたいなら、金持ちのとこに行きなさいよ」と文句を言う。「やめろ、バルバラ」。情けない父。行動に出たのは、グジェイシェクだって。男の背中に石をぶつけて笑ったのだ(2枚目の写真)。しかし、この行為が男を怒らせてしまう。「一時が万事だ。この工場は封鎖する」と言って、地面を蹴飛ばす(3枚目の写真)。このワン・シーンの中に、家族4人の性格がよく出ている。
  
  
  

高等専門学校の1年生のイェンドリクは、3年前に父から教師の仕事を奪った憎き男の授業を受けている。「スターリン主義は 悲劇を生み出しただけだ。我々の現体制は、この考え方を間違いとし、以前のどの時代より、安全と平和を達成することができた」と話すのを聞き、イェンドリクが手を上げる。「それは正確じゃありません。先生は、以前、他の体制の時も、安全と平和が達成されていると言ってましたね」(1枚目の写真)〔イェンドリクは1年生なので、どうして過去のことを知っているのか? 鬱病気味の父から、毎日恨みつらみを聞かされていたのか?〕。教師に発言を制止されると、「じゃあ、父を連れて来ますよ。きっと、先生がスターリンを大好きだったことを思い出させてくれるでしょう。そしたら、父に言ったことを撤回しますか?」。「お前の父親は…」。横から、イェンドリクの彼女のエルカが割り込む、「日和見主義じゃなかった」。これに怒った教師が、エルカを教室から追い出し、イェンドリクも後を追う。エルカに追いついたイェンドリクは、「明日の朝10時に駅で。一緒に逃げよう」と言う。「どこへ?」。「西へ」(2枚目の写真)。
  
  

イェンドリクは、さっそく駅に行き、クドヴァ(チェコスロバキア国境の町)行きの列車が10:02発だと確かめる(1枚目の写真)。翌日、エルカが家を出ようとしていると、航空法違反で軽飛行機の免許を停止され収監されていた父が、急に顔を出し、エルカの邪魔をする。ようやく家を出られた時には、既に数分遅刻していて、駅まで走っていったが、列車は出た後だった。怒ったイェンドリクに、父のことを弁解し、「明日、もう一度、やり直しましょ」と言うが、「それとも、1年後かい?」といなされてしまう。「私と一緒に逃げたいんじゃないの?」(2枚目の写真)。「もう、いないかも」。「信じないの?」。「ああ」。「なら、なぜ1人で行かなかったの?」。この言葉で、2人は仲直りする。このエピソードは、実際に起きた部分ではなく、映画化に当たって追加した部分である〔前述の、実話の兄に親しかった人は、「エルカのような女性はいなかった」と指摘〕。映画化にあたり追加された部分、エルカに関するエピソードは、何れも不出来で、すべて削除して、実話の逃避行だけにした方がずっと良かった。このシーンでも、①チェコスロバキア国境まで行っても、その先どうするか全く決めていない、②イェンドリクはプラットホームでエルカを待っていたが、切符を買っていたようにはみえないし、荷物も持っていない。③そもそも、旅行の費用などあったのか? など、不自然な点が多すぎる。
  
  

煉瓦を兄弟で作っていると、父が現れて、「どうかしてるんじゃないか? あの子を機械に巻き込むつもりか?」と、弟に作業をさせたことで 兄を叱る(1枚目の写真)。兄:「煉瓦を作ってただけだ」。父:「俺の仕事に手を出すな」(2枚目の写真)。「その仕事って 何なんだよ?」。「口答えするな」。「家族はどうなっちゃうの? 何年も辛い思いをして、なぜ貧しいままなの?」。「物事は、そんなに単純じゃないんだ」。「じゃあ、単純にしてよ」。計画性がなくて、人生を捨てたような父の姿に、イェンドリクが失望している様子が分かる。行動力では負けるイェンドリクが、弟に引きずられる形で逃亡に参加する背景は、この「家族を顧みない父」への離反にある〔実話の弟に対するインタビューの中で、「兄から誘われた」と話しているので、全く逆〕。
  
  

グジェイシェクが、小さな出張所に1人だけ勤務している役人の所に出向く。「何の用だ?」。「申請です」。「何の申請だ?」。「パスポートです」(1枚目の写真)。「どこに行きたいんだ?」。「みんなが行きたがるとこへ」。「西で何がしたいんだ?」。「僕の問題です」。「君は、何でも思い通りになって、好きな所に行けると思うのかね? これは、君 個人の考えか?」。「そうです。僕は犯罪者じゃありませんし、借金もありません。だから、どこでも好きな所に行けるんですよね?」。相手の反応から「不可能」と悟ったグジェイシェクは、「怒らないで。僕が思っただけで…」と申請書を取り戻そうとするが、当然、返してくれない(2枚目の写真)。相手が小学校の6年生といえども 反逆者となる可能性があるので、将来の証拠品は没収しておかないといけない。全体主義の国家らしいやり方だ。グジェイシェクは「さよなら」と言って出て行き、役人はファイルボックスに申請書を仕舞いこむ。グジェイシェクは、これでポーランドから逃げるには、見つからないよう隠れてするしかないと悟る。
  
  

先日訪れた小役人の悪意ある報告の結果、役所から届いたのは200万ズロチ(現在の日本円で凡そ100万円)の追徴税の書類。父は、妻に「工場で働くよ。金が稼げる」と話すと、妻も「針仕事を始めるわ」。ところが、そこにイェンドリクが現れ、「僕も手伝うよ」と申し出ると、「ありがとう」ではなく「構うな」。この父親、イェンドリクに対し非常に冷たい。次の日、母が、納屋のような場所で洗濯物を干していると、置いてあった小さな布箱が急に開き、グジェイシェクが顔を出す。「4時間17分49秒だ、行けるよ」。アコーディオンも横に置いてある。これは、トレーラーの下に隠れて逃げる予行演習だった。その時、パチンと音がする。「ネズミが罠に捕まったんだ」。ネズミは、出国検査の犬の注意を逸らすためだ。嬉しそうに母に笑って見せるグジェイシェクだが、その場の思いつきと口だけの兄と違い、弟の計画性と実行力は抜群だ。その後、兄が再び野鳥の観察に行き、弟が邪魔をする場面がある。兄は、氷ついた池の上を うつ伏せになって進みながら、鳥に近付こうとしている。その時、脱出計画を弟に打ち明けられたらしく、「なぜ、アメリカなんだ?」と尋ねる。「ルイジアナがあるからさ。嫌なら、兄さんだけニューヨークにいりゃいい。バラバラになるけどね」。「なんでルイジアナなんだ?」。「アコーディオンでブルースが弾けるから」。「バカか」。「幾ら稼げるか知らないだろ?」。「ポーランドを逃げ出してアメリで黒んぼになりたいのか?」。「だから?」。ここで、兄は鳥に近付いたので、「黙ってろ」と命じる。「一緒に行こうよ。父さんの手伝いなんか したくないだろ?」。そして、わざとアコーディオンを鳴らし、その音に驚いた鳥が逃げていってしまう(2枚目の写真)。兄は、「どあほ」と悪態はついたが、それ以上は叱らない。グジェイシェクは、「これ見てよ」「トラックで逃げるんだ」と言い、寄ってきた兄に大きなトレーラーの写真を見せる(3枚目の写真)。「シフィノウイシチェの駐車場でトラックに乗り込むんだ」。「なぜ、港でしない?」。「国境で捕まりたいの?」。「エルカも一緒だ」。「何で?」。「エルカだからさ」〔実話では、前述のように兄が主導するが、その理由は、「西へ行きたい」からではなく「ソ連が怖かった」から〕。
  
  
  

その夜、午前2時、2人は出かける用意をし、イェンドリクが机の上に置き手紙と、1500ズロチ(≒750円)の現金を置き〔その当時の2人にとっては、かなりの金額〕、横に張ってあった写真の中から、母とマリア様の写真をはがす(父の写真はない)。グジェイシェクはもちろんアコーディオンを背負い、祖父の形見の懐中時計をもらう(1・2枚目の写真)。そして、部屋からこっそりと立ち去る。映画では、少し後で紹介されるが、残していった手紙の内容は、「親愛なる両親へ。ごめんなさい。家出したのは、あなた達のせいではなく、別の理由からです。2日間警察には通報しないで下さい、でないと死ぬかもしれません。来週には戻ります。母さん、体には気をつけて。イェンドリク」「母さん。イェンドリクは悪くないよ。僕たち一緒に決めたんだ。グジェイシェク」。
  
  

次のシーンでは、エルカを含めた3人が、道路沿いに隠れて、やって来るトラックを見定めている。運よく、F12型のトレーラーがパーキングに入ってくる。3軸タイプで、2軸の後部に身を隠すことのできる小さな箱が付いているタイプだ。しかも、ソ連やポーランドや東ドイツの運送会社ではなく、デンマークと書いてある。最高の組み合わせだ〔この時、グジェイシェクは「3時間で海だ」と言うが、前述のように、もし彼等がキエルツァにいるとすれば、その3倍の時間はかかる〕。トラックまで近付いていった3人は、さっそく車体の下に入り込む(1枚目の写真)。しかし、グジェイシェクは予定通り「箱」の中に入れたが(2枚目の写真)、残り2人にはとても無理だ。「くそっ、どうやったら入れるんだ。ちゃんと計算したんじゃないのか?」(3枚目の写真)。「2人分だよ」。「アコーディオンを捨てろ」。「嫌だ」。
  
  
  

エルカはイェンドリクに、1人で行くように勧めるが、兄は再度アコーディオンを捨てるよう強く言い、弟から「失せろ、怪物め」と罵られる。弟の方が確信的だけあって、強い。その言葉を聞き、黙って立ち去ろうとするエルカ。慌てて追った兄が「君と一緒じゃなきゃ、行かない」と煮え切らないうちに、トラックのエンジンがかかり、弟だけを乗せて動き出してしまう(1・2枚目の写真)。兄よりは行動力のあるエルカは、停めてあったバイクを盗み、2人でトラックを追いかける(3枚目の写真)。ついでながら、このシーンも、映画化にあたり追加された部分〔もっと正確に言うと、2人はワルシャワまで別の車に便乗し、そこからトレーラーの下に隠れる〕。
  
  
  

この映画の中で、一番不出来な2シーンの最初。道路の工事区間に入り、側溝に寄ってきたトラックに押し出されるように路肩から斜面にころがり落ちるバイク(1枚目の写真)。しかし、なぜトラックの後ろを「抜かずに」ゆっくり走行していたのに、突然、トラックの右側(日本のような左側通行の国では、トラックの左側)に割り込んだのかは不明で不自然。事故を起こすという筋書きのために、わざと割り込んだとしか思えない。この事故で、エルカは重傷、後ろに乗っていたイェンドリクは軽症。エルカは救急車で病院に運ばれたが、バイクの盗難犯ということで警官も同行している。イェンドリクも同行していれば、警官に拘束されているはずなので、どうやって病院まで行ったのかは不明。医者は、尋問しようとする警官を押し切ってエルカを手術室に入れるが、病院内に潜入したイェンドリクが、隙を見てエルカを病院から連れ出す(2枚目の写真)。タイミングから見て、手術前のはずなので、無謀すぎないだろうか? それはまあいいとしても、連れ出した後、イェンドリクは近くのスクラップヤードのような所に重傷のエルカを担ぎ込み、「きっと迎えにくる」と言って去って行く(3枚目の写真)。エルカは自力で動けるような状態ではないので、病院に残しておいた方が、予後のためにも良かったと思うのだが。デンマークについてから、エルカが女子少年院に収容されたと知らされるので、結局、この逃避行は無意味だったことになる。どうせ、映画化にあたり追加するのなら、もっと説得力のある筋書きにすべきだろう。
  
  
  

映画とは、順番が異なるが、1人になってしまったグジェイシェクについて簡単に紹介される。トラックが自分一人で動き始めた時、心配するかと思いきや、「兄ちゃん、ここ最高!」と叫ぶなど、やる気満々だ。ただ、その日は12月にしては珍しい雨だったので、前輪に巻き上げられた水滴がまともにグジェイシェクを襲う。特に陸橋の下のアンダーパスを通った時は、貯まった水を盛大に撥ね上げ(1枚目の写真)、グジェイシェクはずぶ濡れ。雨とはいえ、気温は氷点に近いはずなので、これは辛い(2枚目の写真)。そのうち、トラックは急ブレーキをかけ、グジェイシェクは危うく「箱」から飛び出しそうになる。運転手が ヒッチハイクの女性を拾ったのだ。
  
  

一番不出来な2シーンの2番目で、最悪の箇所。なぜか兄が道路上を走っている。ヒッチハイクをするつもりはなさそうなので、走ることに何の意味があるのか? そのうち、警察車両に見つかり保護される(1枚目の写真)。警官が無線で、「少年のIDは不明。ŚwinoujścieかNovogardの保護施設まで連れて行く」と言う〔Świnoujścieは元々2人が向かおうとしていた600キロもかなたの町、Novogardという地名は存在しない。普通なら、近くの警察まで連れて行けばいいところだ。ドイツ語の字幕では「署まで連れて行く」になっているが、映画では、Świnoujście, Novogardとはっきり発音している。脚本のミスか?〕。次に無線から、「40キロ地点のトラックを調べろ。何時間も森の中で停まったままだ」という指令が入る。警官が、道路から50メートルほど入った所に停まっているトラックを発見、その前に車両を停める(2枚目の写真)。辺りはもう暗くなっている〔キエルツァの12月の日没は15時30分頃〕。降りて行って、運転手と同乗の女性にパスポートの提出を求める。イェンドリクがトラックを見ていると、車体の下から弟が顔を覗かせる。それを見た兄は、警察車両のキーを抜き取って、弟のところまで隠れて近付いて行くと、弟と一緒に「箱」に入る。そして、次のシーンでは、もうトラックが走っている。ここで、大きな疑問1。こんな偶然は、あまりに出来すぎている。たまたまトラックが女性を拾い、森で性行為に及んで時間を潰している間に、偶然兄が警察車両に保護され、その車両がトラックを見つける。実話でない部分をプラスしてハラハラ感を増したいのは分かるが、あまりにずさんだとかえって興を削ぐ。大きな疑問2。兄が警察車両のキーを盗ったら、当然、警官車両は動かない。トラックの停まっている道は狭く、警官車両はそれを塞ぐように前に停まったのに、どうやって道路に出たのだろう? 百歩譲って通れたとしても、普通は、まず先に警官車両が去り、その後からトラックが出るはずだ。キーがなければ警官車両は動かない。さらに、百歩譲って、トラックが先に出たとしても、警官は警察車両に戻り、キーも保護したはずの少年もいないことが分かれば、トラックに隠れて逃げた可能性を疑い、無線で通報しなかったのだろうか? この実話にない追加シーン、穴があり過ぎる。
  
  
  

トラックは、高速道路に入りスピードを上げる。片道2車線の高速道路だが、車線は一切引かれていない。それに、夜のせいか車通りはゼロに近い。珍しい光景だ。一方、父母は、手紙を無視し、先日グジェイシェクが訪れた小さな出張所に行き、2人の家出を通報した。役人との会話は途中から始まっている。「くり返すが、息子たちが家出したのは初めてだ」。「息子さん達が、西に行きたいと言ったことは?」。「どこだ? 西だと? 言うもんか」。「何か問題を抱えていたのでは…」。母:「お願いです、捜して下さい」。「捜査は、失踪1ヶ月後から始めます。それが規則です。それまでには、きっと戻りますよ。そもそも、手紙が残されてる。だから、失踪とは言えません」。「2人は手紙だけじゃなく、金も残して行った。こんなの矛盾してる」。「理解できないことは、一杯ありますよ」。「捜してくれ!」。「通報は受け取りました」。如何にもお役所的だが、そこは共産圏、両親が帰ると、役人は先日グジェイシェクから奪ったパスポートの申請書を取り出し、電話で警察に通報する。この辺りが怖い。一方、トレーラーの下の「箱」の中は、2人とアコーディオンには狭すぎる。弟が、「ねえ、知ってる、ルイジアナじゃ雪が降らないんだ」と話しかけると、兄は「バカな話やめろ。僕は、彼女を残してきたんだぞ」と言う。「来月には、ブルースのコンペがあるんだ」。2人の会話は噛み合わない(1枚目の写真)。そのうちに、兄が「もう我慢できん」と言って、アコーディオンを投げ出す(2枚目の写真)。一番大切なものを失って泣く弟(3枚目の写真)。それでも、反発せず、兄に抱かれて泣く所が可愛らしい。
  
  
  

一方、通報を受け取った警察の指令センターでは、パソコンの画面に両親の情報が打ち出されている。

Tadeusz Kwiatkowski〔
歴史の教師を1982年〔3年前〕に解雇。1983年に再解雇。現在は、不定期雇用。鬱病。

Barbara Kwiatkowska 〔
無職。大学で社会学を専攻中に中退。病歴:麻疹、猩紅熱、肺炎。

海外に居住する家族なし

その後で、係官が指令を出している。「すべての国境検問所に対する注意喚起。不法な越境の可能性あり。Kwiatkowski Andrzej〔〕、1974年8月30日生まれ、Kwiatkowski Grzegorz〔〕、1977年11月20日生まれ、TadeuszとBarbaraの子供。Kwiatkowski Andrzej、キエルツァの高等専門学校の1年生。鳥類学についてJagielonski大学〔キエルツァの南南西100キロ〕にコンタクト歴あり。Kwiatkowski Grzegorz、キエルツァの小学6年生。他に情報なし」。実に用意周到で恐ろしい。
  
  

国境に近付き、弟が、「これ、犬 対策だよ」と言ってスプレーを取り出す。兄:「西に向かってるって、どうして分かる? 東ドイツに行くんじゃないか?」。「犬は、これが嫌いなんだ」。噛み合わないところは相変わらず。弟が用意周到で確信的なのに、兄は積極的でも確信的でもないのも同じ。そのうち、弟は箱の中に、スプレーを吹きかけ始める。そして、兄の顔にも(1枚目の写真)。そして、トラックが停止すると、以前、自宅の納屋で捕まえておいたネズミを2匹取り出し、2番目の犬対策とする(2枚目の写真)。
  
  

トラックが、検問所の検査室に入って行く。中央に溝が作られていて、トレーラーの底を調べられるようになっている(1枚目の写真)。トラックが溝の上に停止すると、係官が下に入って行く(2枚目の写真)。2人は「箱」に潜り、自分達の頭の前に毛布を置いているため、外から見ただけでは中に人が隠れているとは分かりにくい。そのために、臭いを感知する犬がいる(3枚目の写真)。犬は吼えるのだが、係官が行ってみると、ネズミの死骸を2匹発見したので、そのせいだと思い検査はパスする。ここは、一番ドキドキすると同時に、小学生のグジェイシェクの頭脳に感心するところでもある。
  
  
  

かくして、トレーラーは無事フェリーに乗り込む(1枚目の写真)。船名はŁańcut。1985年から1994まで就航していたとあるので、1985年の時点では新型船だ。シフィノウイシチェ~コペンハーゲン間は12時間。かなりの長距離だ。日本だと、大阪~別府間のフェリーが12時間なので、だいたいイメージが湧く。フェリーはポーランド船籍なので、まだ2人は油断はできない。船内で発見されたら、即、拘束されてポーランドに送り帰される。「箱」の中は真っ暗で、もちろん外の状況は全く分からないが、弟は「きっと、国境は越えられた」と兄に話しかける(2枚目の写真)。兄:「黙ってろ」。「やったんだ! これでルイジアナで演奏できる」。「思った通りになんか行くもんか」(3枚目の写真)。「どうして、アコーディオン捨てたのさ?」。「彼女、捕まったのかな…」。「兄ちゃん、どう思う? どこの国に行くのかな?」。ここでも、話は噛み合わない。フェリーの後部のランプウェー(車が出入りする扉)が閉まる。いよいよ出航だ。この頃から、弟がひどく むせ始める。家を出てから何も飲んでなくて、喉が乾燥しきったためだ。激しく咳き込み、「何か飲ませて!」と叫ぶ。「母さんが恋しい」とも。兄は、「お前の考えだろ。アコーディオンと一緒にさ」。「飲物 寄こせよ!」。「ルイジアナで演奏したくないのか?」。「喉が渇いた!」。これで、ようやく、口だけの兄が動き出す。体中汚れているので、赤い布を髪に巻き付け、「箱」から這い出して行く。
  
  
  

フェリーは、基本的に、航海中は車両甲板は立入禁止になるので、人の気配はない。兄は次から次に乗用車を覗き込んで飲物を捜す。ようやく1台の車の中で飲料缶の箱を見つけ、窓の隙間から腕を突っ込んでドアロックノブを上げてロックを解除。缶は8個入りのパックなので、そのまま持って行った方が簡単なのに、なぜかわざわざポリの封印を破り5個取り出して抱える。その時、甲板で音がしたので、ドキっとして顔を上げる(1枚目の写真)。その間、弟は、兄が飲物を持ってきてくれることを、神に祈っている(2枚目の写真)。結局は何事もなく、兄は無事に弟が待つトレーラーの「箱」に戻る。兄は、まず自分で半分飲み、残りを弟に手渡す。必死に飲み干す弟(3枚目の写真)。これで、もう安泰だ。ただ、12時間、小さな「箱」の中で身動きできずに我慢するのは辛い。
  
  
  

トラックはコペンハーゲンに着き〔兄弟は、どこに着いたか知らない〕、次のシーンでは、ガソリンスタンドに停まっている。弟が、「おしっこに行きたい。もう我慢できないよ」と言い出す。「黙れ」。「ここで、するの? パンツ濡れちゃうよ。外に出る」。結局、兄が先に出て様子を伺う(1枚目の写真)。弟は、「箱」から抜け出すと、我慢できずにトラックに向けて放尿し始める。それを見たスタンドの従業員が、デンマーク語で「トイレはあっちだ」と声をかけるが、当然、弟には意味不明だ(2枚目の写真)。それでも、従業員が近付いてきて、もう一度何か言って指差したので、弟もそれと察して放尿の途中で、トイレへと向かう。トイレでは、兄は顔を覆って泣き、弟は余分な物を捨てて大はしゃぎ。「やったね!」(3枚目の写真)。そこに従業員が現れて、「楽しそうだな?」と声をかける。何を言われたか分からない弟は、「すみません、ここ、どこの国?」と訊くが、ポーランド語なので、従業員も分からない。そうこうしているうちにトラックは出て行ってしまい、そうかと言って、スタンドの従業員も助けてくれるわけではない。
  
  
  

2人は、トラックの向かった方に、道路の真ん中を歩いて行く(1枚目)。フェリーは、コペンハーゲンの都心から2.5キロしか離れていない場所に着くため、2人の歩いた距離は少なかったはずだ。そして、すぐにクリスマス・イルミネーションで彩られた中心部に到達する。弟は、まだ残っていたクッキーを「食べたら」と言って兄に差し出す(2枚目の写真)。「警察が先だ」。「まず食べて」。「クッキー食べるために逃げてきたんじゃない」。「勝手にしたら。なら食べるなよ。病気になって体が弱り、熱が出て、息苦しくなる。これじゃ、両親を救えないよ」。疲れて、ベンチで折り重なるように寝てしまったところを、巡回中の婦人警官に「ここで寝ちゃだめよ」と起こされる。何を言われているか分からない兄は、たどたどしい英語で「ポーランドから」と言い、弟は「ルイジアナ」と付け加える(3枚目の写真)。
  
  
  

外国人だと分かり、もう1人の警官は たどたどしい英語に切り替え、「どういう意味?」と訊く。兄:「ここどこ?」。弟:「ここ、ホントに資本主義?」と問い返す。「君たちはデンマークにいる」。そして、2人が連れて行かれた先はサンホルム難民センター。映像は本物のサンホルム。2人は、着ていた汚い物を脱ぎ、パンツ1枚に。係官が英語で話しかける。「今日は、イェンドリク」。弟は名前を聞き分け、「あっちがイェンドリク、僕はグジェイシェク」と返事をする。兄は、「We is... good」と答える。英語がおぼつかない感じ。「今から、君たちは難民と認定される」。弟:「何て言ったの?」。兄:「黙ってろ。万事 順調さ」。「ここは難民キャンプだ」(1枚目の写真)。兄:「なんみんきゃんぷ?」。「君たちには、部屋と食事と医療とお金が与えられる。さらに、町へのパスポートも。パスポートを持たずにキャンプを離れることは許されない。分かるね?」。それを聞いていた弟。兄に「お金のこと言ってた?」と訊く。「多分」。「じゃあ、幾らか訊いてよ」。「黙ってろ」。「大事なことだ」。結局、兄は訊けなかった。係官がさらに続ける。「君たちは子供なので、ポーランドの両親の元に送還されるだろう」(2枚目の写真)。兄:「よく分からないが、ポーランドに戻されるらしい」。「でたらめさ」。係官が「イェンドリク、君はどうしてポーランドを出たのかね?」と訊くと、弟は「どこでアコーディオンが買えるか、教えてくれます?」と訊く(3枚目の写真)。係官は「彼は何て言ったんだい?」と兄に訊くが、返事がないので笑って去ってしまう。この辺り、コミュニケーションの難しさについて考えさせられる。英語のほとんど話せない子供だけが難民センターに来るような事態は、想定外だったのであろう。
  
  
  

2人に与えられた部屋の中で、兄は、「亡命申請をする必要があるな」と弟に語りかける。翌日(?)、2人をフォト・ジャーナリストが訪れる。ポーランド出身で、難民の子供たちの写真を撮っている女性だ。たまたま自分の出身国の子供が逃げてきたというのを聞きつけ、取材に来たのだ。カメラを構えながら、「どうして逃げ出したの?」と兄に訊く(1枚目の写真)。すかさず弟が、「両親を助けたかったから」と答える。「お金のために、こんなに大きなリスクを犯したの?」。「あそこには僕の未来はなかったから」(2枚目の写真)。黙ったままの兄に、「君はどうなの? ヒーローを演じたいんなら、もうやめなさい。なぜ逃げ出したの?」。兄:「あなたは、ポーランド人?」。「それで? 君達の申請が却下されたら、どうするつもり?」。今度もまともに答えたのは弟。「国連にコンタクトする」(3枚目の写真)。ようやく兄が、「申請通るよ。悪いこと何もしてないから」と言った後、「いつ、ポーランドを離れたの?」と訊く。「『悪いこと』って、どういう意味?」。「望むこと…」。「自由を?」。「なぜ、ポーランドを離れたの?」。「君にとって、今一番重要なことは?」。また、弟が割り込む。「亡命」。「あなたじゃないの」。黙ったままの兄。前述したように、実話では、兄が弟に「逃げる」ことを誘いかけているので、兄の性格の設定変更は、演じているラファウに可哀想な気もする。兄がこんなに内向きな理由の1つが、エルカを残してきたことにあり、そのエルカは映画だけの創造物なのだから。
  
  
  

コペンハーゲンへの限定パスポートで繁華街に出かけた兄弟。アコーディオンを買うお金が欲しくてたまらないグジェイシェクは、突然、通行人に寄って行き、家から持ち出した祖父の形見の懐中時計を売ろうとする。売値は100クローネ〔現在価値で凡そ3500円〕。すぐに買い手がついたところで、兄が気がつき、駆け寄って時計を取り上げる。「返せ!」と怒る弟。「たった1つのお祖父ちゃんの思い出なんだぞ」とたしなめる兄。弟は兄を噴水池に突き飛ばし、「100クローネあったらアコーディオンが買えたのに」〔最安で2万円〕と息巻く(2枚目の写真)。結構やんちゃで、見境がない。お陰で、兄はずぶ濡れで、街角で寒さを凌ぐことに(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、ポーランドでは、兄弟逃亡の記事が大きく新聞にも出て、両親は法廷に呼び出される。そこで、両親に不利な証言をしたのが、兄と敵対していた教師。兄弟の父親について訊かれ、「個人的に知っています。非常に衝動的な男で、それが理由で学校を解雇されました」。父は、「嘘だ」と怒り、妻は、「真実を述べたから、解雇されたのよ」と淡々と述べる。何れも、裁判官を無視した勝手な発言とみなされる。さらに、教師は、「イェンドリクのことも心配していました。彼はとても傲慢で、犯罪者の娘と仲良くしていました」と述べる。結局、裁判所の裁定は、2人に対する両親としての親権の一時停止だった。それを受けて、駐デンマークのポーランドの大使館員が兄弟の部屋を訪れる。兄弟に好意を持った女性ジャーナリストも、心配なので付いて来るが、大使館員にとっては迷惑な存在だ。館員:「お早う。まず、欲しいものはあるかね?」。兄:「ないよ」。弟の頬に触りながら、「デンマークはどうだい?」。「最高」。「ポーランドには、いつ帰りたい?」。ここで、ジャーナリストが「帰りたくない」と口を挟み、館員が「彼らと個人的に話したいので、出て行ってもらえるかね?」と要求する。ジャーナリストは、「いやよ。ここには個人的に留まるわ」とすんなりかわす。仕方なく、館員は2人に向かい、「君達は、自分の置かれた状況を理解しているのかね? 亡命申請をしたが、却下されるだろう。もし、君達が自分の意思でポーランドに戻る気があれば、私が助けてあげる」。弟:「亡命は許可されるさ」。「もし、君達が自発的に出国するなら、国外追放にはならない」「裁判所は、君達の両親の親権を一時的に停止した」。兄:「それって、僕らには もう両親がいないってこと?」。「今は、その通り」(1枚目の写真)。弟:「どうして?」。館員:「当面、私が親代わりだ。君達の両親が、帰国要望書を提出しない限り」。心配になって顔を見合わせる2人(2枚目の写真)。こうした国家的権力による攻撃の防波堤になってくれたのは、ジャーナリストだった。
  
  

2人は、ジャーナリストの仕事場を訪れる。そこには、アコーディオンが置いてあり、「メリー・クリスマス」と言って、弟にプレゼントされる(1枚目の写真)。彼女は兄に、「どうしたの? なぜ塞ぎ込んでるの?」と尋ねる。「このまま ずっと迷い続けてられないわよ。トラックに乗る前に、ちゃんと考えなかったの?」。弟:「みんな僕の計画だよ」(2枚目の写真)。「黙ってて」。兄は、この質問にも、「あなたは、どうやってポーランドから逃げ出したの?」と話をすり替え、さらに「ポーランドが恋しくない?」と訊く。「君の問題はどうなったの?」。兄は、壁に貼ってある子供達の写真に気付く。「この子達は?」。「君達みたいな子供たちよ」。「なぜ、僕達を助けてくれるの?」。「『なぜ』って? それは、君達が大した子供達だからよ。国境がないって示してくれた。出て行く許可を、誰にも求めなかった」。その時、ポーランドの両親から頼んでおいた電話がかかってくる。さっそく兄が代わってもらう(3枚目の写真)。電話ボックスの前には父もいるが、話すのは母だ。
  
  
  

兄:「母さん」。「イェンドリク。元気? メリー・クリスマス」。何か訊かれて、「ちゃんとやってるよ」。「そっちは寒くない?」。「体に気を付けて。双子にもよろしく。父さんは?」。「グジェイシェクは?」。「元気で ここにいるよ。父さんと話せる? 僕とは話したくないのかな?」。返事がない。「どうしたの、母さん?」。「別に。話し続けて」。「父さんに、大好きだって伝えて。心配するなって。お金も少し送ったよ。母さん、どうかしたの?」。返事がないので、弟が電話を代わる。「母さん」。「グジェイシェク」。涙で何も言えない弟。受話器を取り戻した兄が、「エルカはどうなった?」と訊く。「女子少年院にいるわ」。「女子少年院?」。弟が受話器を奪い、「もうすぐ亡命が認められるよ」と話す。すぐに兄が受話器を取り、「母さん」と言う(1枚目の写真)。「僕達に、ここにいて欲しい?」。「分からない… そう、そこに いなさい」(2枚目の写真)。ようやく父が電話を取る。そして、決定的な一言。「イェンドリク、二度と帰ってくるな!」。無言の兄。「聞こえてるのか?」と訊き、返事がないので父は電話を置く。それを見ている弟も、目に涙を溜めている(3枚目の写真)。この映画で、一番感動的なシーンだ。
  
  
  

場面は、急に、コペンハーゲンの夜を歩く2人のシーンに切り替わる。街角で、アコーディオンを弾く弟をじっと見つめる兄(1枚目の写真)。弟も弾きながら泣いている(2枚目の写真)。噴水池の縁石に並んで座った兄弟。弟が、「一緒にいられて嬉しいよ」と語りかけると、兄が笑って弟の涙を拭いてやる(3枚目の写真)。そして、そのまま映画は終る。随分 悲しい終わり方だ。そこには、亡命できた喜びは微塵もない。このラストが、映画全体を暗くしている。
  
  
  

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